変身少女(仮)
ある晴れた日。公園のベンチでうつらうつらしていると、散歩をしていた犬に吠えられた。
驚いて肩を震わせると、更に大きく吠えられた。飼い主の女性はペコペコしながらリードを引っ張って去って行ってしまった。完全に眠気が覚めた。不快感を覚えつつ眼を擦っていると、急に影が差した。
「相変わらず、動物に嫌われますね」
声の主を見る。声でわかってたけど、今一番会いたくなかった人間だった。
「…まあ、そうだね」
自嘲気味に笑うと、断りもなく隣に座られた。長い脚を組んで、つまらなさそうに遊具で遊ぶ子供たちを眺めていた。
「何か用かな」
「いえ、」特に用事はありません。と淡々とした口調で言われた。
「あ、そう。」
「はい。…あ、でも」
「ん?」
「先輩の顔が見えたから、立ち入っただけです」
彼の横顔を見た。自分で言うのも何だけど、だいぶ間抜けた顔だったと思う。彼はこちらの方を見て、薄く笑った。
「先輩、顔真っ赤ですよ」
「…違う」
顔を逸らす。右隣の彼はクスクスと口を押えながら笑う。
……くそ、格好良いな。腹立つ。
「…ていうか、休日に散歩なんて暇人だね、君」
「先輩には言われたくないです。…散歩と言うより、買い物ですよ」
「買い物?」
彼は自分の右隣に置いたトートバッグを物色し始め、そして、『買った』物を見せてきた。
「………テディベア?」
「はい。可愛いでしょ」
手のひらサイズの小さくて可愛らしい茶色い熊。首元の水色のリボンが一層愛らしさを引き立たせている。
……でも、何故彼がこんな物を。
「テディベア収集でもしてるの?」
「テディベアと言うよりは、ぬいぐるみ全般ですね。ほら」
彼はスマホを取り出し何やらぽちぽちし、画面を見せてきた。そこには、シンプルな部屋に敷き詰められたぬいぐるみ達。これが女子の部屋なら『可愛らしい』で済むのだが、生憎この部屋の持ち主は男だ。
「すごいな…」
ただ、圧巻。それに尽きる。彼は冷静にスマホを戻すと、
「誰にも言わないでくださいね」
「はあ」
「…これで、半々ですよ」
「………」
黙止。自分から踏み込めば、返り討ちに遭うに決まっている。
「先輩」
「何?」
「髪に、葉っぱがついてますよ」
そう言って、髪に触ってきた。本当に葉っぱがついていたらしい。一つまみすると、ポイと投げ捨てた。そしてまた髪に触れ、梳くように触ってきた。
「綺麗な髪ですね」
「それはどうも」
歯の浮くような台詞だ。しかも無駄に決め顔。イケメンめ。
「黒髪美人なんて、羨ましい限りです」
「馬鹿にしてるの?」
「してないですよ。凄いと思います。手入れとか、大変なんですか?」
「…別に、普通」
肩まである黒髪。先端を弄られる。やめて欲しい。というか近い。
「あのさぁ…」
「はい?」
「そんなことして楽しい?」
「まあ、はい。」
「ふうん」
つまらない事この上ない。もう帰ってしまおうか、とうららかな日差しにぽかぽかされながら思っていると、
「先輩、」
「ん?」
「これからデートしませんか?」
「はあっ!?」
思わずベンチから立ち上がってしまった。彼は涼しげに微笑んだ。
「いいじゃないですか。」
「良くない。帰る」
踵を返しずんずん進む。お構いなしだ。
「ちょっと、先輩」
腕を掴まれた。振りほどこうとするが、力が足りない。
「………やめて、放して。」
「嫌です」
腕に込めた力が強くなる。少し痛いけど、言ってやるものか。
「帰りたい」
「じゃあ、待ってます。それから、デートしましょ」
「嫌だ」
頑として拒否していると、彼は困ったように笑った後、耳に寄せて囁いた。
「…先輩のその綺麗な黒髪を、思いっきり引っ張ってもいいですか?」
「……っ!!」
「そうしたら、取れちゃいますかね、カツラ」
「…やめろって!!」
思わず大声を出してしまった。一瞬の視線の集中。でもすぐ興味なさげに逸らされ、元の日常に戻る。
しかし、彼はなおも続けて言う。
「バレちゃいますね。先輩が、女装をしてる変態だって」
『女装をしている変態』を物凄く強調してきた。腹立たしい事この上ない。
こんな奴に自分の性癖を知られてるのが本当に腹立たしい。物凄く嫌だ。顔面でそれを表現すると、彼はまた笑って言った。
「ほら、早く家に帰ってくださいよ、先輩。『男の姿』でデートしましょ?」
睨みつける。驚いた顔をされたけど、また笑われた。イケメンなんて、クソくらえだ。
解放され、進む。彼は少し後ろでついてくる。なんとなく、雰囲気だけど、笑ってる気がする。いつものニッコリ営業スマイルではなく、ニヤニヤした厭らしい笑みだと思う。
ああ、もう!!
家に帰り、速攻でメイクを落とし、服を着替える。流石の彼も、家に立ち入ることはしなかった。適当にパーカーとジーンズとT シャツを引っ張り出して着る。
姿見を見ると、先刻とはうって変わった姿だ。パッとしない童顔の男子。それに限る。
「やっぱり化粧は偉大だな……」
そんな事を呟きつつ、荷物をリュックに詰め玄関を出る。
あのクソ生意気な後輩とデートだなんて、屈辱以外の何物でもない。
「おまたせ」
でも、どうしても。
「大丈夫ですよ。行きましょうか」
彼には、勝てないのである。
息抜きです。完璧に。
前回に引き続き女装少年が……www
気付いたらこんなんばっかですね。ハイ。男の娘好きですけど。
今度はちゃんとした(?)BL書きたいです!!!!