第3章 解散 その2
午後一時三十分
お昼ご飯を食べ終えた祐太は、そろそろ秘密基地に向かうか、とソファから立ち上がった。
テレビで放送されている、国連事務総長の話は、少しだけ朝から変化があった。
すでに隕石の軌道は計算され、それに合わせた迎撃態勢が準備され始めているという。核ミサイルを含めた大陸間弾道弾などもすでに実戦配備が進められている。地球の危機に際して、過去の因縁、秘匿していた核や発射基地という機密として扱われていた存在も明らかにされ、世界が一つになって対応する、ということだった。
それだけの、状況なのだ。
知られたらいけない存在を隠したままでは、明日から人が生きていくことができない。隠したまま死ぬより、明らかにすることで明日からを生きる。それが世界の選択であった。
さすがに、祐太の心にも不安が広がっていく。
大丈夫大丈夫、と言っていたのも、特に根拠のあることではなかった。きっとなんとかなるだろう、程度のものだった。それが、ここまでやらないといけないのだ、という認識へと上書きされてしまった。
これで大丈夫、というよりも、これだけやる必要がある、というのが不安の種だ。
軽く見すぎていた。
自宅を出て秘密基地へ向かう道さがら、祐太は痛感した。
自然公園には、午前中よりも人が増えていた。そのほとんどが、親子連れやカップルなど、平日の昼間には見かけない組み合わせばかりだ。きっとみんな不安なのだろう。明日にはどうなっているか分からない。だからと言って、自宅でじっとしていられない。
もしかしたら最後かもしれない、残された時間を大切な存在と使う、ということなのだろうか。
午前中はあまり人を見かけなかったし、会ったのは幼馴染みたちだけで、そういうことを考えずにいられたが、この光景を見ると、どうしても考えざるを得なかった。
ただ、これから会う幼馴染みたちは、もしかしたら最後かもしれない日中を、一緒に過ごす相手としては申し分ない。いや、それ以上の存在はいないと思っている。だから、祐太の歩みが止まることはなかった。
秘密の通路を抜けると、そこは午前中に見た景色と変わらない秘密基地だった。
高いところまで登れば、どこまでも見渡せそうな高い高い一本の大木。踏み荒らされていない緑の絨毯。幼馴染みたちとの十年近い思い出のつまった広場。
大木の根本に向かえば誰かがいるか、と思ったが誰もいなかった。
まだみんな来ていないようだ。
暇つぶしに、と携帯を開く。相変わらず圏外表示だが、ギリギリ無線LANの電波が来ているようだ。チャットツールを起動すると、いくつかの新しいログが取得された。
>メガネ うう、祐太殿に辱められた。生きていけないでござる、うっうっ……
>ヒロ メガネが恥ずかしいのは今に始まったことじゃないし、問題ないっしょ
>メガネ うっ、ご褒美キター! もっと! もっとドSに!
>CHIKA ネット人格乙
>メガネ ちょ、そういうのナシでヨロ
>ヒロ ちーちゃんだしね
>CHIKA 何よ、人が空気読めないみたいな言い方して
>メガネ 自己紹介乙でござる
>ヒロ ぷっ。
>CHIKA くっ
>ほの CHIKAちゃんはネットでもクーデレだねぇ
>CHIKA クーデレ言うな
>ヒロ ほのはデレデレだからな…
>メガネ そのうちヤンデレに進化しそうで怖いでござる
>ほの ならないよ!
>CHIKA んじゃもう一眠り
>ヒロ ダメだから
>ほの 寝たら起きないでしょ!
>メガネ 寝たら死ぬぞ! ってネタも、今の状況だと使いにくい
>CHIKA 揃いも揃ってさー、くっそー!
