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引退魔術師のセカンドライフ  作者: DEED
一章 学園生活
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1話 実践的授業 

 楽勝だったはず…と彼はそう思っていたに違いない。

 相手は3匹、しかも何度も勝ったことのある相手山狼(ヴェルクウルフ)だったのだから。

 しかし、結果として自分たちは追い詰められてた…


 山狼(ヴェルクウルフ)、山間部の森林に生息する普通の狼より少し大きい程度の魔物であり、

 訓練を積んできた者にとっては数にもよるが苦戦を強いられるほどではない。


 ナイトである彼が突っ込み、相手の注目と攻撃を集中させ後方のレンジャーとウィザードが致命傷を与える。

 自分たちの必勝パターン、これで何度も勝利を収めてきた。

 だが、今回の山狼はパーティー全員の予想より狡猾だった。

 彼が突っ込んだあとに横に隠れていた二匹がレンジャーとウィザードに襲いかかったのだ。

 2人は咄嗟に相手を切り替えようとしたが間に合わず、レンジャーは腕にウィザードは腹部にダメージを負った。

 とくにウィザードの傷はひどく治療が必要なレベルであった。

 レンジャーももうあの傷では弓は打てないだろう。

 幸い、レンジャーの弓は前方の一匹の頭を撃ち抜き、ウィザードの炎魔法でもう一匹も黒焦げと化していた。


 もう自分しか満足に動けるものはいない…逃げる…?

 彼の中で悪い戦略ばかり思い浮かぶ。


 もし自分がここで逃げれば自分は助かるだろうが

 レンジャーでぎりぎり逃げきれるかどうか、ウィザードは逃げ切れないだろう。

 そんなのは御免だ!みんなで生きて帰るんだ。と頭のなかを切り替える。

 自分たちが誰も死なずに勝つ方法を考える。

 しかし考えてみても絶望的状況はあまり変わらない。

 3対3と数字上は互角でも、無傷の3匹と手負いが2人いる3人では決して互角ではない。


 ――でも、諦めたくない。守りたい!

 彼の思いは仲間を守りぬくことに集約されつつあった。


 山狼たちはゆっくりと回りつつその間合いを狭めていく…

 いずれ全員で飛びかかってくる…そして狙いはどうやら彼のようだ。

 狼達は弱っているものの止めをさすではなく、敵の全滅を狙いにしたようだ。


 狼達の同時攻撃…それは彼にとって絶望的な攻撃だった。

 しかし、彼の守ろうと思う気持ちが彼に奇跡を起こす。


「誰も死なせたくないんだぁ!!!」

 彼の心のなかからの叫び。

 彼に狼達の爪も牙も届かなかった。


 ーーー不可侵領域(インビンシブル)


 防御を主とするナイトにとって最大のスキル。

 彼のパーティー周辺を守護する不可視でありながらも巨大な防御壁。

 巨大な龍族の攻撃すらこのスキルの前では無力と化す。


 チャンスだ!


 なぜ攻撃が届かないのか。狼達に理解できる筈すらない。そしてそれは大きな隙を生む。

「うぉぉぉぉぉ!!!!」

 彼は、狼の喉元に剣を突き刺す。

 狼の悲鳴が響く!

