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引退魔術師のセカンドライフ  作者: DEED
二章 野外活動
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2話 アラクネのママ

ちょっとだけ、性的な表現があります。

R-15らしさがちょっとあるかもしれません。

 ――蜘蛛女アラクネ


 人間の女性の上半身に蜘蛛の下半身という人型の魔物の中では比較的少数な種族なのだが危険な部類に該当する。


 とはいえ、野良で単体の蜘蛛女アラクネを相手にするのであればそこまでの脅威ではない。

 彼女たちの恐ろしさは、魔法が使えることもあるが、その糸だ。


 その粘糸に捕らえられたらとてもじゃないが抜けだすのは困難だ。

 強靭であり粘度も高いその糸は、外側から剥いだりするぶんには案外なんとかなるのだが内側からでは脱出するという行為をする前におそらく彼女たちの餌になる。


 故に単体の蜘蛛女アラクネと単独で挑むのはかなり危険な行為であるのだが、一般的に蜘蛛女アラクネと相対する場合は冒険者側は複数なのでそこまでの問題はない。



 ――では。もし蜘蛛女アラクネが徒党を組んで連携を組んで来たらどうなるだろうか。

 そう、それこそがここ、ラディアの森の危険度が8にまで引き上げられた要因である。




 ◇




 私が感じる範囲でおそらく10は超えている。

 はっきり言えば、絶望的とまでは言わないまでも危機的状況である。


 もし、彼女たちが全員同時に糸をかけてきたら。

 考えるだけで恐ろしい光景ではある。


 とりあえず見える範囲では3人の蜘蛛女アラクネ

 体格を見るに、まだ幼い感じではある。偵察要員といったところか。


 しかし、女性である私から見てもなのだが、

 上半身は少女の魔物が胸を露出してるのはどうなんだろう。

 蜘蛛女アラクネの上半身は女性なわけだが、ではどこからが蜘蛛なのかというとどうも個体差があり、胸の上辺りからというものもいれば、腹部、下手をすると股辺りからというものもいる。

