表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
33/104

サバンナの中で

北へ。トヨが気配を感じる方が北だからと、三人は北へと行軍していた。

だが、それは決して楽な道のりではない。

歩くのは、乾いた風に背の高い草が揺れ、空からは常に強い日差しが降り注ぐ、人間から容赦なく水分を奪って行く、サバンナの道なき道。

「……あつい……」

「言わなくてもいいわよそんなこと。ひたすらにクッソ暑いのは分かってんだからさ……」

 夜が明け、歩き始めて数時間。アーニィとジュリアは顔に大粒の汗を浮かべながら、暑さと無駄な格闘を強いられていた。

「あー、やっぱり無理! 我慢できないわ……メガネ、水ちょーだい」

「ダメだ。なけなしのお金で俺が買ったんだ。一口もやるもんか」

 三人が王都を出てしばらく歩いていた時に、彼らは旅の商人に出会った。咲江急ごうとするトヨを他所に、アーニィは彼から水を買ったのだった。水稲の値段込みで、ちょうど持っていた小銭分。もしものために残しておいたお金で買った、大切な水なのだ。

「もー! ケチ!!」

「貴重な水なんだ。ジュリアも盗んだ宝石と取り換えてもらえば良かったのにな」

 ジュリアが王都で盗みを働いていたことを非難しているらしく、アーニィの口調は厭味ったらしい。それにジュリアがムキー! と顔を赤くする。ついでに湯気まで立っているが、これは怒りのせいなのか、ここの暑させいなのか。

 宝石をケチったことはジュリアも後悔しているが、それは自分のせいだから仕方がない。ムカつくのはこ~んなメガネに生言われてしまっている、その事実だった。

 槍にきちんと刃が付いていれば、今ここで突き殺している。今ももともと槍だった棒で殴り殺してもいいのだが、今はそんなことはしていられない。

 それよりも、どうすればこのメガネから水をまき上げられるかが重要なのだ。

 さて、とジュリアは一瞬考えた。

「あ、そうだ」

 そして、一瞬で思いつく。水を一口含んだアーニィへ、ジュリアはその思いつきを自信満々に言い放ってみせる。

「ねぇ、おっぱい揉ませてあげるから、水寄越しなさい」

ブホッ! とアーニィは隣からの爆弾発言に驚いて、水を吹きだしてしまう。

「あら、一瞬で考えた割には、効果テキメンね」

「な、何言ってんだいきなり!!!」

 動揺し、ジュリアが怒っていた時よりも顔を真っ赤にさせている。ああ、やっぱりこいつは初心だ。これならばうまくいくとジュリアは確信した。

「悪くない取引だと思うけどなぁ~。私のおっぱい、そこんじょそこらの女よりもおっきいしぃ~」

 ジュリアはアーニィの下心を刺激するために、わざとらしくなまめかしくて甘ったるい声で誘惑する。

 確かに、それは男としてはひじょ~~~~~に嬉しい提案である。背筋を伸ばしてボン! っと前に突き出しているジュリアのおっぱいは、確かにデカい。これ以上はアーニィも見たことはない。そりゃあ、触りたいのが男の性だ。

「い、嫌だ!! そんなことはしない! だいたい、前の恥じらいはどこに行ったんだよ!!!」

 しかし、アーニィの答えはノー。折角の提案ではあるが、彼の言う前、つまりはおっぱいをあけっぴろげにさらされてしまって、不可抗力で彼女の生乳を見てしまったがためにボッコボコにされてしまった経験がある。あれだけのことをされたんだ、何か裏があるに違いない。とどうしても思ってしまう。裏も何も、水を寄越せと言っているのだが。

