敵
高く登った太陽が、昼に近づいていることを王都の人々に知らしめている。今頃、大通りは昼食時の上機嫌な人達の、楽しそうな声に満ち溢れている事だろう。
だが、高級商店街から枝分かれした、裏路地の先の凸字型の袋小路は、そんな明るい世界から隔絶されたような、不穏な敵意が満ちて、鈍重な空気が漂っていた。
「しかも、仲間がいるだなんてぇことも聞いてねぇ!! ちっくしょお! 俺が心配していた以上じゃないかあ!」
突如として現れた悪人顔の男が、おいおいと泣き喚き始めた。これは一体どういうことなのだ、とトヨ、ジュリア、アーニィの三人は顔を見合わせる。
「ねぇ、アイツ、アンタらの知り合いかなんか?」
ジュリアは先ほど感じた、強者の雰囲気は自分の感違いなのではないか、と思っていた。すっかり警戒を解いて、バカにしたような眼で男を一瞥する。
「あんな変な奴、私は知らん」
「俺も知らん」
トヨとアーニィも、これまでの緊張感を完全に失っている。代わりに、変な奴に遭遇してしまったときの、笑っていいのか、それとも放置しておいた方がいいのか分からない、奇妙な緊張感を感じていた。
「だが、アイツは間違いなく妖刀を持っている」
それだけは、トヨが身に染みて感じていることだ。トヨがそう言うのであれば、間違いないだろう、とアーニィは思う。もう一度男を見る。男は両手で頭を抱えて、激しい頭痛に苦しんでいる人のように、ああ~、ああ~、と喚いている。
だが、情けない姿を目にすると、こんな奴が、妖刀を持っているのだろうか。男の態度を見て、どうしてもアーニィは懐疑的になってしまう。
「は? ヨウトウ? 何よそれ」
二人の会話に、ジュリアが割って入る。
「お前には関係ない。気にするな」
だが、これまで以上に冷淡な態度で、トヨはそれをあしらった。ジュリアの額に青筋が浮く。
「ああそうですよ、アタシには関係ないっての! あーもう! ムカつくわね! アンタの頭、かち割っていいかしら?」
「どうしてそう食って掛かるんだ。お前と私は初対面だろう」
「だから初対面じゃないっての!! どこまで鳥頭なのよアンタは!!!」
二人が火花を散らしながらにらみ合う。全く、この二人は相性最悪だな、とアーニィは呆れ顔になる。まずは、この二人が戦い合うんじゃなかろうか、とアーニィが心配したときだった。
「ああ~、ああ~、これは絶対に、ぜえったいに、ここで殺しておいた方がいい!! そうしなければ、俺は心配で心配で夜も眠れなくなっちまう!!」
一際大きな声で、男は叫んだ。纏う雰囲気が変わった。三人は同時にそれを感じ取り、再度男に注意を向ける。
男は、ローブの胸元に手を深くいれると、思い切りそれを抜き出した。
影の中で、不気味に青白く光る刀身を持った、短めのカタナ。
カタナを目にするや否や、三人はそれぞれの武器を構える。全員が、それぞれに降りかかる殺気を肌に感じ取っていたからだ。
すぐに動いたのはトヨだった。やられる前にやる。せっかちで、猪突猛進な彼女は、感じたまま、思ったままに行動をする。
目視でエンシェントが届く範囲に到達したことを確認し、大剣を振り下ろす。
剣戟は一瞬だった。鉄同士が触れ合う不愉快な音が響き、手には攻撃を受け止められた感覚が伝わる。
けれど、それはすぐに無くなって、大剣の重みのせいで、体を前のめりに引っ張られる。どすん、と地面に大剣が落ちた。
そこに、ローブの男の姿はない。わずかな間の出来事だった。男がカタナで攻撃を受けると、流麗な舞のように身を翻し、トヨの攻撃を受け流したのだった。
気になるのは今の男が、どこにいるかだ。少なくとも、トヨの視界の中にはいなかった。自分に攻撃がくるのかと、左右を警戒する。が、妖刀の気配を辿ると、もう既にトヨの近くにはいないらしかった。
振り返ると、男はジュリアの正面に、重心を落とし、中腰のような体勢で、カタナを構えていた。
「!!?」
ジュリアへ向かって、カタナが下方からななめに振り上げられる。トヨの攻撃を受け止められたと思った途端に、男が目の前に現れたせいか、行動に遅れが出た。
