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カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
27/104

殺人犯のトヨ

トヨに殺人容疑が掛かっている。ムツキの店の扉に立った兵士が報告を受けて「ふむ」と漏らす。二つに分けられた人だかりはがやがやと騒ぎ始め、その中で一人、アーニィは苦い顔をしていた。

嫌にはっきりとした目撃情報のおかげで、ここにトヨが来ていたことは紛れもない事実としか思えない。だが、トヨがムツキを殺すような理由があるのだろうか。

アーニィは想像してみた。いくら気が短くて、すぐに大剣を振り回そうとして、妖刀のことになると即決速断で行動をしてしまうあのトヨでもさすがにムツキを殺すだなんて……。

「はは、ゼロだとは言いきれねぇや」

 例え恩人であったとしても、妖刀がらみのことならば、トヨならばやりかねない。残念ながらそれが結論だった。だが、まだ容疑に過ぎない。トヨが捕まったとしても、無実であることが分かれば大丈夫だろう。

アーニィは自然とトヨのことを心配していた。そんな自分に気が付いて、彼はふぅ、と息を吐いた。

ムツキが死んでしまったのは残念なことに違いない。だが、それにトヨが関わっていたかどうかは、もはやアーニィにとってはどうでもいいことなのだ。そもそも、トヨの後を追って王都まで来たのも剣のため、今までも彼女を探していたのは金のためと打算的なものだった。

だが、殺人容疑が掛かったような女の子を自分から探すのに、アーニィ自身には利益がない。むしろ、殺人犯との知り合いということで、無用な嫌疑をかけられる恐れがある。そうなれば時間的な大損を喰らってしまう。

トヨと関わるのもここいらが潮時だろう。アーニィは踵を返して、この場所を後にしようとする。兵士に捕まることも彼女なら心配することはないだろう。捕まろうが捕まらまいが、無事に無実を証明できることを祈ることしか、アーニィにできることはない。彼にとっての問題は、これからの旅費や剣用の資金をどう集めるか、ということであった。

アーニィが歩きはじめると、人ごみから声が上がる。犯人についての情報が耳に入り、やじ馬たちは馬のいななきのような、興奮気味な声で言葉を交わす。

「やれやれ、昨日も盗人に入られたっていうじゃないか。命まで取られなくて良かったなんて思ったのも束の間だったもんだ。まさか、翌日に殺されちまうとはねぇ」

「昨日の今日のことだもんな。不幸なことは続くってのも、嫌なもんさ」

「昨日と言えばよ、あの全裸少女、あいつも大剣を持ってなかったか?」

「そうだ、そうだ! 俺も見たぞ! 黒い髪だったし、何より全身日に焼けているみたいな肌だった!」

 その言葉が火種にでもなったのか、前日の全裸少女の情報が次々と上がり、やがて声が声にも聞こえないような大騒ぎになる。昨日の一件はあまりにも目立ち過ぎていたらしい。目撃者も多く、かなりの噂になっているようだ。

 王都中に知られているのなら、トヨが捕まるのも時間の問題だろう。だが、それももうアーニィには関係ないことだった。

 スタスタとアーニィは人ごみから離れる。しかし、そんな彼の耳にも届く程の、一人の叫びによって彼の余裕は引き裂かれることとなった。

「確か、ムツキのじいさんとも一緒にいたのを見たぜ! あと、もう一人若ぇ男と一緒にいたのも見たぜ!」

 びくり、とアーニィの背筋が強張る。目立っていたのは、何も中心にいたトヨばっかりではなかったのだ。

「ま、まさかぁ、俺のことも話題に挙がるなんてことねぇだろうなぁ……」

 アーニィの頬に、たらりといや~な汗が垂れる。

「ああ、剣を腰にも背中にもいくつも携えている変な若造だ!」

 その声と同時に、しん、と人ごみの騒ぎが収まった

 振り返らなくとも分かる。やじ馬どころか鎧姿の兵士からもアーニィは注目されているのだと。

 腰や背に剣を複数携えている男など、自分以外にいやしない。そして、彼らの目には、そいつが今ここで、全裸少女が犯人だと噂され始めた途端に、この場から離れようとしている風にしか見えないだろう。

 アーニィはつくづく思う。あまりにもタイミングが出来過ぎていやしないかと。

「お、おい! あいつじゃねぇか! 全裸少女と一緒にいたっていう変な若い男は!」

 アーニィは自分の記憶に残りやすい格好を今だけは呪った。先ほど報告に来た兵士が、がしゃんがしゃんと音を立てながら、アーニィに向かって走り寄る。

「ま、まずい!」

 アーニィはとっさに走り出していた。

「間違いない! あいつは犯人の仲間なんだ! 現場を確認するために戻ってきやがったんだ!!」

 誰かが叫ぶ。憶測だけでそこまで断言されてしまうのは迷惑極まりない。しかし、アーニィ自身もとっさに走ってしまったことを後悔していた。これでは、逃げているのと全く変わりがない。ここで止まって事実を語っても、まだトヨがムツキを殺したという証拠がない以上、自分に火の粉が降りかかることはないはず。それなら、止まってもいいのかもしれない。

