表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
34/104

自然と生きる人

「すまないことをした。折角のお召し物に穴をあけてしまって」

「そんなことはいい。それよりも早く……」

「分かった。ちょっと待っていなさい」

 片足の、春とと名乗ったガタイのいい男は、トヨに促されると跳ねるように歩いて部屋を出て言った。

 部屋。そう、ここはトヨが矢を射られたあの件があったサバンナの地点からも見えていた一群れの集落の一つ。ハルトの家の一室だった。

 日を遮られるだけで、こんなにも涼しくなるのかと思う程に、涼しい家だ。いや、屋敷と言った方が正しいかもしれない。二階建てで、その上地下室まであるとハルトは言っていた。

 それに三人が通されたこの部屋も一辺に四人は座れるほどの大きさのテーブルと、八人分の椅子が並べられる余裕があるくらいに広い。ここに豪奢な調度でもあれば貴族の屋敷とそん色がなさそうである。

「凄い家だなぁ。ハルトさん、一体どんな仕事をしているんだろうな」

 物珍しそうに、アーニィはきょろきょろとあたりを見渡す。こんなに広い家になんて、来ることはそうそうないこと。落ち着きがないのも仕方のない事だった。

「さぁね。後で直接聞いてみればぁ?」

 アーニィと比べて、ジュリアは堂々としている。というよりも、頬杖をついて口を尖らせている様子は、不機嫌さを一切隠していないようであった。

 ジュリアはここに連れて来られてからこの調子だった。どうも、態度がおかしい。横目に見ながら、一体何がこんな態度を取らせるのか、アーニィは不思議でたまらなかった。

「そんなことよりも早く! 早く!」

 だが、もっともっとおかしな態度を取っているトヨを見ていると、その疑問が吹き飛んでしまう。見た目も相まって、子供のように体を揺らしたり、椅子をがたがたと揺らしたりしながら、ハルトが帰ってくるのを待ちわびている。

「もう、うるさいわよアンタっ! アンタがいちいちがたがた動くたびにお皿がかちゃかちゃ揺れんのよ!」

 三人の目の前に置かれてるのは、皿とフォークとナイフ、それからコップ。ハルトが何回か往復して持ってきた物だ。

「待たせたな」

 そして、再びハルトが帰ってくる。空いた手に持つのは片手で持てるように取っ手の付いた樽と四枚の燻製肉が紐でくくられ、ひじの辺りにそれを掛けていた。

「おお! 肉!!」

 身を乗り出して、トヨが肉に釘付けになる。

「まぁ、待て。さらに億。それでこっちが、地下でじっくりと冷やしておいた水だ」

 ハルトがそれぞれの皿とコップに肉と水を均等に振り分ける。

「さぁ、食え。そいつはさっき取り損ねたズクゥの肉だぞ」

 とハルトが言う間に、一足早く、トヨは両手で肉を持って、勢いよくガブリと燻製肉にがっついていた。

「……硬いぞ、コレ」

 トヨは噛み千切れない肉をもごもごとはみながらしゃべる。

「行儀悪いわねぇ。ナイフとフォークぐらい使いなさいよ」

 ジュリアは肉には目もくれずコップに注がれた水を飲む。パァ、と表情が明るくなった。

「ンー、生き返るって感じね」

「さっきも人の水飲んでたくせに……」

 アーニィは愚痴りながらも、やっとのことで切り分けられた燻製肉を口に運ぶ。着るのにも苦労したほどだから、噛み切るのも一苦労だ。けれど、噛めば噛むほどに口中に広がる凝縮された旨味と、程よい塩味が彼の表情を輝かせる。

「どうだ。うまいだおう。そいつは少し古い奴でな。新しい奴だったらもっとうまいんだが、如何せんこの足じゃあ、ろくに狩もできんでな」

「狩をされるんですか?」

 肉を飲みこみ、アーニィが尋ねる。

「ああ、それが仕事なんだ」

「じゃあ、ハンターなんですね!」

「そうだ。だが、こんな足になっちまってからは、随分とやり辛くなってなぁ。一人でズクゥみたいなのは殆ど狩れなくなっちまった。食いモンも金も、貯え頼みさ」

「だったらさ、廃業しちゃえばいいじゃないの。稼ぎの出ない仕事をし続けるなんて、バカのすることよ」

 自嘲するようなハルトへ、ジュリアは嫌味たっぷりに食って掛かる。なんてことを言うんだ、とアーニィは不味そうな顔をするが、言われた当の本人のハルトは愉快そうに大笑いをしていた。