ジュリアが攻撃を喰らう。アーニィは横で見ながらそう思い、とっさに抜き出していた短剣を、男へ向かって振り下ろしていた。
ジュリアは攻撃を受け止められるように、棒を縦に構える。重たい衝撃が、腕へ伝わる痺れへと変わる。何とか攻撃を受け止めることができた。
それを確認したときには、男は既に、アーニィの振りおろしを、先ほどジュリアの棒に当てたばかりのカタナで受け止めていた。
「ン~~~!! ああ、そうだ、心配で心配で仕方がないのなら、その心配事を断ち切ってしまえばいいんだぁ。そっちの方が確実だ。それに、それに、俺は自分の強さにだけは、心配をする必要がないんだよなァ!!!」
男の表情は、もともとの顔にぴったりな、自身に満ちた悪人顔になっていた。攻撃を受け止められていたアーニィは、その顔を正面から見て、ぞくり、と背筋に何かが走るのを感じた。
ただの変な奴だと思っていたが、油断をすれば間違いなく殺されてしまう、狂気と殺気の塊のような、顔通りの悪魔のような男であった。
男は、アーニィの短剣を弾いた。攻撃がくる、とアーニィはもう片方の短剣を構え、どこから攻撃が来ても大丈夫なように警戒をする。男が自分から離れていることを目で確認した。
トヨもそれを見ており、男を追いかける。再度攻撃を繰り出すが、それは受け取ることなく、ひょい、とジャンプをするだけで、避け、トヨからも、アーニィからも、ジュリアからも離れた位置に立った。
「ああ~、そうだ、心配なことがもう一つあるんだった。エンブはコイツの力は、妖刀の中でもかなり強い部類に入ると言っていたんだ。なのに、あんな小さいミコを仕留めきれなかっただなんて……。もしかしたら、俺の使い方が間違っていたのかもしれないなぁ。ああ~! 間違いがあるかもしれないだなんて心配だぁ! 一丁、試してみないとなぁ!」
エンブ、ミコ、と何やら気になることを言っている。アーニィは一瞬それらが気になった。だが、男がカタナを掲げた途端に、それは一気にかき消されてしまった。
掲げたカタナは、青白い輝きを失い、真っ黒に染まる。その刀身から、ぽとり、ぽとり、と三滴の黒いインクのようなものが落ちる。それが、地面に着くと、円の形に広がり、次第に人の形を作って、ぺりぺりとはがれるように起き上った。
これまでに戦っていた、あの影たちだ。
「あれは、貴様の仕業だったのか」
影たちは、それぞれに一体ずつ、トヨ達に向かって行った。
トヨは手慣れた様子で、影の突きを防ぐ。反撃に大剣を振るうが、影の黒いカタナも、トヨの白刃を受け止める。黒い刀身と白刃が拮抗する。
「むっ!!」
もう一度反撃をするが、それも影は容易に受け止める。これまでの影が相手ならば、こんなことはなかった。影が強くなっていることを、トヨは感じる。それでも、いつまでもこの影に手こずっている訳にはいかない。目の前には妖刀を持った奴がいるのだ。自身の使命を果たすためにも、妖刀を奪い取る必要がある。
トヨは彼女の馬鹿力で黒いカタナを押して弾く。影の両手は投げ出され、腹部はがら空きになる。
「でやああっ!!」
そこへ、一撃を畳み込む。すばっ、と影は真っ二つに切り裂かれる。強くはなっていたが、別に倒せない相手ではない。それ以上に強い相手が、妖刀を手にしてトヨを見ていた。
「ああ~、やっぱりミコは強いなぁ~。心配で心配でここに来た甲斐があった。やっぱり、ここで倒しておかなくっちゃいけないな!! おい! これを見ろ!!」
男が指を指す。その方を見ると、ジュリアとアーニィが、影に捕まっていた。二人とも武器を手から離し、三体ずつの影に取り囲まれている。背後の影に両手を取られ、二体の影にカタナを突きつけられている。
情けない奴らだ、とトヨは思った。ジュリアの強さは彼女自身良く覚えてはいないが、アーニィはそこまで強くはないと、これまでのことから思っている。強くなった影に手も足も出せなかったのだろうと推測していた。
「アイツら、君の仲間だろう? 君が素直に殺されて来れば、彼らを殺しはしない。自分のせいで仲間が殺されてしまうなんて、君の間違いが招いてしまうこと。心配で堪らないだろう?」