 だが、走りながらアーニィは改めて冷静に考える。もしも、兵士の手でトヨが捕まらなかったらどうなるか。トヨはすばしっこいし、並大抵の兵士ならば、返り討ちにしてしまう程腕が立つ。簡単には捕まってくれないだろう。そうなれば、自分はどうなる? どれだけ無実を訴えても、有罪の証拠も無実の証拠もありはしない。ムツキが殺されたことは王都中に知れ渡るだろう。その犯人に関わる人間が何を言おうとも、王都中の人間が納得などするものか。

 トヨを自分の手で捕まえて、無実を証明させる方が、助かる可能性はある。ならば、ここでつかまってしまう訳にはいかない。

 鎧を鳴らしながら走る兵士は、ここに来るまでにすでに体力を使っていたせいか、はたまた鎧が重いためか、あまり速く走れていない。これなら、まだ逃げ切れるのではないか、とアーニィは足をフル回転させ、速度を上げた。

 目指すのはひとまずは大通りだ。人を隠すなら人の中、一度紛れてしまえば、すぐには追って来れないだろう。その間に別の路地に入ってやり過ごす。それが、アーニィが導き出した逃走経路だった。

 鎧が不自由に走る音は、次第に離れていく。大通りへもどんどんと近づいている。

これならば行ける。なんとしても逃げ切って、後で絶対にトヨを見つけてやる。

そう決心した矢先のことだった。アーニィが急に立ち止る。人が行きかう大通りの中に、後ろにいる兵士と全く同じ鎧姿が、いくつも目に入ったからだ。

しかも、その鎧姿の集団は、人の流れから離れ、アーニィのいる高級商店街の方へと向かってきているではないか。

「う、うそだろっ!?」

「はぁ、はぁ、良かった……そこの男を捕まえてくれえええ!!!」

 アーニィの後方で肩を上下させている兵士が、腹から絞り出すように叫んだ。前方の兵士たちは突然のことで一瞬立ち止まるが、お互いに顔を見合わせ、アーニィの方へと向かって駆け出した。

 アーニィの逃走予定が一瞬にして瓦解してしまった。前も後ろも塞がれ、進路も退路もない。この兵士たちに立ち向かってはそれこそ本当に犯罪者になってしまう。

 あたりをきょろきょろと見回す。前も後ろもダメならば、左右に道を探すしかない。最初に目を向けた左側は、店が窮屈そうに立ち並んでいるだけ。希望があるとしたら右側だ。運よく、右側には店と店の間に、人ひとりが十分に通れるだけの道幅がある路地が見えた。

 そこに行く以外に、アーニィの逃げ切る見込みはない。アーニィは方向転換し、路地へと向けて走り出した。

 路地は長くまっすぐに伸びていた。高級商店街から路地を抜けた先にあるのは、王都の人々の安息の場、住宅街だ。住宅の一つ一つは三階建て以上の建物ばかりだ。それでいて奥行きがあり、住宅の壁面が路地の細長い道を作っている。おかげで、路地の空は狭い。ただ、このまっすぐの道を進んで行けば、いずれ住宅の切れ目に出会い、四方に分かれている十字路に出会うはずだ。住宅街は王都中の人達を一か所に集めるために、かなり密集している。そのために、いくつもの分かれ道がある複雑な路地を作っているのだ。

 それが、アーニィにとっては幸運なことだった。路地を適当に進めば、兵士を振り切ることもできるだろう。ただし、アーニィは住宅街の地理に詳しいわけではない。進んだ先で、迷子になることも、適当に進んでいれば、一度やり過ごした兵士と再び鉢合わせしてしまう可能性もないわけではない。リスクも十分にある。

 しかし、それでもアーニィは進むしかない。兵士たちも続々と路地に入ってきているようだが、鎧姿で通るには道幅が狭いらしく、体を横にして追跡している。走ることができるだけ、アーニィの方が有利だ。

 全力で駆け抜けると、道先が見えてきた。住宅の壁面が横に伸びている。おそらく、ここは十字路ではなく、丁字路になっているのだろう。アーニィはそう考えて、直進を続ける。息は随分と上がっていた。

 先に進むと開けた場所に出た。アーニィの憶測は外れていた。左右に道がない。これまで続いていた住宅の壁面が左右に折れ曲がってはいたが、途中でまた奥へと伸び、今度は内側に折れ曲がっている。ちょうど、凸の字を逆にしたような場所に出てしまった。