会話があった時間を見ると、祐太がぶにゅぶにゅなうどんとバリバリな蕎麦を食べていた頃のようだ。
ユーザーリストには祐太の名前しかないので、皆アクセスしていないようだ。ならば、それほど待たずに揃いそうだ。
木の根元に座り込むと、地上にはみ出た根を枕に寝転がる。
と。
「おや、これはまた素敵な光景だわー」
外からは緑の葉に隠されていた、二人の女性が見える。枝の上に立ち、住宅街のほうを眺めているようだ。二人共がスカート姿で、その中まで見えてしまっている。考えるまでもなく、外川さん家の姉妹だろう。その中身に、見覚えがあった。
「あ~ん見られちゃったんですが! これはもう責任取って、もらってもらうしかないのですが!」
「いい加減、料金の支払い請求すんぞ、こら」
なんというトラップだろうか。自ら望んでみたわけでもないが、おそらく見せるつもりだったに違いない、そうに違いない。間違いなく。
「何してんの」
祐太が頭上のふたつのパンツに声をかける。
「というか、あんた自然にパンツに話しかけんな」
「顔が見えないからなー」
兄弟同然に揃った幼馴染みだと、不意に見えた下着姿じゃ興奮したりすることもなく。挙動不審に目をそらすこともなければ、じっくりと観察するわけでもなく、それが自然であるかのように見上げ続ける。
「お前アレだろ、慣れたろ」
「ああ、それはあるな、露出姉妹」
「ちょっと! お姉ちゃんと一緒にしないで! わたしが見せるのは祐ちゃんだけですが!」
「祐太に見られても、別に何とも思わんからな。特別に露出してるわけじゃないぞ」
「はいはい」
とう、と掛け声を出して、紘華が枝から飛び降りた。着地は、祐太の足先およそ十センチばかり先。
「あっぶな! ちょっと、足引っ込めるとかしなよ!」
「それヒドくね」
勝手に飛び降りて、さらに文句を言われた。なんて奴だ。
「私も~! 祐ちゃん動かないでね! てやー!」
掛け声をかけて勢いよく飛び降りるのかと思いきや、帆華は真下に落下する。
ざっ、と音を出して祐太の頭の左右から着地音がする。帆華が着地の際に膝を曲げて衝撃を吸収したことで、間にあった祐太の頭がスカートの中に入り込んでしまう。白地のパンツが目の前に迫った。
「いや~ん、間近で見られたぁ~。もう祐ちゃん以外のお嫁に行けない~」
すっ、と立ち上がった帆華が、姉のもとに駆け寄って抱き付く。姉は飛び込んできた妹を受け止め、頭を撫でて、祐太をじっと見据えた。
「ゆーくん、これは教育ですなぁ」
「はいはい、小芝居小芝居」
木の陰から出てきた少女が、そう言った。
セミロングの髪を後頭部で緩やかに縛ったポニーテールの少女は、寝坊の達人であった。
「ちーちゃん、おっすー」
「知香、やっほ」
「二人とも、おいっす」
知香は二人とハイタッチを交わす。ぱーんぱーんと小気味良い音が広場に響いた。
「ちゃんと起きてて良かったと思うのですが!」
「さすがにそんな寝坊はしないわよ」
「……」
祐太、紘華、帆華の三人が無言で顔を見合わす。
「あの、そんな沈黙されても……うう、ごめん」
知香が小さくなった。
三人の少女が、草むらに座り込んだのを見て、祐太は立ち上がり、その輪に加わるように座り込む。
「もう一人分、開けてくれるかな」
そう声をかけてきたのは直樹だった。
知香、祐太、帆華、紘華、直樹の順で輪になった。残すところはあと一人だった。今日の集合の言いだしっぺである康平だけがまだ姿を見せていなかった。
「よう直樹」
「みんな、おっす」
「おっすー」
「そうそう、ゆーくんに聞きたかったんだけどさ。なおくんとこ行ったとき、緑いた?」
「ああ、うん、会ったよ……」
「祐太ぁぁぁぁぁ」
内緒にしてほしかったのか、直樹が恨みがましい目を祐太に向けてくる。祐太は目を逸らした。
「あ、緑って、なおちゃんの彼女だよね、知ってるんですがー」
