プロローグ
プロローグ
明日、世界が滅びるとしたら、どうしますか──
赤城祐太が登校すると、教室には三割程度の人数しかいなかった。
登校していたクラスメートたちは、今生の別れを惜しむ者たち、これから起こりうる未然の事態を笑い飛ばす者たちという両極端なグループに分かれていた。
想像していたより、影響が大きかったのかな、と自分の席に向かいながら祐太は思案する。
教室の中央付近に位置する席にカバンを置き、幼馴染みたちが登校していないことに気づく。
ポケットから黒い二つ折り型の携帯を取り出してみるが、電波表示のアンテナは相変わらず圏外と赤い太字のみを出力している。朝起きてから、登校するまでの間、一度もアンテナが立つことはなかった。
二〇一二年六月二十日。
結果が良かろうと悪かろうと、今日は人類史に残る一日になる。いや、悪かったら人類史など失われてしまうのだが。
はぁ、と小さなため息をついて携帯をポケットにしまおうとしたところで、携帯がぶるっと震えた。
圏外なのにどうして通じたのかと思って開いてみれば、無線LANを使ったチャットツールにメッセージが届いていたようだ。
なるほど、3G回線を使わなければ連絡を取ることができるのか、とその発想はなかったという顔をする。
すぐさまチャットツールを起動し、チャットルームにログインする。
>K 生存報告せよ
>ほの 本日は晴天なり
>メガネ 全裸待機なう
という会話が行われていた。
>メガネ ヒロは?
>ほの にゅふ
>K ヒロは大丈夫だ
>ほの にゅふふふ
>メガネ ほのかが壊れたでござる
この様子では、参加している連中は学校になど来ていないように思えた。ここはひとつ、文句でも行ってやらねばという憤りが祐太の中に湧き上がってくる。
>ゆーた お前ら、学校来いよ
>ほの ゆうちゃん、まじめすぎるよ~
>メガネ ゆーた殿が真面目すぎて困る
>K 真面目と言うか、バカ正直なんだな
>ほの そんなゆうちゃんが好きです
>メガネ デュフフ、ほのかはゆーた殿にデレデレすな
もはや登校する気すらないようだ。何を言っても、この連中は聞かなさそうだった。参加者を見ると、五人の幼馴染みのうち、二人がいないようだ。一人は、大丈夫と言う言葉もあったし、問題ないのだろうが、もう一人はどうしたのだろうか。
>ゆーた 知香はいないのか
>ほの 寝てるんじゃない?
>K 寝てるだろ
>メガネ 知香のことはゆーた殿に任せるとして、そろそろ全裸待機から紳士スタイルへと着替えねばならないので落ちるよ
>ほの 嫁タイムか
>K 昼過ぎに集合な
幼馴染みどもは平常運航、この終末に不安もないらしいことに、祐太は安堵するのであった。