 アーニィは面を喰らった。行き止まりだ。運はアーニィの味方をしなかった。壁面を眺めてみるも窓は無い。唯一ある扉も高所に設置されており、そこに続く梯子などもない。防犯用に、内側から扉を開き、屋内から梯子を下ろしてここに下りてくるのだろう。

「まずい、完全に逃げ道がない!!」

 わずかながら、兵士の足音が聞こえてくる。捕まるのも時間の問題だった。アーニィが諦めかけたその時、アーニィの右手をぐっ、と強く掴まれた。

「わっ!!?」

 そのまま引っ張られ、アーニィはバランスを崩す。突然のことに踏ん張ることができず、彼はそのまま倒れ込んでしまう。腰にがつん、と何か尖った硬い物がぶつかると、それが支点となって、両足が宙に浮いた。

 どすん、と地面にぶつかることを覚悟し、目を瞑った。しかし、彼の顔と肩を、柔らかい物が受け止める。ただ、腰や足はしたたかに打ち付けた。痛みから判別するに、平面な石のようなものにぶつかったと、アーニィは気付いた。

 何事かと目を開ける。薄らと、色白の肌が目に入ったような気がした。けれども、その視界は唐突に真っ暗になり、目の前にあったものが何なのか、はっきりと知ることはできなかった。

 転んだ拍子に、どこかに落っこちたらしい。けれど、あたりを見回そうにも、暗さのせいで、正確なことは何一つ分からない。すぅ、と息を吸うと食べ物の腐ったような臭いや、魚類の生臭い臭いが、鼻をつーんと突き刺してしまう。

「臭いだろうけど、我慢しなさいよ。ほんのちょっとの辛抱だから」

 と、ボリュームを落とした女の声がアーニィの耳に入る。顔や肩に伝わる柔らかな感触から、ほんのりと体温も感じる。どうやら、アーニィの手を引いて、ここに引き摺りこんだのも、この女のようだ。

 誰なのか、アーニィには見当がつかなかった。ただ、その声には聞き覚えがあった。

「あ。後、変に動いたら、後で殺すから」

 顔も見えない女になぜ唐突に殺すと言われなくてはならないのだろうか。ただ、今は彼女に従っていた方がいいかもしれない。少なくとも、ここを出て一瞬で兵士たちに見つかってしまうよりは、はるかにましだった。

 わずかに女が動いた。それと同時に、きぃ、と何かが開く音が何かを隔てた向う側から聞こえた。それからあまり間を置かずに、兵士たちの独特の足音が地面を揺らしながらなだれ込んできた。

「どこだ……どこに……」

 兵士の苛立った声。外の見えないアーニィには、彼らの声や挙動の音から、何が起きているのかを察するしかできない。

「先輩! あそこ、家のドアが開いています!」

「家の中に侵入したのか……」

「梯子も無しであそこまで登るとは、身軽な奴だ」

「どうします? 追いますか?」

「この格好じゃ、梯子も登れん。別の出入り口の方へ急ぐぞ」

 再び、兵士たちの足音が聞こえる。ただ、今回はそれがどんどんと遠ざかって行く。しばらくじっとしていると、足音は完全に聞こえなくなる。兵士たちがここを立ち去ったのだ。

 そうと分かった途端に、アーニィは思いっきり飛び起きる。頭上に大きな木の板があったがそれを両手で思いっきり押し開けた。

「”あーーー!!!! くっさ!!!!! ゴホッ、ゴホッ!!!」

 アーニィの鼻は、あまりの臭いに曲がってしまいそうだった。ふと、自分のいる場所を見下ろすと、それも仕方のないことだと理解した。

 石で造られた大きな箱。それは、町で暮らす人たちがゴミなどを一時的に置いておくための、いわゆるゴミ箱という奴だった。少なくとも、足を踏みしめた感触から、今はゴミが無いことは確からしいと分かった。それだけは安心してもいいことだろう。

「はぁ、臭いとかついてねーだろうなぁ」

 服の肩のあたりを臭うと、自分の男臭い匂いだけがして、ほっ、と胸を撫で下ろす。

「良かったな~メガネ。無事追っ手を撒けたじゃん!」

 ケタケタと甲高い笑い声がして、アーニィは声の方へと首を回す。

 女が、胡坐を掻いて、ゴミ箱の中に坐っている。その女を見て、アーニィの顔がこわばった。

「何よその顔。アタシ、仮にもアンタの恩人なのよ? ありがとうぐらい言いなさいよね」

 女は唇を尖らせ、不快感でいっぱいの表情をする。その顔には見覚えがあった。道理で聞き覚えのある声だと思った訳だ、とアーニィは納得した。

「どうして、お前がここにいるんだよ」

 アーニィは、自分を救ってくれた女、そして、数日前に山の中で襲ってきたあの山賊の女であるジュリアに、神妙な声でそう尋ねた。

ども、作者です。再登場キャラ現るの巻でした。

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