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カタナガリ  作者: リソタソ
盗賊女王とサムライ
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サムライの男とトヨ

 トヨとアーニィの二人は、引き続き下山していた。山道の傾斜も随分なだらかになり、もうそろそろ平坦な道に出られそうだった。

「もうすぐで下山できるな」

「うむ」

 アーニィの問いに、トヨはこくり、と頷いた。引き続きアーニィはトヨに問いを投げかける。

「下山したらどうするんだ? 王都に行くんだろう?」

「もちろん、カタナを探す」

「いや、それは分かってるけど、具体的にはどうするんだよ」

「む……それは、武器屋に聞き込みとか」

「随分と時間がかかるな。王都にはいくら武器屋があると思ってるんだ?」

「たくさん」

「そう、たくさん、具体的には何百と王都中にあるのさ」

 トヨを一人で放っておいてカタナ探しをさせるわけにはいかないのは、アーニィの立場だ。必ず二人で店を回る必要が出てくるのだが、それを思うといったい何日時間がかかることやら。アーニィにとっては絶望的な思いだった。

「なら、カタナのことを知っている人がいそうだな」

 アーニィとは対照的に、トヨは非常に前向きな考え方だった。

「いても、巡り合うまでに時間がかかりすぎるよ。もっと効率的にやろうぜ?」

「じゃあ、なにかいい案でもあるのか?」

 トヨに返され、少々頭の中で思考を逡巡させる。もちろん、どうすれば効率的にできるかなど、そう簡単に思いつくものではない。

「……無いな」

「じゃあ、虱潰しに回るしか無かろう」

 そうなるのは勘弁だ、とアーニィははぁ、とため息を吐いた。

「いったい何日かかることやら……ん? 何か聞こえないか?」

 アーニィが聞くと、トヨも耳を澄ませて眉を顰めた。かつん、かつん、という軽妙な音だ。

「……ああ、聞こえる。まるで木を何かで打ち付けているような音だ」

 それが、背後から着実に近づいてきている。二人は頷き合って、同時に後ろを振り向いた。

「そこの二人、ちょいと待つでござる」

 歩いて近づいてきているのは実に奇妙な男だった。スカートのようなものを穿いて、若草色のトヨに似た服を着ている。何より一番おかしいのは、髪を全部頭頂部で束ねて放射状に毛先が広がっている、南国フルーツのヘタのような頭だった。

「なんだアイツ!?」

 あまりにも変な格好にアーニィは唖然として、眼鏡がずり落ちそうだった。彼の服の袖をトヨがちょこちょこと引いた。

「妙な頭だ……都会ではあーゆーのが流行りなのか?」

 トヨはもう片方の手でその男の頭を指さしていた。アーニィはトヨの顔を見ながら首を左右に振った。

「違う! どっからどう見てもダサいだろ、あれ。流行りそうもないだろ?」

「確かに、ダサいな」

 トヨは可愛らしくこくり、と頷いた。その様子を見ながら、男はぷるぷると肩を震わせていた。そして、しびれを切らして怒鳴り始める。

「ダサいダサいと、良くもまぁ、目の前の人に悪たれることができるにござるな! それに、この髪形はダサくは無いでござる! 「チョンマゲ」という立派な髪型なのでござる!」