男の手にした妖刀から、ぽとり、ぽとりとまた黒い滴が落ち、影が増える。いつのまにか、六体の影に、トヨは囲まれていた。
「要するに人質にとられてしまった訳か。全く、情けないな、アーニィは」
「こんなのに取り囲まれたら嫌でも捕まるっての!!」
「ちょ、なんでこいつのことは心配してるのに、アタシは心配しないのよ!! アタシはとばっちりよ!!?」
「む、知らん奴はどうでもいい。それに、アーニィのことなんて、ちっとも心配してないぞ」
キー! と声を上げるジュリアに、相にも変わらず冷静で淡泊な反応をするトヨ。あまりの緊張感の無さに、戸惑っているのは影を操る男の方だった。
「な、なんでだあ!? 仲間なんだろう? もっと、もっと心配するべきなんじゃないのか?」
「何を言ってるんだ? 私に、こいつらを心配する義理などないぞ」
トヨは、大剣を強く握りしめ、取り囲んでいる影を一掃するように、回りながら剣を振るった。
戸惑っているのか、影はあっさりと倒されてしまう。
「な、なんでだ!? 人質がいるんだぞ! ああ~、分からない! おい! そこの二人答えろ! お前たちは一体どういう関係なんだ!? 俺はお前たちを仲間だと思っているが、もしやそれが外れていたのではないか、心配でしょ~~がないんだ!!」
男は情けなく叫ぶ。ジュリアとアーニィは顔を見合わせ、とりあえず、と答えた。
「俺はただの連れだ。返してもらわなくちゃいけない金のある」
「アタシはコイツにツケがあるの。命で支払ってもらわなくちゃいけないね」
む、そんなものあるのか? と、トヨは一人首をかしげていた。彼女には自覚はないらしい。男は二人の問いに、頭を抱える。
「なにぃ!? じゃあ、仲間じゃないってことかぁ!?」
こくり、と二人は頷いた。
「うわああああああ!! なんてこった!! 俺は、俺は間違ってしまったのか!! なんで、なんでこいつらが仲間じゃないことを心配しなかったんだああああ!!!」
がくり、と男は膝をついて項垂れる。すると、影たちも全部消えてしまった。
「なんなんだ、こいつ」
「変人ね」
解放された二人は、武器を再び手にした。
「む、まぁいい。今のうち、アイツを殺す」
トヨも、大剣を構えて男に近づく。男はおんおんと泣き喚いており、トヨの接近には全く気が付いていないようだった。
絶好のチャンスだった。けれど、近づくトヨの動きが急に止まった。その様子に何やら違和感を感じ取ったアーニィがトヨの顔を見てみると、目を見開いて、頬に一筋の汗を流していた。
トヨが、男から視線を外す。ジュリアとアーニィもその方へと視線を向けると、男と同じような服装の人間が、路地の前に立っていた。
その服装から、トヨが今感じ取っていることをアーニィが察する。
「おい、トヨ。まさかアイツらも……」
トヨは答えない。ただ、ごくりと生唾を飲む音が、大げさに聞こえ、それが彼女の返答のように思えた。
間違いない、こいつらも妖刀を持っている。当の二人は、表情の見えないくらい深くかぶったローブから、トヨ達へじっと、視線を送っていた。
路地の前に立つ二人が、トヨ達へと視線を巡らせる。棒を持った女が一人、剣をいくつも持っているメガネの男が一人、そして、大剣エンシェントを手にした少女が一人。その中に、自分達の仲間の一人が、無様に両手を付いて泣き喚いていた。
「サル! 聞こえているか、サル!!」
そのうちの一人、背の高いローブの男が声を上げる。良く響く、鼻にかかってセクシーで冷たい印象を受ける声だった。
ぴくり、とその声に反応して、サル、と呼ばれた影を操る男は顔を上げた。案の定、涙や鼻水で顔はぐしょぐしょに濡れている。
「なんで! お前たちもここにいるんだぁ!?」
「それは俺達のセリフだ。単独行動、ならびにミコとの接触は禁止していた筈だ」
男はひたすらに冷淡に言う。けれど、サルは彼のフードの下の表情が容易に想像できるのか、すっかりおびえ切っていた。
