① ミラ・ディエルの授業 (歴史編)
歴史時代背景、冒険者ギルド及び学園に関しての設定の説明回です。
説明回があまり好きではない方は今回はスルーでもいいかもしれません
「さてと、今日はわたしの授業を選んでくれてありがとう。
今回は、私達の世界の歴史とあなた達生徒が今いるこの学園に所属している冒険者と一般の冒険者ギルドに所属している冒険者との違いについて説明させてもらうわね。
ああ、今日の授業は全て座学だし、私がどんどん喋ってどんどん後ろの板に書いていくから、そういう形が苦手な子は寝ててもいいわよ?
別にテストに出したりとかしないし。そもそも筆記試験は苦手なのよ。採点するの面倒だからね」
私は後ろの黒板にまっすぐ横に一本の線を引く。
その後横線の中央に一本縦線。
「――まず、この世界の歴史を二分割にすると400年前の出来事の前後で分かれるわ。
400年前の出来事は《大破壊》と呼ばれた現象ね、それ以前の歴史に関しては現状わかっていないことのほうが多いわね。
大体1000年以上前の歴史になると神話。
つまり、神々がこの世界を作ったみたいなお話になるわ。
その一方で1000年前から400年前までの約600年の歴史に関しては私達にとっては空白の歴史となるわけ。
では、わかってることはなにか。
《大破壊》前に【灰の国】と呼ばれる国があったことがわかっているわ。
とはいえ、【灰の国】という名称が正しいのかすらわかっていないのだけれど。
まぁ、ここでは【灰の国】で固定するわね。
【灰の国】は非常に優れた金属加工技術を有し、金属で出来た空飛ぶ鳥や地上を動くまるで要塞のような硬さを持つ亀のような兵器を所有していたとされているわね。
金属の弾丸を発射する銃が開発されたのもこの国と言われてるわね。
ドラゴンや森人、巨人族ですら辺境の地へ追いやるほどの軍事力を有し、
この国の国土は、私たちが今いる大陸のおよそ8割だったとされているわね。
現在最高の軍事力と国土を有するディアシールですら1割と少しと考えるとどれほどの広さかというのがわかるわね。
でも、そんな【灰の国】が一瞬にして消滅した。
それが《大破壊》。
この私たちが知る最大の天災から復興していくまでが400年前から200年前の時代《復興の時代》となるわね」
次に、横線を更に半分にするようにもう一本の縦線。そこに200という数字を書く。
「《大破壊》からの《復興の時代》。
まず最初に力を出したのは巨人族と闇森人、彼らは400年前から200年前までに、実質二強と言われるほどの強さだったわ。
ドラゴンはそのまま辺境の地を自らの地とし、そこに住み着いたのに対して、二種族は大陸を二分していく勢いだった。
人間は《大破壊》によって大きく数を減らしたことも有り辺境の地へ追いやられていく…盛者必衰の理かしらね」
昔の偉人が使った古い言葉を使いつつ私は授業を続ける。
「――さて、200年前。実質《復興の時代》を終わらせた異変。《大戦争》と呼ばれるものね。
このへんからは英雄談や書物がたくさん残っている関係で知ってる人も多いのじゃないかしら。
《紅い月》が空に浮かび、いまでは悪魔と称されるデーモン族が大陸北部から侵攻してきたの。まずは巨人族と闇森人がこの化け物達の被害を受けた。
大陸を制覇していたのだから当然よね。
しかし、彼らは勝てなかった。大陸中央まで一気に攻めこまれ多くの巨人族はこの大陸から逃げ去った。ダークエルフはその誇りなどをすべてを投げ捨て、ドラゴンや他の種族に協力を求めた。
――結果、この大陸中のあらゆる種族がデーモン族へと反攻戦を開始した。
人間、森人、山人…例を挙げるときりがないわね。
そう、この大陸の連合軍とデーモンとの戦い。そしてついに、連合軍は悪魔を退けた。
もちろん被害は甚大だったわね。そこで次の覇権を制したのが、私たち人間だった。
比較的非力な人間は前線ではなく、後方支援を主としていた。これにより被害が少なかったの。
そして《大戦争》から今を、《人間の時代》という人がいるわね」
更に半分にしたところに色々文字を書いていく。
「ではその《人間の時代》を更に細分化していきましょう。
まず200年前からおよそ100年前までを《開拓の時代》、更にそこからが《冒険者の時代》とされているわね。
比較的被害の少なかった人間は、ディアシールなどを中心に復興していくわ。
大陸連合軍だったのもデーモンとの戦争までだったし、多くの種族は元の場所へ帰ってしまったわ。
でも人間以外の種族は大きく数を減らしてしまったため、どの種族すらいない未開拓地域が多く発生した。
一気にそこを開拓し、国を作っていったのが人間たち。