 しかし、それを気にしてる間はない。

 反対の手の盾をもう一匹の狼に押し当てる。

 ナイトにとっては盾ですら武器なのだ。

 インビンシブルで強固な壁となった盾は狼の体を破壊しながら大きく吹き飛ばす。


 ……しかし、そこまでだった。

 絶対的な守護を生み出すこのスキルは長時間は持たない。

 そして、その代償は決して小さくない。

 体力も気力も使い果たし息もうまくできず、彼は膝をつく。


 最後の一匹が、彼の喉元へ飛びかかる。

 彼にそれを防ぐ術はもうなかった。



 ◇



「結果は全滅と。…惜しかったわね」

 私は彼らにかけた魔法を解除する。

 彼らの見ていた世界は森のなかから大きな部屋に戻る。

 そう。全ては幻想だ。

 彼らは、幻想の中で山狼と死闘を演じていたのだ。


「…ありがとうございました」

 息も絶え絶えのなか、まだ体力が残っていたと思われるナイトであるパーティーのリーダーが私に礼を述べる。

 残りの2人は声も出せないようだった。


「――えーっと。まずはレンジャーの子。警戒不足。山狼(ヴェルクウルフ)は最低でも5匹、多ければ20を超える群れをなすわ。3匹しか視界に見えなかった時点で、索敵を行うべきだったわね」

 私はまず最も駄目なところを指摘する。

 あそこで、警戒し索敵をしっかりしておけば、2匹が潜んでいたことに気づいてたはず。

 そうすれば、潜んでいた2匹を先にレンジャーとウィザードで倒し、残る前方3匹の攻撃はナイトがしのげば普段通りの彼らの得意な形で迎えられただろう。

 いや、案外警戒して前の3匹は動かなかった可能性すらある。


「次に、ウィザードの――リレットちゃんだっけ。緊張のせいかもしれないけれど魔法の着弾地点がずれてたわよ?火力のお陰で問題なかったけれど、しっかり集中することね」

 魔法の当たった位置は狼ではなかった。その手前の地面に着弾していたのだ。

 幸い、火力の高い火炎魔法だったおかげで狼ごと焼ききっていたが、不意を付かれたとはいえはっきり言って失敗もいいところだ。


「――うーん、まずはお外で休憩してきなさい。反省会はその後でしましょう。」

 ろくに話を聞けていない様子を見て、私は休憩を促す。

 幻覚を発生させる香を炊いているこの部屋は彼らにとってあまり良い場所ではない。


 よれよれと立ち上がり外へ向かう3人を見てちょっとやり過ぎたかと反省する。

 幻想の中でのダメージゆえ、血などがでているわけではないが、疲労とダメージは相当のものだ。

 下手をすれば精神が壊れ最悪は廃人とかす可能性もある。

 そこまで追い込む気など毛頭ないが。


 山狼(ヴェルクウルフ)は本来あそこまで狡猾ではない。

 少し意地悪ではあるが私が操作していただけの話だ。

 まぁ、ナイトの子一人しか動けなくなった時点で、本来の狼どもならば怪我人の方を狙っていただろうけれどね。

 うん、問題ない問題ない。


「…失礼します。ミラ=ディエル教官殿」

 ナイトの子が私に向かって敬礼をする。おー無理しちゃって。私は思わず心のなかで笑ってしまう。

 あの子が一番きついはずなのだ。だがそれを見せないところは褒めるべきだ。

 インビンシブルは体への負担が大きすぎる。まさに切り札である。

 最高峰の実力を持つナイトでさえ効果時間こそ違えど、1日1度使うのがやっとなのだ。


「あー、うん。アーディン君だっけか」

「あ、はい…?」

 私はナイトの子を呼び止める。


「いい啖呵だったわよ。みんなを守りたい。その気持ち忘れないように。あなたが倒れたら他に守る人はいないのだから」

 私は彼に微笑む。

 彼はきっといいナイトになれるだろう。

 インビンシブルを使えたことがその証だ。

 守護の気持ちがなければあれほどの障壁を生み出すことは出来ないのだから。


 それを聞いた彼は恥ずかしそうに部屋から出て行った。



 ◇



 ――ミラ・ディエル


 それは私の名。

 かつて冒険者としてそれなりに名を馳せた自分の名。

 今は、現役の冒険者を引退し次世代の冒険者を指導する身。


 そう――この話はこの私。

 引退魔道士(ミラ・ディエル)第二の人生(セカンドライフ)を記したものとなる。



このようなサイトに書かせてもらうのは初めてになります。

拙い文章では有りますが、読んでいただければ幸いです。


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