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カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
18/104

刀匠の家

先ほどの本には刀匠の店の住所も載っていた。現状、それしか頼りになる情報はない。それでも、そこに行く以外の方法もなく、二人は真反対に位置する西側の区画に向かった。住所の先に店はあった。カタナが高級品であることもあって、店の外観は荘厳に構えられている。そのような高級そうな店が立ち並ぶ、高級商店街の一角だった。

「まだ店がやってて良かったな」

 店の前に来てアーニィが言った。日は沈みかかっていて、彼らにオレンジ色の夕日をまっすぐに注いでいた。

「しまってても、無理やり入ったがな」

 普通なら、冗談だろ、と笑い飛ばすところだが、アーニィにはできなかった。トヨが言うと、それが冗談には聞こえない。むろん、トヨも冗談のつもりでは言っていが……。

「ごめんください」

「入るぞ」

 アーニィとトヨが一緒に店に入る。

「うわー、大量にあるなぁ」

 店の壁にはカタナが掛けてある。上から三段、それが壁一面に五列分あり、十五本。名前を見てみれば、先ほど本で見た名前もちらほらと見受けられた。

 さすがは刀匠の店。値札もアーニィが何十年働いたところで手に入らないような額が提示されている。アーニィはただの客のようにカタナを眺めてしまっていた。

「トヨ……?」

 だが、あの不遜無礼の塊のような同行者を思い出すと、嫌な気がしてきた。トヨを呼びかけるが、返事が無かった。振り返ってみると、トヨは入り口の前で入店したままの立ち姿で、呆然としていた。

「どうした?」

 じっとしているなんてらしくない。アーニィが顔を覗き込んでみると、つーっと彼女の頬に、うっすらと汗が零れ落ちた。別に熱いと言うわけではない。夕方で、むしろ昼と比べれば涼しくなっている方だった。

「……ここは、なんだ?」

 トヨはどこか怯えているような、重々しい口振りで言った。

「なんだって、刀匠の店だろ?」

「それは分かってる! 違う、違うんだ。ここの空気、気配がする」

「……気配?」

 どことも変わらない。アーニィは何も感じない。トヨの言いたいことは理解不能だった。

「気配? そうか……じゃあ、アレが」

 トヨはぶつぶつと呟き、何か得心したように頷いた。

「なんじゃい……騒々しい」

 がちゃり、と店の奥の戸が開いた。重々しい石の扉で、そこから熱気が立ち込めて、店の中が一瞬熱くなった。熱気と一緒に出てきたのは、背の小さい顎に白いひげを生やしたお爺さんだった。

「あなたが、ムツキさんですか? 刀匠の……」

 出てきたお爺さんにアーニィが聞くと、お爺さんは不機嫌そうにしわくちゃな顔をうなずかせた。

「そうじゃが。何か?」

 アーニィはこの老人は気難しそうだと思った。気難しいのなら、こちら側にも一人いるが、二人も相手にするのは骨を折りそうだ、とアーニィはそのもう一人の気難し屋のトヨの方を見た。

「どれだ。どれなんだ? くそっ、部屋中に充満しているせいで全く分からん」

 トヨはぼやぼやと呟きながら、ショーケースに飾られたカタナや、壁のカタナをじろじろと物色している。

「ちょっと、お尋ねしたいことが、あるんですけど……」

 アーニィは言葉を選ぶようにして、妖刀について尋ねようとする。しかし、とっさにトヨがそれを遮るように叫んだ。

「刀匠! 妖刀はどれだ!」

 いきなりの一言だった。トヨの初対面の人にする行為に全くそぐわない、不躾な態度のせいか、刀匠ムツキはきっ、と目を鋭く光らせた。

「お前、いきなり何言い出すんだよ!」

 ムツキの纏う雰囲気が殺気だったものになったのを感じると、ただでさえ気難しそうな相手なのにどうしてくれるんだ、とアーニィも怒鳴った。

「第一、聞くことが間違ってるだろ。妖刀を知っているか、知っていないか、それを聞くためにここに来たんだろ?」

「それはもういい。聞く必要はない」

 図書の塔で決めたことを覆すことをトヨは言って、再度ムツキに向かって口を開いた。

「あるんだろう。妖刀。どこにある」

 力強い、確信に満ちた口ぶりだった。

「ンなこと……そんな勝手に決めつけるなよ」

「感じるんだ。この、黒々とした気配。アーニィは感じないだろうが、私は感じる」

「お前、またそんなこと言って……」

 頑なに主張するトヨをなだめるようにするアーニィ。二人はさながら口論をしているようだった。その二人に対して、ついにムツキが口を開いた。

「帰れ」

 彼は静かに言うが、完全にしびれを切らしているようだった。

「うちにはそんな気味の悪いもんは存在せん。分かったらさっさと帰れ」

 ムツキのしゃがれた叫びに、トヨも引き下がらなかった。

「そんなはずはない! ここには絶対……」

「帰れと言うとるじゃろうが!!」

 ムツキは白くしわしわの額に血管を浮かび上がらせて叫んだ。その剣幕に、さすがのトヨも口を噤んだ。チャンスはここしかないと、アーニィはトヨの手を掴んだ。

「トヨ。出るぞ」

「む!? 嫌だ。目的の物が必ずここに……」

 アーニィがちらりとムツキの顔を見ると、彼はまたも叫びだしそうに口角を歪めていた。

「し、失礼しましたー!!」

「む、止めろ! 引っ張るな! 腕が抜ける!!」

 トヨの手を力強く引くと、彼女の足も従うように動いた。そのまま、二人は店を退出した。



 二人が出てすぐに、がちゃり、と錠のかかる音がした。アーニィが手を離すと、こてん、とトヨは尻餅をついて地面に座り込む。地面は空模様をそのまま落としたように薄暗い。すっかり日が暮れてしまっていた。

「む……折角妖刀があったと言うのに」

 トヨは不機嫌そうに顔を膨らませる。

「だからってあんな態度取れば誰だってキレるだろ。もうちょっと言い方聞き方を考えてくれよ」

「私が悪いのか?」

「そうに決まってるだろ。はぁ……とりあえず、今日はもう適当に宿を取ろう」

「む……」

 頑固なトヨのことだから、ここで頑なに店が開くまで待っているかもしれないとアーニィだったは思っていたが、それとは裏腹に、トヨは素直に立ち上がった。

「仕方ない。明日の朝、また来る」

 あれだけ無いと言われていたのに、彼女は未だに確信を持っているらしく、諦めるつもりはなさそうだった。

「絶対に、あるんだ」

 トヨは店の荘厳な店構えを見ながら、眉間にしわを寄せて言った。店の中では自分を取り囲むように感じていたあの気配も、外からなら、店の建物の中から漏れ出しているように感じている。少なくともトヨにだけはそれがはっきりと分かっていた。

「妖刀は絶対にある」

 トヨはその思いをより確かなものにするようにこぼした。


ども、作者です。今回は短いですね。続きは来週までお待ちを。

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