「まだ顔の腫れだって引いていないんだ。殴られ損じゃないか」

 あー、とジュリアもそのことを思い出した。しかし、今の彼女にとっては、その程度のことでしかなかった。

「いいのいいの。もうそんなこと気にしてないわ。今はアタシの命の方が大事だもん。なんならぁ~、あの一件もその水で流してあげてもいいわ」

 一体全体、アーニィの身の回りの女の子は、どうしてこうもそうでなくていいところで思い切りがいいのやら。

 呆れるとともに命よりも大切な剣のための金を支払って手にした水を、そんな条件で手放すと思われていたことが癇に障った。

「絶対にやるもんか!」

「あ、そう。じゃあこの前のことも一緒に意趣返しして、水も奪っちゃおうかしら?」

 ジュリアも出血大サービスをしてやろうと思ったのに断られた上に、思い出したこの前の怒りを一緒に返してやろうじゃないの、と元槍だった棒を抜き出す。

「刃が無くても、容赦はしないからな」

 それに気づいたアーニィも、二本の短剣を鞘から抜き出す。

 一触即発。まさにそんな風な二人に触れたのは、第三者の声であった。

「二人とも! そんなところでギャーギャー騒ぐよりも、早く進まんか!!」

 二人よりも先を歩くトヨが、振り返って怒号を飛ばす。

 ワンピースを捲り上げて、おへそが出るあたりで結び止め、下はホットパンツ姿の彼女は、実に風通しが良く、涼しそうな格好だ。露出した肌にも、ましてや顔にまで汗一つかいておらず、表情も込みでクールな感じだ。

 そんなトヨを見た二人は、ここの乾いた風と、ふざけているとしか思えなかった陽光を思い出す。

 どっと、急に汗が流れた気がして、二人は同時に肩を落とした。

「やーね。この暑さ」

「全くだ。他のことが全部どうでもよくなるくらい、太陽が憎らしいよ」

 二人の衝突は、どうやら不発に終わったらしい。

 再び歩き出した二人は呆れ顔でトヨの後姿を見つめていた。

「しっかし、あの子どうなってんのかしら。こんなに暑いのに、涼しい顔をしちゃってさ」

 ジュリアの言う通り、トヨはいつも通りの様子でぐんぐん進んで行く。

「慣れてるんだよ。あいつ、生まれが砂漠だから」

 アーニィはオニキリマルでの一件や、初めて出会ったときのことを思い出しながら言った。

「あんな砂漠に住む奴が良くいたもんねぇ。初めて知ったわ」

「初めてって、そりゃあそうだろ。あいつは自分のこと何も言わないし……」

「そっちじゃないわよ。砂漠に人が住んでるってこと。てっきり旅人しかいないと思っていたわ」

 え、とアーニィは素っ頓狂な声を上げる。

「お前の根城はそこの近くだろ?」

「だからって詳しくは知らないわよ。それに砂漠は広いのよ? 全部知ってるわけないじゃない。まっ、だからこそこうやって初めてのことを知れたわけなんだけどさ」

「……そうか」

 なんとなく、アーニィは納得し切れなかった。やっぱり、ジュリアの方が砂漠方面については知識があると思っていたのに。トヨと同じ集落の人が山を通ってターゲットにでもなっていてもおかしくはないのに……。

