9話 ウィンクラ
――あー、もう苛つく!!
私の感情は、呆れを通り越して怒りにまで発展したようだ。
二組目の悪手に苛立ちを隠せない。
前の子たちの戦いを見て、慎重に進めようと間合いを詰めてこなかったのだ。
対ウィザード戦術としては0点と言ってもいい。
相手に魔法の時間をわざわざくれてやったようなものだ。
結果的に、1組目よりさらに早い結果で彼らは敗退してしまった。
私が開いた時間を使って広範囲の魔法をぶち込んでやったためである。
本来であれば今から一時間ぐらい反省会やってもいいのだが、今回のメインイベントはこれからだ。
3組目。
彼らが問題である。
彼らのパーティー名は『ウィンクラ』という。
古き言葉だが、なかなかに面白い名前をつけたものだと思う。
そして彼らが今現在、学園所属の冒険者としては最強。最も卒業に近い4人である。
前回の試験期間中に、累計で5人から教官の承認を得たことにより、
今回で卒業資格にまで届くのではないか。などと学園内では賭けの対象にすらなっている。
本人たちが知っているかは別だが。
今までの奴らとは明らかに装備が違う。
構成は、ナイト、サムライ、レンジャー、プリースト。
ナイト セリック・F・イグリデュール
レンジャー セシア・ゼイン
サムライ ジン・セツナ
プリースト エレイン・ゼイン
セリック君の装備は一見チェインメイルのように見えるが、金属の色合いを見るに霊銀を編みこんでいそうだ。
下手なプレートメイルをゆうに凌ぐ強度を有しながらも、おそらく軽量化もなされているといったところか。
セシアちゃんのレザーアーマーも、おそらくはかなり高位の魔獣の革だろう。
色合い的に、一眼鬼辺りか。深淵龍ってことはさすがになかろうが。
ジン君は、サムライ教官であるハザンさんの孫だし、プリーストのエレインちゃんもなかなかに曲者だ。
――複合習得者
神の奇跡と現在の詠唱魔法などを高位なレベルとして習得した者達に与えられる呼び名だ。
そもそも、神の奇跡と魔法ってのはどうも相性が悪くどっちかしか使えないってことが多い。
他にも、精霊召喚術・ゴーレムなどを生み出す錬成術・時などを司ったとされる冥術・呪術・死霊術・呪歌など魔力を必要とする物は多いのだが、これらは例外で、
あくまでプリーストとして、そしてウィザードとしての才を並立できた
希少な人材だけが複合習得者として呼ばれるようになる。
彼女の魔法の素質は、わたしの教室に来たことがないのであまり分からないのだが、
あのワイズマン先生の秘蔵っ子であることを考えれば相当のレベルで間違いないだろう。
「――言っておくけれど、あなた達には加減しないからね……」
といいつつ、私は身体強化、感覚強化の魔法をかけ直す。
もちろん、殺さない程度には加減をする。
だが、今までのような完全な手抜きが出来る相手じゃないのは確か。
どんなひどいことをしてやろうか。
素直に負けてやる気はない、勝ってしまって合格にした5人の教官を嘲り笑いたいから。
自分のあまりの酷い思考に苦笑するが、【魔女】らしいじゃないか。
昔の仲間ならきっとそう言ってくれる。
「――いきます」
セリック君の合図で、戦闘開始だ。
しかし、突っ込んではこない。
様子見?でもそれは悪手と実例を示したはずだけれどね。
まぁいいかと私は、イメージを形成する。
「――大きく――はじ!?」
何かが飛んでくる。
私は詠唱を止め体を動かす。
シュン!と風のような何かが通過していく。
居合か……。
私は正体を把握する、おそらく詠唱に入ったところで居合を飛ばしてきたのだ。
サムライの剣技は、その刀の長さによる範囲だけが攻撃範囲ではない。
その精神力を使い、遠くはなれたところの敵にまで剣撃を届かせることができる。
正直、かつての仲間のサムライより質が悪い。
あいつはこういう小手先の技が苦手で不器用だったが、ジン君は相当のレベルで器用のようだ。
悩んでいるところに、側面から矢が飛んでくる。
ありえない!!などと思いつつ、手にまとわせておいた風の魔法で弾く。
曲射にしても曲がりすぎである。
どうやら彼女も魔法が使えるのだろう。
風をまとわせることにより速度と変化を生んでいるのだ。
居合と弓の連続攻撃は私を止まらせてくれない。
なるほど。合格ね。
私は彼らの動きを評価する。
要は私を動き続かせればいい。
盾が突っ込み場を切り開くのもひとつの手だが、隙を与えずに常に攻撃を仕掛け続ければそれは対ウィザード戦術として実に優れたものになる。
問題は、ここまでうまく途切れずに攻撃を繰り出せる連携の良さだろう。
――ならば、突っ込む。
このままだと、エレインちゃんの魔法が飛んでくる。
セリックくんに近づけば狙いは定めづらい。
一気に盾を構えるナイトに突っ込み密着する。
盾に触れた瞬間、体が止まる。
それで私にとって魔法を打つには十分だ。
「――弾け!」
突風がナイトをおそうが、彼の体は一瞬浮かびそうになるも耐える。
壱節では無理か……。
だが、少しバランスを崩した彼の盾はちょうどいい足場だ。
私は盾に乗っかり、更にジャンプし彼を飛び越える。
そこに飛んでくる刀。ジン君のためらいのない突き。
私は、刀の側面から、拳を当て滑らせる。
魔法で強化した腕だから出来る芸当。
躱しながら、地面に着地する。
「――射抜け!エアクロー!」
エレインちゃんの魔法が聞こえる。
風の爪が、私を切り裂こうとする。
だが狙いすましたせいだろう範囲が狭い。
私はそのまま前に突っ込む。
少し後ろ髪が切れた気がするがその程度だ。
狙いはセシアちゃん。
相手は4人だ、一人倒せば一気にこっちに傾く。
しかし、動きの早いセリックくんがもう追いつこうとしている。
ならば狙いは、エレインちゃんだ。
と思っているところに、後ろから殺気を感じ、
わたしは振り返らずに横に躱す。
ジン君の刃と体が背後から迫っていた。
そして、またセリックくんが盾となり最初の状態に戻る。
厳しいわね。これは。
相手を崩し切れない。少なくともさっきと同じことを繰り返しても一緒だろう。
むしろ、いずれ私に攻撃が当たる。
私は攻撃を躱すことにはそれなりに長けているが、防御に関しては芳しくない。
――だからこそ、面白い。
いつの間にか乾いた唇を舐めずる。
どうやって、この不利な状況を崩すか。
私の思考が卑劣な方法を算出しだしていた。
戦闘描写ほんと難しい…