「え、ちょ、紘華、内緒にって言ったよね」
「えー、そうだったっけぇ」
「お姉ちゃんから聞いたのではないのですがー! という設定なのですが」
「わたしは知らないよ、同じ予備校の子だなんて」
「知香まで知ってる!」
直樹がぎょろっとした目を紘華に向けるが、紘華はどこ吹く風で気にもとめない。女の子に、ここだけの秘密だなんて通じないだろ、と祐太は思わなくもない。特に紘華が相手では、残り二人にも確実に知られることになる。祐太はとっくに諦めている。
「一応言っておくが、俺は知らなかったからな」
「それは、反応を見て分かったけどさ」
はぁ、とため息をつく直樹。
「ちゃんと、自分から言うつもりだったんだ。言う機会がなかっただけで」
「もうずいぶん前からそう言ってたじゃん。もう言ったもんだと思ってさー」
悪びれない紘華に、ようやく直樹も諦めたようだ。
「まぁ、今さら言うのもなんだけど。予備校で知り合った子と付き合ってる」
「あたしのサポートのおかげね!」
「……そうだね、紘華には相談に乗ってもらった、でいいのかな」
「予備校に乗り込んで名前を聞き出して、遊ぶ約束まで取り付けたのは、相談に乗ってもらった、でいいの?」
知香の疑問に、直樹がへこむ。
「……ぐふぅ、そこまで」
遊びに行く約束を取り付け、紘華がすっぽかして直樹と緑が二人きりで会う。そのまま前売り券を買ってしまった映画を見に行って、とどこかで聞いたことのあるようなお約束の展開でデートをすることになり、その後は何度かデートをして、付き合うことになったのだと、直樹は言った。
「ちょうど読んでたマンガの真似をしてみたんだけど、上手くいってよかったよかった」
「え、ちょっと、そんなオチなのっ!?」
直樹が紘華の弁にあきれてしまう。
「少女マンガだからね、ある意味では現実に近かった、ってことか」
祐太のとりあえずのフォローも、直樹のへこんだ心を戻すには足りなかった。
「で、で、で。仲良さそうだった!?」
興味津々の帆華。
「え、あー、そうだな、仲はよさそうだったぞ」
想像をたくましくすると、直樹の部屋の状況やらから諸々察せそうで、それには蓋をしてしまった祐太であるが、なるべくならそこは突っ込まれたくなかった。ふと直樹を見れば、祐太が余計なことを言わないだろうか、と挙動不審になっているのが見えた。
「……あのさ、二人とも。その態度だけで、言わないでいることまで伝わってくるんだけど?」
どうやら知香には見透かされてしまったようだ。そして、その知香の発言で、紘華と帆華まで理解してしまった。
「ほっほおおおおおう、それは興味がありますな」
「いやん、帆華にはちょーっと早いかもなのですがー」
帆華は祐太の腕をとって、体をくねくねさせる。
「でもでも、興味がないわけではないのですがー」
と、祐太の腕を抱きしめたまま、上目づかいに祐太を見上げる。
「そうね、ほのにはまだ早いかもしれないわね」
祐太の脇腹を抓りながら、知香は冷静にそう言った。祐太は声にも出さず、それを受け止める。知香は、なんだかんだと言って帆華が祐太にじゃれつくと、こうして反応してくる。これが、好意から来るものだとうれしいんだけどな、と祐太はいつも思っている。
「そ、そういや、母さんが紘華が康くんと付き合ってる、とか言ってたんだけど」
「んー? たぶん、うちのお母さんかな。なんかそう勘違いしてる」
とだけ返す紘華。色々と思うところがあるのか、思案気な表情からはそうなりたい、という希望を持っていることが読み取れた。
「おー、お前らもういたか!」
そこに、康平がとことことやってきた。
幼馴染みグループの六人が、久々に揃った。
紘華と直樹が隙間を開けて、そこに康平を迎え入れる。気が付いたころから、並び順はだいたいこんな感じであった。康平は紘華の隣、紘華と帆華が隣、祐太の左右に知香と帆華。集まった場所や順番によって多少変わるが、その組み合わせだけは変わらなかった。