「ジュリア、そんな言い方はないだろ」

「そう? 私は普通のことを言っただけよ」

 ジュリアは特に気にするそぶりも見せず、切り分けた肉を口に運んだ。

「確かに、お嬢さんの言う通りだ。金にならない仕事を続けても何ら得はしないからな。辞めるのが正しい判断さ」

 ハルトがそう言えば、ほらねとジュリアが得意げな顔をアーニィに向ける。

「それでも、俺はハンターを辞めないがね」

「は?」

 ハルトの宣言に、ジュリアは意味が分からないと言いたげな表情で、変な声を出した。どうして、とは聞かなかったが、ハルトは彼女へ諭すように言葉を続ける。

「ここの集落はハンターたちが仕事をするために作った集落だ。けれど、もう俺一人しかここには残っていない。食糧輸入だのなんだのが始まったせいで、俺達の仕事は大激減だ。おかげで、ハンターの需要も減った。場合によっちゃ死んじまう仕事だからな。仲間はどんどん辞めていったし、残った奴も俺を残して死んでいったよ」

「辞めた人達の方が正常ね」

「……ああ、そうだな。だが、俺は辞められない。爺さんの、それよりも前の代からずっと続くハンターの仕事に俺は誇りを持っているんだ。それを俺の代で途絶えさせるわけにはいかないんだよ」

 ま、婚期は逃しちまったがな、とハルトはまたも自嘲する。

 誇りだなんて良く分かんないわ、とジュリアはアーニィの方へと目線を向ける。正常な人間ならそんな非合理的なもののためにろくに生きていけない生活を選択などしない。それは馬鹿のすること、と彼女は一般的な考えを持っているつもりだった。

 が、隣に座るアーニィは目をらんらんと輝かせてうんうんと頷いて、ハルトの言葉に感銘を受けているようだ。そう言えば、この男もプライドがどうとか誇りがどうとか言っていたんだっけ? 男ってわけわかんない。ただのバカね、とジュリアはひとしきりあきれ返ってしまった。

「おかわり」

 全員が一斉に、そんな今の会話に合わない発言をしたトヨの方へと視線を集中させた。

「はぁ、どーしてアタシの周りにはまともな人間がいないのかしらね」

 水の代わりに乳を揉ませようとした女には、言われたくない言葉であった。

 しかし、まともな人間ではない代表格のトヨは、遠慮をしらない子供のように、ぐいぐいとハルトに自分の皿を押し付けて、さらなる肉をせがんでいた。

「トヨ、さすがにそれは押し付けがましいぞ!」

「いいじゃないか、腹が空いたんだ」

「いいかどうかを決めるのはお前じゃないだろ!」

 その二人のやり取りを見ながら、ハルトは愉快そうに笑う。

「相当空腹だったようだな。ここは素直におかわりを出してやりたいところだが、残念だがこれ以上はだせないな」

「む、なぜだ?」

「必要以上は食べない。それが俺のハンターとしてのモットーだ。悪いが、いくら客人とは言え、必要以上には出せんさ」

 む、とトヨは口を膨らませる。かなり不服のようであったが、これ以上は要求をしなかった。

「ケチねぇ」

 代わりに、ジュリアの方が毒づいていた。アーニィがそんなジュリアを睨みつける。さっきから、ジュリアのハルトへの当たりがキツすぎる。誰に対してもこんな感じな気もしないではないが、ずっと不機嫌そうなのも、なんだか変だった。

 そもそもアーニィには彼女の考えていることがさっぱり分からない。急についてくると言ったり、おっぱい触る? だのと言って来たり、彼にとっては理解不能の一言に尽きる奇行ばかりを取る。