「ちょん……ぷっ! 変な名前!!」

 アーニィは吹きだした。

「……これは笑うところなのか? それにアーニィ、笑うほど面白い名前か?」

 対するトヨは全然の無表情。それが、余計にチョンマゲ男の神経を逆なでしていることに、二人はちっとも気付いていなかった。

「貴様らああああ!! わ、笑うだけでも相当な侮辱にござるが、笑うどころか偉大な先人が付けた偉大な名前を全否定とは!! ゆ、許せんでござる!」

「ところで、いったい何の用なんだ、お前」

 激昂するチョンマゲ男に、アーニィが冷めたような問いかけを投げかけると、ぷしゅーと熱が冷めたように、チョンマゲ男は元の冷静そうな表情を取り戻した。

「む、そうでござった。つい目的を忘れてしまうところにござった」

 ごほん、とチョンマゲ男は咳払いをする。

「拙者、とある者たちに雇われ、貴様らの足止めを命令されたのでござる」

「とある者たち……あの山賊たちか」

「トヨ、どうして分かるんだ?」

「さっきいたぞ、あいつ」

 そう言えば、アーニィにも見覚えがある気がした。あの山賊のボスの隣に立っていた男で、何もしなかった男だ。

「ふん、目ざとい小娘でござるな」

「そんな目立つ変な格好をしていれば、嫌でも目に付く」

「へ、変な格好とはなんだ! それに、お主と服装は殆ど同じではないか! むしろ、そのように「ハカマ」の前を破って恥ずかしげもなく太ももを露出させているなど、破廉恥極まりないでござる! むしろお主の方が変な格好でござる!」

 トヨは彼の指摘を聞いて、アーニィの方を見上げて尋ねる。

「む……アーニィ、私の服装も変か?」

 言われれば、アーニィにもトヨの格好があの男に似ている気がした。

「否定はできない……でも、髪形は普通だからいいんじゃないか?」

「貴様! また頭のことを愚弄するでござるか!」

 男はまたしてもぐぬぬ、と歯を食いしばる。そんな怒り剥きだしの彼の腰に据えている武器を見て、トヨは息を飲んだ。

「……おい、お前」

「なんでござるか?」

「その腰に差しているのは、カタナか?」

 その特徴的な細くて黒い紐の巻きつかれた柄、錆びたコインのような鍔、それは間違いなく、トヨが見聞きしたカタナと一致するものだった。

「いかにも、拙者サムライにござるゆえ、使う得物はカタナにござる」

 男は自分のカタナの柄に手を置いた。まだ、刀身を抜いてはいない。ただ、柄に触っているだけだ。それだけなのに、二人はびりびりと肌に痺れるような圧力を感じていた。それは彼から発せられる殺気だ。

「なっ、なんつー殺気!? まさか、あのカタナ……」

「妖刀かもしれん……まさか、こんなに早く一本目と巡り合えるとはな」

 トヨは大剣を抜いた。口元には笑みを浮かべている。例え痺れるような殺気を感じていても、目の前に目標の物があるかもしれない、と思えばこその笑みだった。

「ほう、やっと得物を抜いたか」

「ああ、お前もそのカタナを抜け」

 そのカタナを見定めてやる、とトヨは意気込んでいた。

「ふん、断る」

 しかし、男はカタナから手を離してしまう。

「何っ!?」

「拙者、先ほどの戦いをじっくりと観察させてもらったが……実に未熟にござるな、小娘」

「……私が、未熟だと!?」

「そうでござる。そんな未熟者に、このカタナを使うのはもったいないでござる」

 男は腰にもう一つ差している、木刀を引き抜いた。

「貴様にはこの木刀で十分」

 男は両手で木刀を持って身構えた。本気でそんなもので相手をされるのかと、トヨは自分の実力を過小評価されたことに眉を顰める。

「む……舐めたことをする。後悔しても知らんぞ!」

 あんな木刀ではトヨの攻撃を受け切れるはずがない。一度でも交えれば、あんな安っぽい木の棒はあっさりと折ることができる。あっさりと勝負を付けてやるつもりで、トヨは攻撃を仕掛けた。

「せやああああああああっ!!!」

 飛び上がり、大剣を振り下ろす縦斬りの一撃だ。

「単調な力押しにござる」

 そのトヨの攻撃を見ながら言った男は随分と余裕そうな表情をしていた。そして、木刀を動かしてトヨの攻撃に合わせようとする。

「そんなもの、拙者には通用せん!」

 男の木刀は素直にはトヨの攻撃を受けなかった。振り下ろされる最中の大剣エンシェントのブレードの横っ腹に木刀の刀身を当てる。そのまま彼が木刀で大剣を少し押すと、そのまま大剣はどすん、と音を立てながら男の横の地面へ攻撃を空振りさせた。