その繁殖力と開拓力で急速に人間のエリアが増えていく。
でもそれは僅かな時間だったわ。そう、他の種族がいるエリアまで広がりすぎてしまった。
そこで生まれたのが冒険者。
人間にとっては『未開』の地を踏破し、調査し拡大していく存在。
それは他の種族との争いを生むことになってしまった」
私はここまで話して口の渇きを感じて水を口に含む。
ふぅと一息をついて再開する。
「残念なことに、人はその勢力を拡大していく一方で人同士の戦争も起きて行くことになるわ。
自分たちで争いながらも、他の種族にまで喧嘩を仕掛けていくということになっているわけね。
今のとこは、そこまで危険な事にはなっていないものの、火種はそこら中にある。一方で英雄が生まれる要素も多々あるということね。
そして、そういう英雄に繋がる可能性の高い冒険者という概念そのものをよりしっかりとした形として固定化させよう。
地位を確立しようとして生まれたのが冒険者ギルド。
ギルドとしてちゃんと誕生したのは50年前になるのだけれど、互助組織としての形が生まれたのは100年前と言われている。
故に、今の時代は《冒険者の時代》と呼ばれているわ。
ここからの詳細な歴史はもっと詳しい教官が多いし、歴史に関してはここまでにしましょうか。
――ふふ?続きが気になる?まぁ、また授業をやるわ。
近代史になればなるほど、教えないといけない項目が多くなるのよ」
私は黒板に書いた文字をひと通り消していく。
「さて、冒険者ギルドは50年前に正式に形を有することになる。
この時ギルドが諸国と決めた取り決めが【国家間の問題には一切手を出さない】
冒険者という巨大な開拓者を有するギルドが土地などの他の力を持つことを恐れたのね。
ただ、これは詭弁であり、うまくいろいろお互いに誤魔化し合っているわね。ギルドも国々も。
諸国はギルドを恐れるがために、その力を落とす方法を考えつくわ。
そう、優秀な冒険者をギルドではなく自分たちの国に引きこむという方法を。
最初は血筋や家系などの外面を気にするが故、この手を用いない国が多かったのだけれど、
魔法帝国ディアシールは積極的に引きぬいたわ。そして一気に軍力を拡大していく。
優秀な元冒険者を宮廷魔術師や騎士団に据えたディアシールは領土を倍近くまで広げてしまった。
これにより他の国も冒険者という存在を手に入れようと冒険者の引き抜き合戦が開催されてしまった。
ギルドはこの手に対してどうしようもなかったわけね。
引き抜きを止めさせることはできたけれど、所詮は言葉だけだった。
逆に引きぬき返すことは取り決めに触れるために出来なかった。
多くの冒険者は、ギルドとはあくまで冒険者としての立場を証明してくれるだけの存在であって、ギルドが彼らのその後まで面倒を見てくれるわけではなかった。
実利に目聡い実力ある冒険者は結果としてギルドを離れていってしまった。
当然よね、ギルドにそこまでの恩も義理もないのだから。
ではギルドがもっと恩を着せる形で冒険者を囲めばいいという発想で生まれたのが学園。
ここでの冒険者は普通のギルド所属の者達よりより厚遇してもらえている。
装備の支給、教育、その他もろもろ。
つまり、恩を着せることによりギルドを裏切らない冒険者を育てようとしている」
授業を受けている子たちの緊張が伝わってくる。自分たちの自由がなくなっているという現実を感じているのだろう。
「――ああ、別にギルドを離れてはいけないなんてことはないわよ。あくまで冒険者は自由であるべき存在であると思っているわ。怒られるかもしれないけれどね。
でも、ギルドを離れて他の国の騎士や重鎮になることだけが出世や未来ではない。そういう可能性を生み出そうとしている。
これはギルドにとって賭けでしかない。しかも分の悪い。
育てても、奪われる可能性のほうが高いのだもの。
でも、ただ奪われるだけではない形で何かをしようとしている。結果が生まれるのはまだまだ先の話になるわ。
――そう、あなた達が英雄となる時代にここでの判断が正しかったのかどうかがはっきりする」
言葉を続けようと思った私に、学園の鐘が鳴り響く。
午前の授業の終わりの合図だ。
「うん、今日はここまで。気になることがあれば質問には答えるわよ?疑問に思うことは調べる。
知識は命を助けるわ。まぁ無理に知る必要はないけれど」
寝ていた生徒を小突いてやる。
キョロキョロしてる姿が可愛い。お仕置きは免除してあげよう。
今日はずいぶんと喋って疲れた。お昼は大盛りにして食べようじゃないか。
私は今から待つ素敵な昼食に思いを馳せることにした。
学園題材なんだし、せっかくなのでこういう授業形式にしてみました。
皆さんはこういう授業は起きて受けていられますか?