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カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
32/104

北へ

「さ、早くこっち来なさいな! のろのろしてると、憲兵に捕まっちゃうわよ」

「そうだぞ、アーニィ!」

「ま、待ってくれよ……。起きたばっかで、うまく動けないんだ。体も痛いし……」

 三人が目覚めた時には、太陽は沈みかけており、王都は夜の顔を見せつつある頃だった。

「全くだらしないな。こんな痛み、我慢できぬ程でもなかろう。なぁ?」

 真っ先に起き上ったのは、今もなおぴんぴんとしているトヨであった。トヨは二人を叩き起こすと、二人へ「北へ向かうぞ」と言って歩き出した。

「いや、アタシに言われてもね……。これでも相当我慢しているんだから」

 ただ、無暗に王都中を出歩けば、兵士に見つかってしまう。起きてすぐにどこかへ行こうとするトヨをアーニィはなだめ、まずは王都から抜け出すことを提案した。トヨが犯人でないのであれば、あのローブの三人組がムツキを殺した犯人に違いない。それはアーニィも確信していたのだが、トヨに殺人の嫌疑が掛かっているのは事実で、それを覆そうにも、何一つとして証拠はないのだ。あの三人のうちの誰かを捕え、ムツキ殺しを白状させなければ、王都を堂々と歩くことはできない。奇しくも、トヨが北へ向かいたい、と言ったのも、妖刀の気配を感じてのことだった。

 王都を抜け出すべきだ、ということはトヨに伝わったけれど、とにかく突っ切ればいい、という猪突猛進なトヨの返答に、アーニィは愕然としてしまった。どうにか見つからずに出なければ、トヨは良くとも自分は捕まってしまいかねない。トヨなんかのために、そんなことになりたくはない。だが、どうやれば、兵士に見つからずに王都を出られるか、ということを、ちっとも思いつかなかった。

 そこで手を上げたのが、ジュリアだった。アタシにまっかせなさーい、とジュリアは先陣を切って、二人を案内した。

 何か罠でもあるのか、とアーニィは警戒していたが、彼女のことをすっかり忘れているトヨは、親切な奴だ、と言いながら、ホイホイと付いて行く。とりあえず、槍が壊れている以上、殺すことはないし、現状はトヨの方が優勢だから、アーニィもジュリアに付いて歩いた。

 道中、そして今もなお、兵士どころか人っ子一人出会わなかった。何度も王都に侵入しては、盗みを働いて逃げ出しているジュリアにとって、これ位のことは朝飯前だったらしい。

 今現在、三人がいるのは、王都の北にある、貴族たちの住まう、広大な土地に建てられた豪邸の並ぶ、通称金持ちの庭だった。

「む、そうなのか?」

 痛みをこらえながらも、先導し続けたジュリアを、トヨは全く堪えていないものだと思っていたらしい。それはお前だけだ、とアーニィも力強く言いたかった。

「……こいつ、本当におかしいわね」

「それは思う。でも、もう慣れた」

「はぁ~あ、変な船に乗りかかっちゃったわね」

 少なくとも、トヨだけが変だと思っていてほしい。後悔するように頭を垂れるジュリアを見て、アーニィはそう願った。

「おい、早くしてくれ。私は早くあっちにいかなくちゃならないんだ」

 気が付けば、トヨが北の方を指さして、高くそびえる家々の垣根の間にできている、宝石でも散りばめたかのような綺麗な石畳を歩いていた。

「ちょっと! そっちは警備兵がいるからダメだって! 焦んないでアタシについてきなさいっての!」

「む、あっちに行きたいのだから、この道を行った方が早いぞ」

「もう、兵士に見つかったら面倒なんでしょ? だからアタシが先導してやってんのに……。こっちにいくわよ」

 ジュリアが指示したのは、青々とした壁のようにそびえたっている垣根だった。そして、その先には、貴族の住まう住宅があるはず。それを知っているだけに、アーニィは心配になる。

「そっちに行って、本当に王都から出られるのか?」

「いいからアタシに任せときなって。何度もここでお仕事をしてる山賊女王様よ? それより、心配なのはアイツよ。アイツを押さえといてくれれば、もっとスムーズに抜け出せるわ」