「砂漠育ちか……道理で肌もこんがり焼けてるわけね」

 ジュリアが注目するのは、トヨの綺麗に褐色に染まった背中だ・その肌が長年日に当たって形成されたのなら、暑さに慣れてるのも当然だ。

「いや、あれは日焼けじゃないと思うぞ」

 落ち着き払ったアーニィは水筒をもう一度手に取り、一口飲んでからこう言った。

 それに、えっ!? と次に素っ頓狂な声を上げたのはジュリアだった。

「嘘、そんなわけないわ……」

 まるで信じられない、とでも言っているような動揺をするジュリア。なぜそんなことを思うのか、アーニィはそっちの方が信じられなかった。

 何より、そうでないと言い切れる確固たる証拠が彼にはあるのだ。

「だって、あいつ全身肌があの色なんだぜ? 色が均等になるようにわざわざ裸で肌を焼く奴がいるわけないだろ?」

 そう。トヨの裸を前も後ろもしっかりと確かめた自分の目がアーニィが持っている確固たる証拠なのだ。

「……あいつの裸、見たの?」

「ああ」

 と、つい頷いた時にやっとアーニィは気が付いた。とんでもない失言をしてしまったと。そして、ジュリアがにったりと楽しそ~~~な笑みを浮かべている事にも。

「なんだぁ! ただのツレ、とか言いながらやっちゃえることはちゃっかりしっぽりしちゃってんじゃん! 意外とやるぅ!」

「ち、違う! そんなんじゃない! 誤解だ!」

 両手を前にだし、必死に否定しようとする。が、それだけでごまかし切れるわけなんてない。ジュリアの表情は相変わらずニヤついていやがる。

さて、どう説明をすれば乗り切れるのか……。

と、アーニィが一瞬考えたそのわずかな隙だった。

「いっただきっ!」

 ジュリアの手が、水筒を持つアーニィの手に伸びる。そして、気を抜いたアーニィからあっさりと水筒をかすめ取ってしまった。

「あ!!」

 開け放された飲み口にジュリアの唇が触れると水筒を逆さまにする。ごくり、ごくりと中の水がジュリアの喉を爽やかにうるおしていった。

「あ、あ~~~~~……」

 飲み口が離されると、アーニィは情けない声を上げた。

「ぷはぁ。生き返ったって感じ。それにしても、随分と少ないじゃないの。飲み干しちゃったわ」

 念願の水にありつけたジュリアは心底幸せそうな顔をしている。そして、今度はアーニィが色を失ってがっくりと膝をつく番だった。

「貴重な水が~~。俺のなけなしの金が~~~。しかも、全部飲まれただなんて~~~~~」

 アーニィは首から頭が落っこちそうなくらいに項垂れていた。

「さっきも言ったでしょ。こんな少ないだなんて知らなかったんだから」

 そんなアーニィの姿に、多少の良心の呵責を覚えたのか、少し申し訳なさそうに言うが、彼にはさっぱり聞こえていないようだった。

 あー、うー、と呻きながら地面を見続けるアーニィ。たかが水でそんな落ち込むな、と思うが、そのたかが水で自分もムキになっていた。

 そう思えば、ジュリアはもうちょい誠意でも見せてやるか、とまた一瞬考え、一瞬で何かを思いついたようだ。

「そんあ女々しく落ち込まないでよ。ほら」

 一歩、ジュリアはアーニィに近づく。アーニィの視界に、わずかに彼女の足もとが映る。

 水筒でも返しに来たんだろう。どうせ、何男入っていない、タダの無価値の皮の包みを。あてつけのつもりだろうか。本当にヤな女。

 と、思いながらアーニィが顔を上げる。

 目に飛び込んできたのは、それはそれは大きな双丘が織りなす、深い谷間。

「わっ!!」

 驚くと同時に顔に熱がこもる。前かがみになって胸を強調する格好を取ったジュリアが、唇を引き締め、目も逸らしながら、何とも言い難い微妙な表情をしていた。

「な、なんだよ……」

「おっぱいを触らせてあげるのよ。ほら、さっき交換条件出したでしょ? 結果的にアタシが飲んじゃったんだから、アンタにはアタシのおっぱいを触る権利があるわ」

 ほら、とさらにアーニィに胸を近づける。アーニィは一歩も動けなかった。

 さすがのジュリアも、トヨ程に羞恥心が無いわけではない。徐々に自分のやっていることに、気恥ずかしさが募ってくる。

「もう! 早く触んなさいよ!」

 かなり役得な状況である。が、それは平時であればのこと。

 今のアーニィにとっては全く別の意味しか持っていなかった。

「誰が……誰がそんな脂肪の塊に触るもんか!」

 自分のことを、胸を触らせればなんでも許してくれるようなドスケベおっぱい大好き人間だと思っていやがる。アーニィにそう思わせるには十分な行動だった。自分はそんな人間なんかじゃないと、彼は硬く思っているのであった。もったいない。

