山賊の少女
「まーたこいつらかよ」
周りの茂みから出てくる山賊たちを見て、アーニィがぼやく。それも当然で、見覚えのある紫ずきんの男たちが、相変わらずの血に飢えた目をぎらぎらと鈍く輝かせながら、二人を囲んでいたからだ。
「また、私に倒されたいらしいな」
トヨが大剣エンシェントを引き抜く。その姿を見て動揺する人間がいない所を見ると、こいつらはさっき襲ってきた奴らと同一人物ではなさそうだ。もしも一度でもトヨと戦ったのなら、びびってしまうに決まっている。それほどに凶悪な強さを彼女は先ほど見せつけていた。
彼らは先ほどの奴らとは別人らしい、と言うのは間違いなさそうだったが、なかなか二人に攻撃を仕掛けてこようとはしなかった。
「間違いなさそうだなぁ」
「おい! お前ら、山の向こう側で俺たちの仲間をぶった押しやがった奴らで間違いないな!?」
と、山賊の内の一人が二人に聞いて来た。
「ああ、そうだ!」
それに、トヨが即答したのでアーニィは頭を抱えた。
「おいおい、ここは嘘でも違うとか言っとけば妙なことに巻き込まれなかったんじゃないのか?」
「む、そうなのか? ならなぜ先にそれを言わない」
「言う暇ですらなかったろ、お前が答えるの早すぎなんだ」
二人が口をゆがめながら小競り合いを始めるのを、山賊たちは曇った顔で見ていた。
「ったく、あんな奴らにやられたってのか、俺達の仲間は……」
「こんなやつのためにうちらの女王の手を煩わせることになるなんてなぁ……」
小声で山賊たちが話していると、ざっ、ざっ、と二つの足音が、山の下手に続く道の向こうから聞こえてきた。トヨとアーニィは口論を止めて、その方を見つめた。
歩いてきているのは二人の人物だった。一方は、紫色の長い髪を靡かせ、おでこに緑の鉢巻をしている背の高い少女。体つきは十分に大人らしいが、まだまだ、顔に幼さが残っている。実にグラマーな胸を黒い晒しで押さえていて、胸元とおへそが見えるように真ん中あたりのボタンを一つだけ留めた、首元にファーの付いたノースリーブのジャケットを着ている。見ているだけでアーニィは嬉しくなりそうだった。
そしてもう一人は、非常に変な格好をしている男だった。服装的にはトヨに似ている、何やら袖の広い上着と、男の癖に濃いグレーのスカートのようなものを履いて、かつん、かつんと軽い足音を響かせる、木造のサンダルを履いている。しかも頭髪は、真っ黒な長い髪をひとまとめにして、頭の頂点で結んでいる、まるで南国のフルーツのヘタのような珍妙な髪型だ。
「あいつらが、私の可愛い部下たちを痛めつけてくれた子達かしら?」
女は落ち着いた声で、未だに茂みの中から出てこない山賊たちが返事をする。
「はい、奴ら証言しましたぜ」
「そう。……あんたたち、本当よね」
「ああ、もちろんだ」
それに再びトヨが即答する。アーニィももはや呆れるのも嫌になっていた。正直すぎるのか、あんまり物事を深く考えない性質なのか。
「へぇ……あら、あなたたちが持っているのは剣かしら?」
対するアーニィとトヨの二人も、よくよく考えれば珍妙なものだ。特に剣を大量に持っているあたりと、馬鹿でかい大剣を手にしているあたりが、余計にそう感じさせる。普通は長剣といっても、三メートルはしないし、剣を持っていたとしても二本くらいが適度だろう。だからこそ、二人の姿を山賊の少女もいぶかしがったのだ。
「ボス、俺達がやっちゃってもいいっすかねぇ?」
そんな少女に、山賊の男の一人が聞くが、少女はそれに首を振って返し、尊大に言い放つ。
「ダメよ。あいつは私のシマで散々やってくれたんだから。二度とそんなことができないように、十分な実力差を見せつけて、反省させてあげないと」
少女は、隣に立っている珍妙な男に、手を出さなくていい、と制止してから、トヨの方に歩み寄った。
「バカみたいに大きな剣を使っている女に散々にやられたって聞いたの。どんなゴリラ女がにやられたのかと思って来たら、まだまだ小さい、そう、すっごく小さい可愛らしい女の子じゃないの」
腕組みをして背の小さいトヨを見下ろす彼女の視線は、明らかにトヨの小さな胸に向けられていて、さらに自分の大きな胸を誇張するかのように腕組みをしていた。トヨを嘲笑している。
「ん、ああ、あの弱い奴らか。もしかして、お前やあいつらのボスか?」
しかし、トヨには相変わらず胸のことについての皮肉には鈍感だった。
「ええ。私はジュリア・スピアーズ。ここの山賊団のボスよ」
「へぇ、で、何の用だ?」
「あんたにオトシマエを払ってもらうのよ。私が思う存分に痛めつけてね……アンタ達!!!」
山賊のボス少女、ジュリアが掛け声を掛けると、「へい!!」と部下たちが一斉に声を上げて、ジュリアの方に何やら長い棒状のものを投げつけた。
ジュリアはそれを見事にキャッチすると、くるくると回し、先端に付いた小型の刃物をトヨの方へ向けて構える。
ジュリアが受け取ったのは、槍だった。
「さぁ、そこの大剣少女、私と一騎打ちをしなさい!」
「大剣少女ではない、トヨだ」
「……そう、じゃあ、トヨ! 私と一騎打ちよ!」
「ああ、構わないぞ」
トヨも大剣エンシェントを構える。
「ちょ、ちょっと待った、トヨ!」
二人が対面してお互いの武器を差し向けているときに、アーニィがトヨに大声でストップを掛けた。
「なんだアーニィ、ちょうどいいところなのに。そんな風に口を挟むとテンポが悪くなってしまうじゃないか」
「それをお前が言うな! と、それは置いておいて。トヨ、アイツと戦うのは止めておけ」
「む……なんでだ?」
「あいつが使う武器、槍だろ?」
「ああ、見れば分かる」
「じゃあ、剣と槍、どっちが有利に戦えるかは、分かるか?」
「む……」
「槍だ。槍と剣だと、圧倒的に槍の方が有利なんだ。リーチに差がありすぎて、戦いにならん。剣で槍を倒すには三倍の力がいると言われるくらいなんだ。ここは、戦わずになんとかして逃げようぜ。それにあの山賊の女、結構できそうだ。構えを見ても隙が無い」
「む、そんなにできる女なのか。なら、余計に戦いたくなるな」
「おいおい、戦うなって言ってるんだぜ、俺は」
「別に戦ったって構わんだろう。それに、その剣と槍との相性とやらは、普通の剣と普通の槍どうしの戦いの場合の話じゃないか。それなら……」
トヨは不敵な笑みを浮かべて、自分の手に持った、大剣エンシェントを見て言った。
「このエンシェントには関係ない。相性でもなんでも、覆して見せる!」
トヨは自信満々に告げた。これは話を聞いてくれそうにないなと察したアーニィは、せめて殺されないでくれよ、と祈るばかりだった。
ども、作者です。遅めの更新+短い内容。ことカタナガリに置いては短い話は結構あります。今書いている段階からはそうならないように気を付けてはいますが、如何せん書きたいことがあっさりと収まってしまうときは仕方のないものだとおもっちょります。