エピローグ
午前九時
予定では、隕石が大気圏に突入するまで、残り十分程度である。
隕石は相変わらずのサイズで、大きさで、地球に向かってきているようだ。
事務総長は、もう何も言わなくなった。画面の向こうの右下にいる小さな事務総長は、手を組み、神の名を呼び、祈っている。
やがて、画面の向こうから慌てたような英語が聞こえてくる。
何事かと、祐太たちも画面を見ているが、事務総長が報告を受けているだけで、それがテレビのこちら側へと話されない。
『まもなく、ミサイルによる迎撃が開始されます』
ようやくテレビカメラへ向き直った事務総長が、ただ一言だけ言った。
>メガネ やば、心臓がめっちゃバクバクしてる
>ヒロ こっちもー
>K さすがに、今ばかりはおれもさ
>ゆーた 手が汗まみれでヤバい
>ほの あとで舐めに行く!
>CHIKA それはどうかと
画面に映る隕石は、やがて多数のミサイルの爆風で見えなくなった。
おお、と心の中で喝采を上げる祐太。
画面の向こうは爆風で何も見えない。ただ、何度も何度も爆発が起こっていることだけは伝わってきた。
わずかに、地面が揺れている気がした。
隕石の落下による大気の揺れか、ミサイルの発射や爆発による振動か、それは分からない。
画面内の爆風は止まることなく続いている。
両親に握られた両の手がぎゅっと強い圧力を受けていた。祐太も、それを強く握り返した。
神を信じていない祐太も、この時ばかりは名もなき神に祈った。
>メガネ やったか!?
>ヒロ 死亡フラグやめーや
>ほの むしろ立てまくれば回避できるんじゃないかという逆説ですがー
やがて、画面の向こうの事務総長が一言、漏らした。
『……ジーザス……』
そして頽れた。
>CHIKA は?
喉がひりひりと乾いたように感じる。何か、何かを言ってくれ、と願わずにはいられなかった。
どん、というとんでもない音が聞こえた気がした。
それから激しい振動に家が悲鳴を上げて大きくきしんだ。その振動に、祐太たち親子三人がソファから投げ出される。
液晶テレビが落下する。振動を吸収しきれなくなった家のあちこちから、崩壊の音が聞こえてくる。
それは、隕石が落下した衝撃だった。
大きくダメージを受けた隕石が、太平洋のど真ん中に落着する。大量の海水を持ち上げ、海底に直接衝撃を与えて地球ごと大きく揺らす。
海底が大きくめくりあがり、土砂を大気圏まで噴き上げた。
数百メートルの高さまで打ち上げられた海水が、重力に従って地表へと戻っていく。
隕石によって開いた大きな穴に海水が流れ込み、三百六十度の全方向からから押し寄せる海水同士が激しく衝突する。ぶつかり合った力が逃げ場を求めて百八十度ひっくり返る。
海は巨大な津波を作り出し、世界中に広がっていった。
そして太平洋沿岸部が津波によって押し流され、繰り返す津波と土砂の大嵐に飲み込まれ、世界は滅びを迎えた。
end
最後まで読んでいただいた方へ
ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
目標:最後まできちんと書き上げること。
→とりあえず達成。