「俺は、俺は心配だったんだぁ……エンブの言う通り、このままミコを放置していてもいいものか、って。それに、俺はこいつらを倒すことだけは心配していないんだよぉぉ!」
「確かに、お前ならば遅れを取ることはない。実力だけはな。だが、お前の心配性すぎる性格が嫌でも足を引っ張る。今も、そうなんじゃないのか?」
俺は別に、とサルは言いたげだったが、自身にトヨが近づいているのを目にして、自分自身が心配をしすぎ、しかも間違っていたことに執着し、周りが見えなくなっていたということを彼は改めて実感した。
「な、なんてこったぁ、俺は、いつの間にこんなに接近を許していたんだぁ!?」
サルはすぐに立ち上がり、猛スピードでその場から離れ、彼がエンブと呼んでいた男の方へと走った。
それを、トヨは見過ごす。チャンスではあったが、今はそれ以上に嬉しい状況だ。近くに、また新しい妖刀がやってきたのだ。自分自身がおうまでもなく、向こうから歩いてくるだなんて、好都合だ。
「サル。エンブはあなたのことを心配していたのです。自分が心配するのは構いませんが、仲間を同じような気持ちにさせてはいけませんよ」
そして、もう一人のサルの仲間が、サルに語りかけた。落ち着いてはいるが、まだまだ幼さを感じる少女の声であった。
「ああ~、すまねぇよぉ。俺が間違っていたんだぁ、ああ~! なんてことをしてしまったんだぁ~~」
「反省をしているならそれでいいです。私たちは、エンブの言うことだけをとにかく守っていればいいのです。私たちの目的は、妖刀を全て集めること。ミコは気にしなくても構わないのです」
「妖刀を集めるだと?」
少女の言葉に、トヨが反応する。ローブ姿の少女は、口元に手を当てて、しまった、というような素振りをした。
「あら、私としたことがいけません。ついついミコに聞こえてしまうように、しゃべってしまいました」
まるで、舞台に立つ役者かなにかのように、わざとらしい口振りだ。
「……まぁ、いい。とりあえず、ここで集められるものは全て集めた。一振りは壊されてしまったがな」
エンブは手にしたものを、トヨ達に見せつける。それは、昨晩トヨが破壊したオニキリマルの柄の部分だった。
「む!! なぜあれがアイツらの手に渡っているんだ!?」
すぐに顔を向けたのはアーニィの方だった。アーニィも突然のことに自分を指さして、俺ぇ!? と素っ頓狂な顔をしている。
「お前、宿に置きっぱなしだったのだろう」
「あ……まぁ、置き忘れたのはそうだけど……っていうか、それならお前も同じだろ!」
「私はアーニィが持ってくると思っておいておいたんだ。なにぶん、私はお前みたいに剣をたくさん持ち歩ける姿ではなかった」
そう言えば、トヨは昨晩までは全裸だった。アーニィは今のトヨの服がどのようにして手に入れたものであるかは知らない。ただ、トヨが持ち歩けなかった、というのであれば、その通りかもしれない。けれど、それと自分自身にすべての責任を背負わされるのは全くの別問題だった。
「だからってな、俺が全部悪いってわけでもないだろ!」
「アンタら、良くこんな状況で言い合いできるわね」
痴話げんかでも繰り広げるかのような二人に、ジュリアは呆れ返っていた。二人の肩に手を置いて、ローブ姿の三人の方を見るように、彼らを顎で指した。
「そんなに大事なもんなら、取り返せばいいじゃないの? それに、チビはアイツらに用があるんでしょ? とっとと片付けなさいよ」
そんでもって私に殺されなさい、とジュリアは言いたかったが、一応、口には出さなかった。余計なひと言でジュリア自身と言い合いを始めたら、口を挟んだ意味が全くない。
「む、それもそうだな。ついでにアイツらの妖刀も壊させてもらおう」
やっと、トヨの注意がローブの奴らに向いた。やれやれ、と肩を落とすアーニィは、ジュリアにナイスアシストと言わざるを得ない。ジュリアのおかげで、トヨとの面倒な言い合いから解放されたようなものだ。
「アーニィはあの女と影の男を頼む」
「なんで、俺が!?」
また、オニキリマルを取られた責任を、とぶり返すのではなかろうか、と不安に思っていたが、トヨの表情を見ると、どうやらそれが違うと分かった。彼女は真ん中の、エンブと呼ばれた男を見据えている。真剣そのもので、これまでにない緊張感を纏った顔だ。