 平均すると胸の上部が人間でそこからが蜘蛛というのが多い気がする。


 見えてるうちの一人が完全に腹部から蜘蛛の体なため、胸が完全に見えているわけだ。

 まだ幼いから膨らみは小さいけれども。


 じりじりと近づいてくる3人。


「まって、あなたたちのママに会いたいのだけれど」

 彼女たちに手を向けたあとの私の発言に、蜘蛛女アラクネたちが一瞬驚き、その後顔が変わる。

 気配も、今までは私で遊ぼうって感じだったのだが、明らかに敵意を示している。どっちかというと殺意に近い。



 ――まずりましたかね。



「ママウバウキダ!!」

「コロセ!!」

「メスイラナイ!!ツブシチャエ!!」

 幼き蜘蛛女アラクネたちから感じる殺意は爆発寸前である。


 ――話が違うんだけれどなぁ。

 彼女たちを倒すことは可能だろうが、それは後々面倒である。

 ここの蜘蛛女アラクネ達は自分たちをひとつの巨大な姉妹の家族として認識している。

 つまり、彼女たちに傷つけるような行為は、より強力な蜘蛛女アラクネの大人たちまで敵に回すということだ。



「ミラ・ディエルがきたって、ママに伝えてもらえないかしら?ママなら私のことを知ってるはずよ」

 ならば、次の手である。

 蜘蛛女アラクネたちの気配が少し消える。どうやら何人かが伝えに行ったようだ。

 問題は残りの子たちが我慢してくれるかどうか。


 魔物に対して感覚を狂わせる魔法は効果が薄いし、毒系の魔法も効きづらい。

 必然的に彼女たちに攻撃を仕掛けられたら、多少のダメージを与えるしかない。


 しかし、それだけは避けたい。

 ここの蜘蛛女アラクネを全部敵に回すことも怖いが、彼女たちのママを怒らせることのほうがよっぽど怖い。





 どれぐらいの間、待っていただろうか。

 嫌な緊張感の中にいたせいだろうか、涼しいはずの森のなかにもかかわらず私は体中にびっしり汗をかいていた。


「久しいナ。ミラ」

 ひときわ大きい蜘蛛女アラクネが逆さまの状態で振り落ちてくる。

 地面にぶつかる前に彼女の体はぴたっととまる。


 まるで重力を無視したような動きだが、よく見れば彼女のおしりから出た糸によって支えられていることがわかる。

 よく見ないと見えないほどに細い糸にも関わらず、その巨体を支えているのだから、その糸の強靭さがよく伝わってくる。


 黒髪の長い女性の姿。上半身は私と変わらないぐらいの体型、下半身は2mを超えるぐらいの蜘蛛の体である。

 逆さまのため、髪が全部顔を隠すように垂れ下がっているので一種のホラーである。

 いや、もとが蜘蛛女アラクネなんだから、ホラーというのもおかしい気がする。



「妹タチヨ、コノ人間ハ ママノ友達ダ」

 ようやく幼き蜘蛛女アラクネ達からの殺意が消えてくれる。

 大きい蜘蛛女アラクネは器用に身を翻し地面に着地する。


 その際にその大きな胸が激しく上下する。

 なんかちょっと羨ましい。



「生きた心地がしなかったわね」

「妹タチガ 迷惑ヲカケタ」

「いえいえ、それにしても5年ぶりなのによく覚えていたわね。ええ~っと」

「人間ハ メッタニ 来ナイカラナ。――ルディール ダ」

 大きい蜘蛛女ルディールはわたしの言葉のつまりから理解したのだろう、名を名乗ってくれる。



「ルディール、ママに会わせてもらっていいかしら。あとやけに殺気立ってたのだけれど何かあったの?」

「モチロンダ。ミラハ ママノ 大事ナ友人ダカラナ。 妹タチハ ママヲ ツイ最近 ツレテイコウトシタ ヤツラニ オコッテイル」

 彼女を連れだそうとした馬鹿がいるのか…

 そりゃあ、蜘蛛女アラクネたちが激怒しててもおかしくないし、警戒するわけだ。

 では、誤解も解けたことだし、プレゼントと洒落込もう。


「プレゼントをあげるわ。誰か来てくれないかしら?」

 私は荷物の袋から瓶をひとつ取り出す。

 中には何十個も色とりどりの丸い玉が入っている。



「ワァァ」

 純粋な目で見つめる子。胸が完全に人間の子が好奇心に負けて近づいてきたようだ。

 まずは、ルディールに瓶の中身をひとつ渡す。橙色の丸いもの。


「食べていいわよ?」

 ルディールは頷き、口に含む。

 明らかにいい方向の驚きを隠し切れないその顔の変化が私にとっては嬉しい。


 彼女にあげたのは果実を魔法で液体化し、蜜や砂糖を適度に混ぜて固めた飴である。

 普段は研究などをしている時に疲れを感じたら食べるおやつなわけだが。


 実は蜘蛛女アラクネは人も食べるが、果実なども好む雑食性である。

 故に気に入ってくれると思ったわけだが、どうやら当たりのようだ。


 いつの間にか、10を超える蜘蛛女アラクネの子供たちが私の前に集まっている。

 彼女たちに一個ずつ飴を与える。


「タベテイイゾ」

 彼女たちの姉であるルディールが合図し、子供たちが飴を口に放り込む。


「「「「「オイシイ!!!」」」」」

「「「「「アマイ!!」」」」」


 こういう反応があると作ったかいがあったというものである。

 魔物とはいえ、子供は可愛いものですよ。ゴブリンとかと違って上半身は人ですし。



「モウイッコ!」

 とねだって来る子供たち。

「駄目ダ!コレハ ミンナデ 分ケルモノダ」

 と叱るルディール。


 しかし、子供は我慢できなかったようだ。

 いつの間にか瓶に糸が巻き付いており、瓶ごと持って行かれてしまった。


「コラ!オ前タチ!!」

 と怒るルディールに、こそっと新しい瓶を見せる。


 ――なに、多めに作ってきたのだから一瓶ぐらいならばどうということはない。



 ルディールが、妹たちをしかり見張りを再度命じた後、私の案内役をかってでた。

 案外彼女も、飴がほしいのかもしれない。

 3つほど、飴を渡すと満面の笑みで案内を始めてくれた。

 ほんとこう見ると美人なんですよね。




「シカシ、ミラ ナンデコンナ場所ニイタ?」

「え?私がそっちに行くって前もって連絡しておいたはずだけれど?」

 そんな連絡は受けていないと彼女はいい、更にここはあの看板から目的地までの道で考えるとだいぶ外れてしまっていたらしい。

 故に、妹たちもより警戒してしまったとのことだ。


 おかしいなぁと思いつつも、自分の方向音痴が案外ひどかったようでちょっと落ち込む。

 適当に進むのはよくないですね。うん。



「姉たちは元気?」

「アア、元気ダ。ミラヲ ミレバ キット 喜ブダロウナ。姉タチハ 娘をヤドシ ソダテテイル」

 蜘蛛女アラクネの繁殖には、人間の男性が必要となる。

 この辺は、人間の女性型の魔物には多い特徴で、蛇女ラミア人魚メロウなども同様であると言われている。


 都市部で流行ることの多い劇の中には、この女性形の魔物と人間との禁断の恋なんていうのがたまに題材に上がることがある。

 大体は悲劇的な結末になるわけなのだが、それが貴族の特に女性に受けるらしい。

 逆はあんまりらしいが。


 そういえば前に、蜘蛛女アラクネの繁殖ってどうなっているんだろうと興味を持ち見せてもらったことがあるのだが、

 人間の男性と思われるものが入った繭が、あれだけを外部にさらけ出している状態でいくつもぶら下げられている光景をみてこれは記録してはいけないし、公言してはいけないものだと思ったものである。


 ところで、蜘蛛女アラクネに男はいないのだろうか。

 少年っぽい感じの蜘蛛女アラクネならばどこかに需要がありそうなんだが。


 とか考えていたら、小屋が見えてくる。

 ようやく目的の場所に辿り着いたようだ。


 ルディールに飴が入った瓶を5つ渡す。

 結果的に彼女は道案内中4つの飴を食べたのだが、赤いやつがお気に入りだったらしい。


 フレサという果実を固めたものなのだが、甘みが濃すぎて私は苦手だ。

 ミルクを足して固めると私の味覚上は素晴らしい感じになるのだが、そっちは彼女の口には合わなかったらしい。



「コレヲ 姉タチニ渡シテクル。ママヲ 頼。」

 といってルディールは去っていった。


 一人になった私は、気を取り直し、小屋へ向かう。


 ――変わってないわね。


 小屋の戸をノックし、扉を開ける。

 鍵なんてかかっていない。

 彼女らしい性格だ。



「――ミラか?なつかしいなぁ!おい」


 男っぽい口調の女性が私の姿を見て喜びながら語りかける。



「――――久しぶり。レティおねえちゃん」



ルディールのしゃべり方は難しいですね。

子供たちよりは人間に近い話し方をできるという感じにしております。


ちなみに、フレサ はスペイン語で「苺」らしいです。

この世界の単語はラテン語とか、結構ノリで決めている単語が多いです。


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