康平は立ったまま、一同を見回すと、
「よし、全員いるな」
と言った。すでに何を言うのか決めていたかのように、そのまま言葉を続ける。
「それではこれより、おれたち幼馴染みグループの解散式を執り行う」
「──は?」
「えっ?」
主に上がった声はその二種類だった。
「おれたちは、長くずっといすぎた。いったん、それぞれの道へ進むべきだ」
康平が断言する。
「いやいや、人のつながりってのはね──」
「康ちゃんと離れる気は──」
「無駄だと思うけど──」
「そんなのいやなのですが──」
「また何か言い出した──」
祐太、紘華、知香、帆華、直樹が同時に声を上げると
「まぁ、最後まで聞け」
と手のひらを向けて一同を制する。
一呼吸おいて、康平は続けた。
「なお、再結成式は明日のこの時間に行う」
「……意味わかんね」
ぽかん、とした中で唯一、祐太だけが声を上げた。
「ようするにだ。いったん今日で最後として、また明日、再会しようぜ、ってことだ」
「それならそう言えばいいじゃない!」
紘華が、ちょっと涙声で言う。
「特別な日にしたい、ってことね」
冷静に知香が言う。
「明日の約束、ってことで理解したんですが」
康平の発言を咀嚼して、帆華が返す。
「今日はそういうイベントなのね」
ゲームの一イベントと受け取る直樹。
「そういうことなら、ちゃんとした式をやりますか」
先へと進める直樹。
「よし、みんな理解したな」
それを確認すると、康平はどかっと地面に腰を降ろした。車座になって、一同は何をすべきか、ということを話始める。
「うーん、急に言われてもなー」
「遊園地とかいいと思うのですが」
「やってんのかな」
「やってないなら、爆破されたくなければ開けろ、と電話するのですが」
「遊園地じゃ、特別感はないわよね」
あーだこーだと思いつくままの発言が続く。その中で、祐太がぽつりと言った。
「何もしないでいいんじゃない」
「それじゃいつも通りってこと?」
「それでいいんじゃないかな」
「帆華も賛成なのですが」
「人、それを思いつかなかったと言う」
「なおくんの名言パクりで決まったということで」
「そういうこと言うなよう」
なんだかんだでいつも通りの日常だ。いきなり非日常に叩き込まれはしたが、それでもここだけは、いつもの日常であってほしかったし、そうであったことが祐太にはとても嬉しく、つい顔がほころんでしまう。
「ん~? 祐ちゃん何だか嬉しそうですがー」
そう言いながら、帆華は祐太の腕をよりぎゅっと抱きしめてきた。
「ふーん、そんなにほのの当たってるのが嬉しいんだね」
「い、いや違うから! そんなことないから!」
祐太は左を向いて知香い弁解する。
「そりゃ、わたしはほのほどは大きくはないけど」
つん、と祐太の視線を遮るようにさらに左を向く知香。
「おやおや、こんなところで恋のさや当てですよ、彼女出来立てのなおくん」
「それをいつまで引っ張るんだ紘華」
それに、食いついたのは康平。
「お、そういや直樹は彼女ができたって聞いてるぞ。良かったな」
「ほら来た、康平まで知ってるじゃないか」
「いやあ、なおくんのことだからさ、つい自分のことのように嬉しくなってね」
「どうだか。自分の都合のいいように利用しようとしただけでしょ」
紘華が直樹のコイバナをすることで、康平に自分を見てもらおう、という作戦だったんだろう、と直樹は言いかけて止めた。それは今ここで言わないほうがいいだろう、と思ったから。
言ってしまうと、面倒事になりかねない。これが何でもない日常だったら、言ってもよかったのだが。今日ばかりは、この仲間に拗れが起きて欲しくはなかった。それを感じ取った紘華もまた、詮索を曖昧なままにする。
「へっへっへ、何のことやら。良いじゃない、みんな喜んでくれてるんだし」
