7話 卒業試験期間開幕
ついにこの日が来たか。少し待ち焦がれてきた日が来て私は胸を躍らせる。
生徒たちの阿鼻叫喚地獄の幕開けだ。
――卒業資格認定試験期間が始まる。
学園に居られる年齢は25歳まで。それがここのルールだ。
では、どうすれば卒業できるのか。
ことは単純である。
年に4度行われる認定試験中に学園の教官達26人の中から10人に卒業してもよいという認定を貰えばいい。
ただそれだけだ。しかも一度の試験期間ではなく累計でいい。
それだけなのだが、これが実に大変である。
実際、学園が始まって5年が経とうとしているわけだが、まだ一人の卒業生すら生まれていない。
脱退者なら星の数までとは言わないが、相当数なのだが。
学園卒業者としての冒険者として問題がないという認定を与えるだけなのだから、教官たちも甘めにしてやればいいはずなのだが、
もし自分が卒業認定を与えた者達に何かがあればそれなりに責任も発生するし、何より、教官たちってのはだいたい負けず嫌いなのだ。
【放浪の賢者】が誰も解けないような難問を出せば、【戦姫】が一人で100人の生徒相手に無双する。
レンジャーやシーフの教官相手に必死に一日隠れ続けさせられる。などなど。
生徒たちにとってはある意味地獄の、教官たちにとってはある種憂さ晴らしもかねた試験期間である。
◇
私の教官用の敷地の中にある屋外訓練場。
ウィザードである関係上、どうしても攻撃が大規模になってしまう。
魔法で強化してあるとはいえ屋内では不安もあるため、試験となるとここになる。
私の認定試験内容は5年前とほぼ変わりがない。
――私を実戦で降参させること。ただし最大6人までのパーティーで挑むことを許可する。
シンプルな内容だったため、初年度から相当数の挑戦者が挑んでくれたのだが、残念ながら一人も合格者は出ていない。
更にいうと重傷者も続発したため、挑む子たちはどんどん減ってきているのが現状だ。
手間は減るのはいいのだが、「悪魔の所業」とか「学園で一番厳しい試験」とか言われるのはちょっと困る。
私の視線からしても、参加したくない試験とかあるのだから、そこまでひどくないはず。
うん。そうだ、そうにちがいない。
さて、今日は3組の挑戦者が来てくれたようだ。
前期の期間中、挑んできたのがわずか4組だったことを考えると、今期はなかなかに挑戦者が多そうな気もする。
「うーん、関心関心。」
なかなかに骨の有りそうな子が多い。
前は条件ゆえにひよっこみたいな子が多かったのだが、ずいぶん鍛え上げた子が多そうだ。
故に楽しい。
こういう子たちの自信を砕くのが。
もっと上の存在がいるのだと認識させる。
そうすることでもっと高みを目指そうとする、そこで自惚れないようにできる。
自惚れたらそこから死を招く。私自身が今まで思ってきたことだ。
もう無理だと思ったら、冒険者なんてやめてしまえばいい。
命を貼る仕事なのだから、無駄に命を安売りする必要なんてないのだ。
しかし、構成や人数を見るに『6人まで』って言ってるのに4人組が1、5人組が2とは。
なめられているわけではないだろうが、ちょっと気になる。
そういえば昔の自分のパーティーも5人だったななんて思い出す。なかなかに6人組ってのは難しいのかもしれない。
「「よろしくおねがいします!」」
どうやら最初に挑むメンバーが決まったようだ。
構成は、ソルジャー・モンク・レンジャー・ウィザード・プリーストかな。
私の授業を受けている子もそれなりにいるし、構成は読みやすい。
おそらく、ソルジャーの子が突っ込んできて私の魔法を止める。
そこにレンジャーの子が弓か投げナイフ、ウィザードの子が魔法でという感じか。
と思ったが、レンジャーの子がすでにクロスボウを巻き上げている。
投げナイフはなさそうだ。
いつものわたしの服装は、黒一色のドレスっぽい服にしているのだが今回は動きやすさを重視した感じにしている。
まぁといっても色がほぼ黒なのはあまり変わらないが。
一見黒に見えるほど濃い紫の髪を隠すための三角帽子はおいてきた。
あれは、魔法のイメージ構成の安定化をするにはそれなりに役立つのだが今回の場合は邪魔になる。
どうしても魔法を使うには動きを止める必要がある。
対ウィザードにおいて最も大切なのは、相手に時間を与えないこと。
向こうもそれはわかっているようだ。
「――醒めよ」
自分の感覚や動きを増す魔法をかけ準備は完了だ。
わたしの場合力ある言葉 は必要がない。
学園に来てから知ったことだが、このわたしのスタイルは『短縮詠唱術』と呼ばれるようになったらしい。
イメージ構成をよりしっかりとさせることにより、想像制御の言葉を力ある言葉 とする。
これの問題点は、安定感がどうしても力ある言葉 を使うものと比較すると落ちるのだが、要は最初のイメージ構成をその分強化しておけば安定する。
【原初の海】と名づけたあの精神世界からのイメージを必要時に作り出せればいいだけなのだ。
元々は、昔組んでいたサムライの馬鹿が、
「力ある言葉 を使うと口の動きや言葉で魔法の特徴がわかる。直せないか?」
とかいう無理難題をふっかけてきたことに端を発するのだが。
結果的に、『短縮詠唱術』を生み出せたことには感謝だろうか。
更にいうと、魔法そのものを短縮できたため、隙も減った。
問題はこれを教えるのが凄まじく難しいことだろう。
ほぼ感覚でやっているためだ。
「さて。はじめましょうか!!」
私の合図で試験が始まる。
引退したつもりでも、こういう時興奮するのは仕方ないことなのだろう。
ようやく次回戦闘回です。