 ジュリアは、冷ややかな目をトヨに向ける。

「それじゃあ、私が邪魔になっているみたいじゃないか!」

「その通りよ! もっと子供らしくじっとしてなさい!」

「子供だと!!」

「まぁまぁ、落ち着いてくれよトヨ。ここはジュリアに任せよう」

 とはいえ、アーニィもまだジュリアのことを信じきっている訳ではない。だが、兵士に見つかりたくないのも、自分達と同じこと。それなら、任せてしまっても大丈夫だろうと、彼は考えていた。

「アーニィはこいつのこと信用しすぎじゃないか?」

「まぁ、そうするのが今は一番なんだよ」

「そうそう、アタシに任せときなさいっての。じゃ、こっちについてきなさい」

 とりあえず、二人はジュリアに付いて行った。ジュリアは、垣根の中にできている僅かな隙間を押し開け、そこを通る。アーニィもそこを通ることはできた。けれど、通るときに剣を全部取らなくてはならず、いやに時間がかかった。そのせいで、通り抜けた時に、ジュリアにもっと軽い装備にしなさいよ、と小言を言われてしまった。さぁ、次はトヨが通り抜ける番だ。と思ったら、トヨは垣根をあっさりと飛び越えて、向こう側からやってきた。

「やっぱり、変ねこいつ」

 ジュリアがそう零すのも、非常にうなずける。

 三人が出てきたところは、貴族の住まう住宅の一つだ。けれど、住宅と言っても、広大な土地を垣根や門で作られた塀で囲っており、土地が大きすぎるせいか、それとももともとそうなるように設計したのか、かなりあけっぴろげな庭ができていた。三人がいるのも、ちょうどその庭である。

「誰もいないな」

 きょろきょろとトヨが見渡して言った通り、庭は噴水や花壇、白石で作られた石畳はあるものの、人の姿は全く見当たらない。

「そりゃあね、門の外には門番を配置してるから、それで安心しきってるのよ。おかげでここは警備兵も何もいない、格好の抜け道になっているって訳。その上ここを抜ければ、あっという間に王都脱出完了よ。いや~、王都の兵士って、何でこうも手ぬるいんでしょうね。おかげで盗みがし易いし易い」

「じゃあ、ここを進めばいいんだな」

 トヨはそう言って、まっすぐ北の方を目指して歩いた。その方角にも、背後と同じように垣根がそびえたっているのも見える。ただ、距離は相当あるが。

「もう! 警備兵はいないけど、家の中には人がいるの! 窓から見つかったらおしまいよ! だから、もっと慎重に行きなさいって!!」

 そう言いながら、ジュリアはトヨを追いかけた。無論、アーニィもそれに付いて行く。

 三人は身を隠せるような場所を捜しながら、庭を突っ切った。あいにく、庭には銅像や誰が使うとも分からないドーム状の屋根をもった休憩所なんかもあり、身を潜める場所に事欠かなかった。そのため、あっさりと垣根へと到達し、王都を抜け出せてしまった。

「ほーら、こんなに簡単に脱出出来ちゃった。良かったわね~、城塞都市じゃなくって。そうだったらこんな穴だらけの警備にはならないわよ」

 ジュリアの言う通りだ。外に出てみれば、国の兵士の姿は全く見えない。もっとも、街の内部へと続く正当な道の付近ならば、番兵がきちんといるはずなのだが。ただ、貴族の屋敷を抜けた先が直接王都の外に出られるだなんて、あまりにも警備が雑すぎる。それじゃあ、こんな山賊が侵入するにはもってこいの場所だ、とアーニィは納得してしまう。