「それは嬉しいけどね。とはいえ、たぶんみんなも色々な意味で刺激になったんじゃ。あれみたく」
直樹があごで示すのは、もちろん祐太と知香と帆華である。康平と紘華については言及しない。言わぬが花、というやつである。
「違いない」
そう言われている知香と帆華に挟まれた祐太は、どうにか知香の機嫌を直そうと言葉を尽くしていた。周りから見れば、知香の放出する構ってオーラがはっきりしているので、進歩しないなぁと嘆息するのみである。
と、そこにぱんぱん、と高らかに響く手を打ち合う音。その音の主である康平は、
「はいストップストップ。そんなことは後でやれ」
結局のところ、三人はただじゃれ合っているだけだと分かっているので、康平としても止めることにためらいはない。本気でやっていたら、たぶん割り込めないだろうと康平は見ている。
「とはいえ、だ。何かせんと暇だ」
「また話がもとに戻るね」
「んじゃ動物園! 開いてなかったら、動物たちを毒殺すると不審な電話をすればいいわけですがー」
「なんでこの子はこんなにテロリストなの」
「だいたい姉のせい」
「あたしとか、うちの教育のせいじゃないことは間違いない」
「世間が悪い」
なぜか世間という名の悪役が仕立てあげられ、冤罪を擦り付けられる。
「そいや、隕石のほうは何か進展あった?」
「なんか、すごい勢いで迎撃態勢を整えてる、ってのは聞いたけど」
と祐太。
「そうそう。ポロリで見たんだけど、アラスカに対ロ基地があるらしくて、活発に活動してるんだって」
ポロリツブヤキSNSは、一言メッセージをインターネット上にポロリとつぶやくというサイトで、日々全世界の人々が昼夜を問わずにポロリしている。誰が発信したのか分からないポロリが、いろいろな話題となることが多い。
「そんなところに、そんなもんがあったんだ、って話題になってたよ」
ありそうだ、というところまではみんな思っていても、実際にあるとなれば、それは話のタネとして十分だろう。そういった隠された基地が、世界的に活動を開始している。それが、今の現状なのだ。
「そうそう、ロシアも対米ミサイル基地を動かしてるってね」
「ほう、それは面白そうなことになってるな」
「面白そうって、康くん、事態はそれだけの状況ってことでしょ」
「そうは言ってもな、やはりここは日本だし、ただの学生からすればお祭りとさほど変わらないだろ」
康平の言うことはいちいちもっともではあるが、だからと言ってそう簡単に同意するのは難しい。
「うひゃー、核ミサイルだけで三万発準備だってさ」
携帯を見ながら直樹が報告する。
「世界中にそれだけあったことが驚きなのですがー」
「そうね、非核非核と騒ぎつつ、自分らはちゃっかり隠し持ってたってことね」
とはいえ、それが結果としていい方向に向くのであれば、それ自体は非難することもできない。
「悪いニュースもあるけどね」
と直樹。メガネをくいっと持ち上げて一同を見回す。
「隕石の進行速度が速いから、当たる確率は高くないらしい」
よくよく考えてみれば、確かにその通りなのかもしれない。隕石の質量も組成も詳細に判明していない以上、確実に通るコースが計算できるわけではない。あくまで可能性が高いコースを算出しているのだろう。ましてや、移動する物体だ。都市を狙って撃つのとは違う。
「成層圏で迎撃するらしいけど、当たるのは数発だけじゃないか、って」
「いくらミサイルがあっても、同時に発射できる数には限りがあるわ。全部同時に、決まったポイントを絨毯爆撃できれば確実なんだろうけど」
「航空戦力もスクランブル待機だって。たくさんの空母が出港準備してるらしい」
まさに総力戦と言えた。祐太たち一般人に出来ることは、無事に迎撃されることを祈ることしかない。
「よし、おれたちに出来ることは何もないな! 気にするのは終わりだ!」
清々しいまでの割り切りっぷりに、沈みかけていた心が少し浮き上がってくる感じがした。