「私一人で、どうにか倒す」
トヨにしては珍しく、倒せるとは断言しなかった。それだけで、あのローブの男が、想像以上に強いことが分かる。トヨは特別な何かを感じ取っているらしく、それから実力を推し量っているのだろう。アーニィには、ただ立ち尽くしているエンブから、実力は読めなかった。まだまだ、未熟者だな、と自分のことをあざ笑う。
「分かった。任せてくれ」
「もしも一人でどうにもできないなら、そこの女を使え」
「アタシぃ!? っていうか、命令すんな!!! そこの女とか言うな!!! あと、戦うだなんて嫌よ!!」
「む。まぁ、そこまで強くないから仕方ないな」
「ア・ン・タねぇ……いいわよ、やってやろうじゃないの!」
トヨは決してそのつもりではなかったが、ジュリアは乗せられるように、棒を構え、臨戦態勢を取る。この女もトヨと同様に分かりやすい。
ともかく、頭数だけは同じになったことを、アーニィは喜んだ。ひとまずここから逃げ出すためにも、戦わざるを得ない敵なのだ。覚悟を決め、アーニィも、長剣と短剣の一対の剣を両手に握る。
「おぉい、おぉい、アイツらやる気だぜぇ、エンブ。ああ~、ここで殺しちまった方がいいんじゃねぇのか? なんだったら、俺が出せるだけの影を使って……」
「その必要はない。俺がアイツらを寝かせる」
「あ!! エンブさん、やるんですねぇ? ムツキから奪った新しい妖刀のマ……」
「しゃべるな、ノウ」
「あら!? 私ったらまたしゃべり過ぎそうになっていました。ごめんなさ~い」
「殺さねぇのか? アイツらがまた追って来たり、これ以上妖刀を壊されないか、心配じゃないのかぁ?」
「気にするな。考えがある」
「後で、教えてくれるかぁ? ああ~、俺はエンブが何を考えているのか分からねぇから、心配なんだよぉ~」
「大丈夫です。エンブ様は教えてくれます。私たちは、エンブ様に従っていましょう」
ローブの三人の中から、長身のエンブが前に出る。サルと呼ばれた男がやっていたように、彼もまた、懐に手を入れると、鞘に入ったカタナを取り出した。
「……」
来るか、と三人は身構える。このまま出方を伺うべきか、とトヨは一瞬悩む。相手の実力が分からない以上、待ちは賢明な手段だ。ただ、妖刀を使う以上、何を使うか分からないと言う点では、かなりリスクが高い。それに彼女の性格的にも合わない。
わずかな逡巡を破って、トヨは攻撃をしようと駆け出した。
だが、それよりも早く、エンブがカタナを抜いた。
真っ赤な刀身がトヨの目に映る。その瞬間、どん、と体中に痛みが走った。何事かと思案を巡らせる暇もなかった。地面の冷たさが、頬に、体の前面に伝わっている。いつの間にか、トヨはうつ伏せに倒れていた。まるで地面にたたきつけられたかのように、鈍い痛みが走る。けれど、それ以外の痛みはない。
切られたわけでもない。そもそも、ローブ姿の男は、ただただカタナを抜いただけだった。その隙に、何かができるわけではない。だが、自分が地面に伏しているのは一体なぜなのか。
それを、トヨが考えている時間も残されていなかった。地面に倒れている、と彼女が気付いたときにはもう、気を失っていたのだから。
同じように、ジュリアもアーニィも倒れ、目を瞑って昏倒している。その場に立っていたのは、ローブ姿の三人だけ。エンブは、カタナをゆっくりと鞘に納める。
「……こんなのがミコ、か」
ぽつり、とまるで落胆しているように呟く。彼が振り返ると、黒いローブがカラスの羽のように大きく翻った。背後に控えていた二人に目線を向けると、彼らもまた、エンブと同じように振り返り、この場を立ち去って行った。
残っていた三人は、闇の中でゆったりと眠る。日が次第に沈み始め、冷たい影が頬を撫でるまで、彼女たちはずっとそのままだった。
ども、作者です。いろいろあって火曜日(一応月曜に更新予定なのですが)に投稿できなかったので、今投稿。
やっと敵らしいキャラを出しました。