「よし! アーニィ早くいくぞ!」

 トヨはぐいぐいと、王都を抜けた先の、枯れたような草と渇いた砂でできた大地を歩いていた。

「ちょっと! お礼の一つもないの!? アタシのおかげってこと、完全に失念してない!?」

 ジュリアはトヨに向かって叫ぶが、全く聞こえていないようで、ぐんぐんと先に進んでいた。

「まぁ、そう言う子だ」

「またぁ!?」

「トヨの分も、俺が礼を言っとくよ。ありがとう」

 ぼこぼこにされたのはまだ覚えてはいる。けれども、彼女のおかげで王都を出られたのは確かな事だ。アーニィは義理だけは通そうと、彼女に礼を言った。

「……そ。それでいいの」

 歯切れの悪い答えに、アーニィはジュリアに目を向けるが、ジュリアはそっぽを向いており、頬の辺りを人差し指で掻いているのしか見えなかった。

「ところで、どうして俺達に協力を?」

「脱出するなら一緒の方がいいでしょ? それに、アイツが捕まってもヤだし」

 アーニィの方へ顔を向けたジュリアの顔は、完全に悪だくみを考えている子供のそれだった。そういえば、こいつはトヨを殺すことが目的だったな、と改めてアーニィは思い出す。別に、善意で協力をするような奴ではない。

「じゃあ、俺はトヨを追うよ。ここでお別れだな」

「ん~、それもヤね」

「はぁ!?」

「アンタ達についていくわ。構わないでしょ?」

 予想外の言葉に、アーニィは眉をひそめて、こいつは何を考えているのかと思案する。

「理由聞きたいんでしょ? そうねぇ、まずは槍の弁償をしてもらわないと」

 ジュリアはアーニィに、壊れた槍を差し出す。アーニィが壊した、ジュリアいわく、相当な値を張った槍だ。アーニィはうっ、と言葉を詰まらせてしまう。自分でも、剣を壊されたら弁償をしてもらおうとするだろう。それを考えると、分からないでもないと、一蹴でも思ってしまった。

「あと、いつでも寝首をかけるじゃない?」

 くすっ、とジュリアは笑う。

「ちょ、それは……」

「冗談よ……きちんと正面からあの子は殺してあげるから」

「殺すのは殺すんだな……もしかして、槍の弁償も冗談?」

「そんなわけないじゃないの!」

「うっへ~」

 ただでさえ、トヨが今は金を持っていないと知って落ち込んでしまったのに、それに重ねて弁償とは。アーニィは当分剣を買えないだろうと、がっくりと肩を落とした。アーニィが損失を食わないためには、殴られた分の治療費だけでも安くしてもらえないか、後で交渉することに望みを賭けるしかなさそうだった。

「逆に聞くけどさ、メガネ」

「アーニィだ」

「いいじゃん、メガネで」

「はぁ~、もうそれでいいよ」

「さっすが優男~。でさ、アンタはなんであの子に付いてってるの?」

「……それは」

「惚れたの?」

 ぼっ、とアーニィの顔が赤くなる。惚れた晴れたの話は、彼にとっては全くの別世界のことだった。それを考えるだけでも、顔が赤くなるほどに初心なのだ。それに加え、トヨの裸をばっちりと思い出してしまっていた。

「違うっ!!」

「へぇ~、まぁ、違うってことにしとくわ。で、どうしてなの?」

 明らかにジュリアはアーニィが惚れたと勘違いしている。一応いいわけでも聞いてやる、といった調子で、アーニィに理由を聞く。

「……その、あいつと一緒に居れば、いくらでもいい剣に出会えそうだろ? 妖刀とか、誰も知らないカタナにも出会えるだなんて、浪漫があるじゃないか」

 アーニィの答えに、ぶっ、とジュリアは吹きだした。

「わ、笑うなよ!! これでもちゃんとした理由なんだからな!」

「ははは、おっかしー。剣に出会う、とかもうちょっとましな嘘を吐きなさいって」

「嘘じゃない!! 俺は剣マニアなんだ! 絶対に、ぜぇったいに俺が自作した剣図鑑を作るって夢があるんだ!」

 アーニィは至って真面目である。ただ、顔を真っ赤にして、逆ギレでもするかのようにそう言い放つ姿は、ちゃんちゃらおかしかった。もちろん、ジュリアの笑い声も収まらない。

