2話 実践的授業 結果
冒険者ーーかつてはならず者や荒くれ者たちと同類。いやそれ以下でもあるとまで思われていた。
なぜなら彼らは未踏地や遺跡を荒らすだけではなく、お金次第で村を壊滅させるそんな仕事まで引き受けていたからだ。
仕事の依頼をしても、その金を持って蒸発なんてこともあった。
それならまだましだ。野盗退治を依頼した結果、逆に野党たちと協力しすべてを奪い取る。
そんな冒険者とすら言うのがおこがましいレベルの似非冒険者が多数いたからだ。
必然的に良心的や真面目な冒険者達は肩身の狭い思いをし続けてきた。
そんな状況を改善しようと思い、生まれたのが冒険者ギルドであった。
ギルドが冒険者の身分を保証することによって、
冒険者達は責任と義務、そして多少の手数料を背負うことになったが、
依頼者たちの信用を得ることができた。
ギルドは信用におけるもののみ身分を保証するし、
冒険者はギルドから保証によって安定を得た。
一方で依頼者たちは、得体の知れない者達よりギルドの保証を受けた者達を選ぶようになった。
ギルドが損失を補填してくれるのだから、普通の依頼者としてはそっちを選ぶ。
結果として、ギルドからの冒険者資格を得れない似非冒険者達は野盗などとなっていき、
ギルドからの冒険者達によって退治されていく。
こう言えば順調と言えたのかもしれない。
だが冒険者というイレギュラーな力を集めだした冒険者ギルドは諸国にとって厄介な存在となりつつあった。
冒険者ギルドは何度も解体や消滅の危機に瀕しつつも、
今から50年前、ようやく大陸の多くの国の承認を受け正式に設立した。
【国家間の問題には一切手を出さない】
このことを唯一にして絶対の条件にだ。
本部は、魔法帝国ディアシールの帝都アルテナに。
そして支部が各国の街に設立されていくことになった。
ようやく足場を固めた冒険者ギルドではあったが、次なる問題が出てきた。
ギルドに所属する有能な冒険者が足りないことである。
有能な冒険者達は各国によって次々引き抜かれていたのだ。
あるものは騎士団長、またあるものは宮廷魔道士として。
それに準じた地位と領土を与えるという形で。
勢力拡大のため力ある冒険者達を欲する国は枚挙にいとまがなかった。
……ギルドはこの問題に対し有効な手を打てなかった。
なぜならば【国家間の問題には一切手を出さない】の条件に触れてしまうからだ。
すでに引きぬかれたものを無理呼び戻すようなことをすれば、
ギルドは国を傾けた存在となり唯一のルールすら守れぬ危険な存在として、消滅させれるだろう。
そして、ギルドは領土を有さない。
地位もギルドの支部長や職員程度しか与えるものがなかった。
この問題へのひとつの答えが生まれたのは10年前の話である。
引き抜かれるのであれば、それ以上の数に育てればいいのだと。
ギルド自身の手で。
優秀な冒険者を引き抜かれる前に、ギルドが設立した冒険者育成施設の教官として雇うのだ。
そして、施設から巣立った冒険者達はギルドに恩を感じ、引き抜きに対しても今まで以上に抵抗してくれるだろうと……
学園ーーとだけあまりにも簡略された名をもつ冒険者育成施設がディアシールと双璧をなす大国グラディス王国に建設されたのはわずか5年前になる。
◇
私は窓を開く。
部屋の中に充満していた幻惑を生ずる香が外へ出て行く。
充満しているからこそ効果はあるが、外へ出て行けば霧散し効果はなくなる。
ふぅ……と私は息をつく。
慣れたものとはいえ、あまりこの香りは好きではないのだ。
最もこの香りが好きなどという奴がいれば、脳に問題があると思わざるをえないが。
外で休憩している三人が戻ってくるまではしばらく時間があるだろう。
……明日来なさいでも良かったわねと少し後悔する。
彼らの様子を見ればすぐにでも眠りにつきたいだろう。
まぁ、ゆっくりと戻ってきてくれればいい。
時間はたっぷりとある。
どうせ、これで今日の講義は終わりなのだから。
彼らが戻ってくる前に私にはやることが合った。
いや戻ってきたあとでもできることだが。
彼らの名前が記された書類に今回の結果と評価を記すこと。
これにより彼らの今後が決まる。
というほどではないが、他の教官たちの一つの視準となるし、
複数人の教官から不適格の評価を貰えば、最終的には学園にはいられなくなる。
中途半端な冒険者は結果として命を失うのだ。自分だけでは済まず、パーティー全員の命すら危険にすることすらある。
だからこそ、評価は厳しくする必要がある。
彼らの命を守るためにもだ。
◇
9の月 11日
戦闘訓練結果(幻惑での擬似訓練)
全員不合格とする。
ただし冒険者として不適ではなく訓練を重ねることにより改善可と思われる。
引き続きの訓練に励むことを推奨する。
詳細
アーディン・D・エストリン
男性 16歳 ナイト
評価 ナイトとしてのスキルとしては適していると思われる。
本訓練により初めて不可侵領域を発動するという成長を見せている。
引き続きのナイトとしての訓練を積ませるべきだと思われる。
リレット・キャロル
女性 15歳 ウィザード
評価 ウィザードとしては申し分のないレベルとなりつつある。
ただし、臆病であるのか集中が途切れているところが多々見えた。
ウィザードとして、重篤な欠点となる可能性もあるので、
要観察とする。
エル・クレスト
男性 17歳 レンジャー
評価 索敵不十分など、レンジャーとして危険なところが多々見受けられる。
しかし、腕を噛まれた状態でも矢を外さなかったことは高く評価できる。
本職の教官たちに最終的な判断は任せるものとする。
ウィザード教官 ミラ・ディエル
のんびり書いていきます。
仕事が忙しくなりそうなので、週末まで書けないかなぁ…
まとめ書きしておくべきでした。