「な……!! 脂肪の塊ですって!!!?」

 もちろん、そんなことを言われれば、ジュリアだって怒る。

「ああ、そうさ。ただの無駄にデカいだけの肉の塊さ!」

「ただデカいわけじゃないわよ! 大きさ、形、柔らかさ、肌のきめの細やかさ、どれをとっても最高級よ! 男だったら誰だって触りたいって思う一級品なのよ!」

 と、ジュリアはまくし立てる。自己評価、にしてはなかなかに高くつけすぎなのだが、今までにもこっそり触れようとしてきた男は何人もいた。それゆえの自信だった。

「そんなの知らねぇよ! そいつを触ればこの喉の渇きが潤うってのか? 違うだろ。だったら今の俺にはただの無価値の脂肪の塊だ!!」

「誰のおっぱいが無価値の脂肪ですって!!?」

 ギャーギャーワーワーと、バカみたいに二人が喚き合う。それを背に聞くトヨは、本気で呆れかえっていた。本当にくだらない言い合いだ、と。

 しかし、突然どすっ、と音がすると、二人の怒鳴り声は止んだ。

 何事か、と二人は音のする方を見る。

 さっきまで元気に歩いていた筈のトヨが、乾いた色の草の上で、バッタリと倒れていた。

「トヨ!!」

 アーニィがトヨに駆け寄る。まさか、あの妖刀を持っていた三人組の誰かが、攻撃を仕掛けたのではないか、とトヨの肩を揺さぶりながら、あたりを気にする。

 ジュリアも少し遅れて傍に寄ってくる。その姿以外には、周りに人の姿はちっとも見えなかった。

「じゃあ、脱水症状か? コイツ、涼しい顔してたけど全然水も飲んでなかったし」

「もしかして、死ぬの?」

「……くそっ、まだ水が残っていたら」

 ちらり、とアーニィは横目でジュリアを非難するような眼で見た。

「アタシのせいにする気ぃ!?」

「トヨが死んじまったらな!!」

「ふざけないでよ!! アンタ、どうせアタシが飲まなくってもこの子に分け与えることなんかしなかったでしょ」

「んなわけあるか!!」

 と、二人がまた言い争いを始めそうな雰囲気になった時。

 ぐぅ~、と気の抜けるような緩い音がトヨから聞こえてきた。

「腹減った」

 どうやら、空腹で倒れただけだったらしい。

「全く、ふと騒がせなんだから」

「ホントだよ……ったく、本気で心配したってのに」

 アーニィとジュリアはそろって脱力した。

「そう言えば、アタシもお腹減ったわね」

「夜から何も食べてないもんなぁ。この辺に食えるもんでもあればいいんだが」

 とは言っても、あたりを見渡せば土、草、木の実も付いていないような刺々しい葉を持った木ばかり。食べれそうなものがちっとも見当たらない。

「食べ物よりも、水の方が欲しいわね。心配したら、また喉が渇いてきちゃった」

「はぁ……どちらにしろ、とりあえず、先に進んでみるしかないな」

 二人は協力してトヨを起き上らせると、さらに先へと進んだ。


 空腹は自覚をすると余計に酷くなったように感じるものだ。三人は歩きながら、それを痛感していた。ふらふら、ふらふら、と自分たちが蜃気楼にでもなったかのような足取りになってしまうのも、空腹と喉の渇きと、ひたすらに厳しい暑さのせいだ。

「このまま死んじまうのかなぁ、俺達」

「死ぬわけにはいかんだろう」

 弱気に呟くアーニィに、トヨも強がって答えてみせるが、空腹にかなりまいっているらしく、いつにない弱々しい声だった。

「ねぇ、アレ……」

 ジュリアが唐突に前を指さした。二人もその方に注視してみると、熱気に揺らめく景色の中に、家が並ぶ一群れの小さな集落と、それよりも少し手前に何やら動く一つの黒い何かを見つけた。

「あの黒いの……牛じゃないか?」

 その黒い何かは首をもたげており、足元の草を食んでいるようにも見える。いや、アーニィがそう指摘してからは、三人の目には牛にしか見えなかった。

 その牛はズクゥと呼ばれ、家畜にすることこそ難しい野牛だが、この国では珍しく、立派に食用になる肉を持つ動物だった。

「牛……肉だ!!!」

 トヨはズクゥだとそいつを認識した途端、自分の空腹を癒してくれる存在としか認識しなくなった。それどころか、二人が呆然とそれを見ている間に、トヨだけが走り出していた。さっきの弱々しさがどこかに吹き飛んでしまったのか、打って変わって肉食の猛獣にでも成り果てたかのような生きのよさである。

「と、トヨ!」

 二人も後に続く……つもりだったが、うまく走れない。どうやら、かなり体力を消耗しているらしかった。トヨは目の前の得物のせいで疲労も空腹も完全に忘れているらしいが、普通の人間は、そんな器用なことができるにはできていない。