「け、剣マニアって、そんな力強く言うことでもないでしょー、あー、おかしぃ」

「わ、笑うなって!!」

「あぁ~、まぁ、いいわ。分かった分かった。つまり、アイツを利用して、珍しい剣を見つけたいってことね」

「……まぁ、そうだけど。その言い方だと悪人みたいじゃないか」

「でも、間違っていないでしょ?」

 アーニィは躊躇はしたが、それでも間違ってはいないと僅かに頷いた。

「ま、お互い責め合える立場じゃないってこと。ま、殺す方がよっぽど悪いけどねぇ。で、一緒に行ってもいいでしょ?」

 少なくとも、奇襲をかけるようなことはしないだろう。ジュリアの言葉を信じられるのならば、アーニィに拒否をする権利などない。ただ、金魚のフンのように、トヨに付いて言っているだけなのだから。

「トヨがいいならな」

「じゃあ、簡単ね、言い聞かせてあげる」

 ジュリアは、前方をぐんぐんと進んで行っているトヨを追いかける。アーニィも急いでそれに続く。ジュリアの足は速く、なんとかアーニィが追いついた時には、二人で何やら話をしているところだった。

「ね、アタシもアンタの旅に同行するわ。目的なんて知らないけど」

「む、邪魔だがいいぞ」

 かなり単刀直入な聞き方だったが、トヨはそれをあっさりと承諾してしまった。それには言い聞かせることに自信満々だったジュリアも意外だったらしく、足を止めてぽかん、と口を開けてしまっていた。

「……あら、簡単に説得出来ちゃったわね。どういうことかしら?」

 隣に立ったアーニィに聞いてみるが、彼も分からない、と首を振る。

「まぁ、ああいう子なんだよ」

 その一言に、全ては集約していた。ジュリアは、なんていい加減なことだろう、と呆れてしまう。まぁ、そう言うことなのだろう。そう言い聞かせて、二人の後を歩き始めた。

「あ、そうだ。余計な心配は増やすなよ」

「大丈夫よ。心配事はあの子だけで十分でしょ」

 ジュリアとアーニィは、前を進む黒髪の少女の背中を見る。大陸はすっかりと夜の闇に飲まれている。ふと、今日は寝ることができるのだろうか、とアーニィは不安になった。

 北へと向かうと言ったが、北にある町までは、徒歩で到達するのには相当時間がかかる。それまでに休めるところがあればいいのだが、と同行者が増えて早々、頭を悩ませるのだった。

ども、作者です。この章の初めか前の章の最後にこの章は9部まであるよ! なんて言っていましたが、数え間違いでした。というわけで、今回がこの章のラストです。


いかがだったでしょうか。実験的にアーニィとトヨの視点を入れ替えながらのお話にしてみました。なんでこうしたのか、というのは随分前に書き上げたのでちっとも覚えてはいませんが(笑)


その他にも、このお話を書く前に王都の設定、特にどのような場所にどのような建物が建っていてどのような人が住んでいてどのような町になっているのか、ということを考えた上で書いてみたので、そのあたりも実験的ではありました。まぁ、中世ファンタジーの世界にそこまで精通しているわけではないので、中途半端な感じは否めませんが(^_^;)


あと、ジュリア加入です。あとなんておまけみたいに言うと、「なんでそんな扱いなのかしら?」とボッコボコにされそうで怖いのですが、もともと加入を決めていたキャラクターでしたので、作者的にはその程度のキャラクターなのです。


加入させて思ったのは、三人の方が話しを進めやすいってことですね。いやぁ~、クールボケのトヨは扱い辛いし、剣マニア以外の個性のないアーニィはツッコミや聞きだし役ぐらいにしか使えないしで、わずか3話くらいで会話に困っちゃってましたよ。


で、ジュリアは結果的に多弁なキャラとしてトヨとアーニィに加わることになったのですが、この子が使いやすくて使いやすくて、メインヒロインを間違えたかな? なんて(笑)


次の章ではジュリアがガンガン活躍しますし、キーキャラとして動かしています。(作者的にはそのつもり)サブヒロインはメインヒロインを食うの法則に則るようなキャラクターとして、今後活躍してくれるといいなぁ、と思っています。


で、次回のお話ですが……作品的には繋ぎのお話です。繋ぎとは前と次を繋ぐための埋め合わせです。ハンバーグを作る際に使う卵です。決して味として強い主張をするわけではありませんが、それが無ければハンバーグを完成させることが難しくなってしまう。絶対に必要かと聞かれればそんなことはない。でも、無いならないで困ってしまう。そんな感じのお話です。

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