「なっ!? ど、どういうことだ!?」

 何が起こったのか分からなかった。トヨの会心の一撃が急に方向を変えられた。それに加えて、間違いなく大剣と触れたはずの男の木刀には傷の一つも付いていなかった。あんな木刀で、自分の攻撃を受け切れるはずがないと思っていたトヨにとってはあまりにも不可解な出来事だった。

「受け流したのでござる。剛を柔で制するのは容易な事でござる」

 男はその理由をあっさりと説明した。トヨの攻撃を男は厳密には受けてはいない。わずかな力でトヨの馬鹿力を制して方向転換させただけであった。

 驚いて動けないトヨに、男はまるで教えを説く師のような口調で捲し立てる。

「それに、直線的な攻撃過ぎる! 踏込も甘い! 飛び斬りは隙だらけになりすぎる故、多用するのは控えたほうが良いでござるよ。メン! にござる!」

 ごつん! とトヨの頭に木刀が振り下ろされた。

「痛っ!? く、くぅぅぅぅ、頭を打つな!」

 トヨは叩かれたところを摩りながら目に涙を浮かべている。

「未熟者へのお仕置きでござるよ」

「仕返しだああああっ!!」

 余裕そうな男に対して、トヨは横切りの攻撃を放った。これなら、受け流すことは容易にはできまい、と思っていたトヨだった。しかし、男はそれを受け流そうとはせずに、ひょい、と地面を蹴ってジャンプした。

「残念、これ位の攻撃、ひょいと飛び上がれば避けられるでござる」

 かつん、と下駄の音を立てながら、男が着地する。

「なっ!? こ、これも喰らわない……だと……!?」

 時が止まったように、トヨの動きが止まった。

「ほら、戦闘中に立ち止まってはならんでござる! メン!」

 そこに、もう一度男がトヨの頭に木刀を振り下ろした。ぐあああ、とトヨはもんどりうった。さっき叩かれたところと、全く同じ部分を叩かれたのだ。

「痛ッ!! き、貴様! さっきと同じところを叩くとは……」

 その様子を見ながら、アーニィがぽつりとつぶやいた。

「と、トヨが押されている……」

 それはトヨにも聞こえていた。

「押されてなどない! これから逆転して見せる!」

 トヨはムキになって怒鳴った。それからぴょんぴょん、と後方に下がって大きく距離を取った。

「これだけ距離を置けば、すぐには反撃できないはずだ! いけえええええええっ!!!」

 再び、トヨは横切りの攻撃を放つ。ぶおん、と半円を描いて男の方へと真っ赤なブレードが迫る。しかし、男はすたすたとマイペースに前に歩きだした。相変わらず、風になびく草のようなのほほんとした立ち振る舞いである。

「これまた残念。槍のように距離を置けば、剣に有効、というのはよく分かる理屈ではあるが、逆に槍と同じ弱点を持ってしまう。それに、こんなに柄が長いと、わざわざブレードを受けようとする必要はないでござるよ」

 そう言って、男は迫りくる大剣の、長い柄の部分を素手で掴んで受け止めた。

「柄を掴まれた!?」

 男が柄を手放すけれど、トヨは相変わらず動けないままだった。男はその隙に、トヨの方へと距離を詰めた。

「ほら、隙を見せるなと言ったでござろう。それ、ドウでござる!!!」

 ばしん、とトヨの腹部に、木刀を打ち付ける。両手で横に振るった一撃だった。

「ぐっ……」

 たまらず、トヨは膝を付いた。

「さっきまでの威勢はどうしたのでござるか?」

 トヨの姿を見下ろす男は、もう終わりだと言わんばかりに木刀を片手に持ち変えていた。

「……トヨの奴があんなに押されるなんて……あの男、いったい何者なんだ……」


ども、作者です。web漫画でタイトルが同じものを発見。あかん、被ってもうた……。

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