 当然、不機嫌な理由にもちっとも思い当たらない。

「まぁ、パン位だせればいいだがなぁ。あいにく、そっちは切らしていてね。ここを離れられず、買いにいけないんだ」

「あら、どうしてかしら?」

 ジュリアの問いに、ハルトはすぐには答えを返さなかった。それどころか、答え難いのか口を一文字にしてしばらく何も言わなかった。

「ところで君たち」

 やっと口が開いたかと思えば、話頭を切り替えられる。ジュリアはふん、と鼻を鳴らして、ハルトから目をそらしてしまった。

「はい」

 代わりにアーニィが話し相手をかってでた。

「君たちは、王都でどんな後ろめたいことをしてきたんだい?」

 アーニィの心臓がどくん、と破裂するかと思う位に高鳴った。見開いた目でジュリアへ目を向ける。まさか、こいつが盗賊ってことをハルトは知っているのか? こいつのせいで疑われちまっているのか? むしろ、ハルトとジュリアには何やら言い知れない関係性でもあるのか、だったらジュリアが不機嫌な理由も分かるような気がしていた。

 けれど、彼女にも何が何だか分からないと言った具合に、眉間にしわを寄せている。

 目は口よりも物を語るとはいうが、ジュリアとアーニィにも、自分たちが王都でやってきたことをハルトに知られるような心あたりは全くない、と目で語っていた。

 ともかく、アイコンタクトでお互いこれからどうすべきかも伝達し合った。

――今は誤魔化そう――

「なんだ、お前は知っていたのか」

 しかし、蚊帳の外にいたトヨは実にマイペースあっさりと認めてしまった。ジュリアもアーニィも誤魔化そうにも誤魔化せず、すっころびそうなほどに脱力してしまう。

「トヨ! なんでお前はそんなこと言っちまうんだ! 黙ってろよ!」

「む? 黙っていた方が良かったのか? だったらそう言ってくれ。分からんだろう」

「言えるかバカ!」

「まぁまぁ、そのお嬢さんを責めなさんな。言おうが言わまいが、どっちにしろ俺には分かったことだ」

「ヤーね。一体どーゆーカラクリなのかしら?」

「良くいるのさ。王都のどっかから抜け出して北に向かい奴らは、ちゃんと道を通れば途中で食い物も水も手に入るってのに、水と食料不足に陥っちまう奴らがな。そいつらは大抵、王都から正規の道を通れないような、後ろめたい事情があるもんなんさ」

 ズバリ、アーニィ達のことだった。もっとも、後ろめたいことをしたのはジュリアだけなのだが。

「憲兵どもに通報でもするのかしら?」

「伝書鳩でも飛ばせばそれもできる。俺はそんな奴らと何度も出会って、しょっ引くのに協力したから、兵士も俺の言うことはある程度は信用してくれるしな」

 かなり悪い状況だった。トヨ、アーニィは無実だが、ムツキの一件をほったらかして逃げて来ている。捕まってもおかしくはないし、無実を証明することもできそうにない。

 そんな状況にあることは、トヨでも察しているようだ。アーニィを横目で見て、

「不味いのならやるぞ」

 と、臨戦体型に入ろうと、腰を浮かせている。

「ダメだトヨ。命の恩人にそんな真似はしたくない」

 少なくとも、水や食料を貰って、命を助けてもらったのは事実。そんな相手にこうやって弱みを握られるようなことをされるなんて予想外この上ない事だが、だからと言って、ここで黙らせてしまうのは気が引ける。

「そうね、寝覚めの悪いことはアタシもしたくはないわ」

 ジュリアもそれに賛同するようで、警戒する様子も見せずに椅子に堂々と座っていた。

 二人がそう言うのなら、とトヨも浮かせていた腰を再び下ろした。

「君らにかかれば、型押しの俺なんてあっという間だろうが、人情のある君たちに感謝するよ。それに、通報する気なんざ、サラサラないんだ」

 ハルトがそう言うと、三人の緊張の糸がふっ、とほぐれる。

「そんな人情の分かる君たちに、一つ頼みたいことがあるんだ」

 だが、それでもハルトは、三人を普通に逃がす気はないようだった。


ども、作者です。こちらは相変わらず更新可能です。とはいいつつも、もう2話目と考えると、のんびりしている時間はないかもしれない。


今回はキーマン登場です。この章だけでですけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