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引退魔術師のセカンドライフ  作者: DEED
一章 学園生活
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5話 資質測定

「ーー灯せ。ライティング」


 詠唱の後、明かりが生まれる。

 生徒たちの「おー」という驚きの声の中、それを保持し続ける。


「魔法は、想像し制御し放出する。その三段階によって構成されているわ。

 つまり、最初に光の塊が生み出されて光るイメージを想像し、

 次に、『--灯せ』という命令によって、想像を制御する。

 最後に、力ある言葉 (パワーコード)により制御された想像を具現化し放出する」


 これが今現在私達が主としている魔法の詠唱、制御法となる。

 これが確立されたのはわずか50年ほど前だというのだから驚きだ。

 かつてはもっと異なる方法で魔法は形成されていたのだという。

 しかし、今ではその方法はすでに失われている。


 何度も繰り返される戦争と大規模な滅亡。

 最もひどかったとされる400年前の【大破壊】、それに次ぐとされる200年前の【大戦争】。この大きな世界の変動により人間の過去の叡智はほぼすべて消滅した。

 そこからようやく立ち直ってきたのだ。


「今やっている魔法は、初歩の初歩。これができないと後々困るなんてものじゃないわよ?

 魔道書ってやつは、陽の光や熱に弱いの。故に魔法の光で読むことになるわ。

 とはいえ、みんながこれをすんなりできるわけじゃない。ゆえの資質測定となります」


 魔法を使うためには魔力がいる。

 人には生まれつき魔力が宿っているのだが、いかんせんこれは人によりその差が激しいのだ。

 ゆえに問題は、ウィザードといえるほどに育つ可能性のある魔力を持つ子供たちの選別となるわけだ。


「で、教官。なんで私達はこんな変わった体勢で座っているのでしょう?」

 一番前の子が質問する。


「いい質問ね、ちなみにその体勢はサムライやモンクが行う瞑想・黙想と言われるものの体勢になるわ。

 魔力が少ない子でも、想像を正確、そしてより強く生み出すことにより魔法を効率よく安定して使うことができるの。

 つまり、魔力と集中力、精神力と言ってもいいかもしれないけれど、それとのバランスが適性であることが求められるわけね。

 高い集中力を生み出すために、その体勢になってもらっているわ」


 納得はできていないようである。

 そりゃあそうだ、ウィザードの素質とモンクやサムライが関連性があると言われてもピンと来ないだろう。


 だが、例えばモンクはその集中力で気を練りただの拳を硬質化し、岩や鋼鉄で出来た鎧や盾を破壊する。

 サムライはその集中力で鎧と鎧の間に刀を差し込んだり、

 上位の者になればもっと細かい間に剣撃を与え物質を切断するのである。


 では、その集中力を魔法に活かせないか。

 わたしの魔法の原理はそこからできている。

 まぁ、昔の仲間がずっと黙想しててそれをたまたま覚えただけというのもあるのだが。

 これが実際にものすごく役に立ったわけだから、何でもやってみて損はないものである。


「…まぁ、リラックスして何も考えずに、ゆっくり呼吸しなさい。

 そのうち何かが見えてくるかもしれないわ」


 今日焚いている香は、前の幻覚を生ずるものではなく気を落ち着かせるものである。

 ちょっと気を抜けば寝てしまいそうな心地よい部屋の空気の中、子供たちはなれない体勢である禅を組むのだった。



 ◇



 何人かは寝てしまっている。

「うーん」と唸りながら首を傾げる子供もいる。

 その中、一人の子供の動きに注目する。


 目に光はなく、わたしの顔を認識している様子はない。


 ――入ったかしらね。

 私は、その様子に手応えを感じる。


「何か、見えるかしら?」

「広くて暗い世界が見えます……」

 少女の返答は、まさに私が求めているものだ。



覚醒(トランス)】と私は読んでいる現象である。

 こちらではない世界。それは精神の世界なのか、死者の世界なのか、

 はたまたもっと異なる世界なのかは分からないが、こちらの世界ではない世界を見る現象。

 そして、それは私がウィザードとして最も欲している素質なのだ。


「今あなたはどうなっているかしら?」

「まるで、水の上で浮いているような……」

 覚醒状態では、何故か水に浮いているもしくは漂っているイメージに統一される。

 人によって差異があってもおかしくはない。

 まぁ逆に説明もしやすいのだが。


「そこになにか見えるかしら?」

「青い光のようなものが見えるような」


 青い光、水属性だろうか、それとも氷か?

 私は慎重に質問を続けていく。


「その青い光はどんな形をしているかしら?」

「真っ直ぐで冷たい感じがします……」


 おそらく氷属性だろう。


「じゃあ、その光をゆっくり掴むようなイメージを持ちましょう。そして、それを放つようなイメージを想像してみて?」

「やってみます」


 彼女は、手を前に出しゆっくりと手を結ぶ。

 彼女なりに掴んでいるイメージなのだろう。


「最後に、『ーー放て、アイスニードル』と詠唱しなさい」

「放て!アイスニードル!!」


 彼女の手の中に魔力が生じ、想像を具現化する。


「ひゃ!?」

 彼女は驚き、結んでいた手を開く。


 彼女の手の中には、指の爪程度の氷の針ができていた。

 今にも溶けそうなそれは彼女自身が生み出したものだ。


「上出来、上出来♪今のイメージを忘れないように。もう一度やってみなさい?」

「は、はい!」

 初めて出来た魔法に嬉しさがあふれているのだろう。

 彼女は笑みを浮かべながら目を閉じる。


 初回で魔法の生成まで行けるとは驚きだ。

 彼女にウィザードとしてやる気があるのであればいいウィザードになれるに違いない。



 結果として、今回の20人中覚醒状態になれた生徒は彼女を含め6人だった。

 実際に魔法の生成までいけたのは2人だけ。


「20人の6か…こんなものかしらね」

 パーティーにとって魔法が使える人間は多いに越したことはないのだが、

 実用レベルまでの魔力を有する子はやはり少ないのだ。

 そして、実用レベルに達するかどうかを見極めるには私にはこの方法しかない。


 あとは、報告ね……。

 この結果を面倒な人に伝えないといけないのだ。

 そのことに私は大きくため息を付くのであった。


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