「なんで元気あんのよアイツは!」

 それは誰にも分からない。分かるのは、トヨがズクゥを食うことで頭がいっぱいだということだけだ。

 ズクゥもその猛烈な食欲に操られるトヨの姿に気が付いた。トヨよりも大きな体躯を持っていたが、しっぽを巻いて逃げ出し始めている。

 けれど、そんなズクゥよりもトヨの方が足が速いらしい。エンシェントを抜いた時には、十分にそれが届きそうな距離に入っていた。

「肉ぅうううううううううう!!!」

 飛び上がり、トヨがエンシェントを思い切って振りかぶる。

 しかし、トヨは気が付いていなかった。彼女へ向かって、きらりと光る何かが一直線に急接近しているということに。

 それにアーニィ達も気が付いたが、「危ない!」と声をかけようにも、そのわずかな時間も残されていなかった。

 一直線に飛んできたそれが、トヨに直撃する。それはトヨを貫通し、はっきりとした姿を現した。一本の矢だった。

「トヨ!!」

「……嘘」

 ズクゥに飛び掛かっていたトヨの体は、地面に叩き落とされる。今度こそ、本当に死んでしまったのでは、と慌ててトヨの元へと駆け寄った。

 二人は最悪の事態も想像していた。もし、そうなら……。

「な、なんだこれは!? 抜けん!! 抜けんぞ!!!」

 しかし、そんな心配は無用であった。矢が突き抜けたように見えたのは確かだったが、トヨの体を貫通したという訳ではなかったらしい。ブカブカのワンピースの横腹の辺りに矢が通り、そのまま地面に矢が刺さってしまい、釘で打ち付けられているかのようにトヨが動けなくなっていた。

「……良かった」

 ふとそんなことをつぶやいたジュリアにアーニィは、なんだ、一丁前にトヨのことを心配していやがったのか、と内心で思った。

「死んでたら、アタシが殺せなくなっちゃうじゃないの」

 ……どうやら、そんなに素直な心配ではなかったらしい。

「しっかし、だれが矢なんか打ったんだ?」

 そう思ってアーニィは屋の飛んできた方を見ようとした。

 が、それは突然に肩を叩かれて、中止してしまう。

「おい……」

 野太い、地面を震わせるような重低音の声。ここにいる誰の声でもない以上、そいつは屋を放った相手に違いない。

 振り返ればそいつがいる。そうは分かっていても、すぐには振り返れなかった。背後から感じる圧は、とても静かで、耳にした声のせいもあるのかかなり重々しい。

 それに、武器も持っているはずだ。安易な行動は身の危険につながる。けれど、危険を顧みず、アーニィは振り向いた。

 そこに立っているのは、身長は二メートル以上はある曲の男だった。顔にはいくつもの傷があり、服は土や草のような色をした地味な物。特徴的なのは、右の脇を乗せいている松葉杖と、風になびくすっからかんの右のズボンの股下だ。

 左手にはボウガンを持っている。これでトヨへ向けて矢を打ち出したのであろう。

「何をしている、お前たち」

 男は、再び体と同じようなどっしりとした声を発した。

 アーニィとジュリアは、とっさに身構える。この男からは何度も何度も死線を潜り抜けてきたような凄みを感じていた。敵なのか、それともただ単にここで人を襲う、賊なのか。

「お前こそ何をしてくれたんだ! 肉が逃げてしまったではないか! 腹が、腹が減っているのだぞ!!!」

 トヨが三人の間に流れる緊張感とは全く真逆なことをわめきたてる。

「腹が……? ふふ、ははは!!」

 そんな子供がだだをこねるようなトヨの言葉に、男は声を上げて笑うと、ボウガンを下げてしまった。緊張の糸がふつり、と消えたように、男は表情を穏やかなものにした。

「なぜ笑う!!」

 トヨはじたばたとし、矢を外そうとする。確かに、そんな姿はアーニィもジュリアも見ていて笑い出したくなるほどにおかしかった。

 ともかく、二人にも伝わったのは、この男が賊でも、トヨを狙うような敵でもない、ということであった。


ども、作者です。更新です。新しい章です。分けるのは面倒なのでまだしないですけど。


今回は会話を中心に話を続けてみました。どうかなぁ~、メタルマンみたいな尺を稼いでいるだけの会話になっていなければいいと思いながらも、今回のようなやりとりを書いてみました。


まぁ、こんなにわちゃわちゃとコメディ風の会話をするのは、この章でもここだけですけど。


次の章はもっともっとコメディな会話をさせたいなぁ、と思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