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第十四話

 パチパチと、暖炉の薪が爆る。先ほどまで仄かに浮遊していたゆうげの匂いが風に溶けてゆく。

「怪獣が眠りにつきましたよ」

 子ども達を寝かし付けたオルセが、居間に入ってきた。

「ご苦労だな、オルセ」


 ガアプは円卓にオルセを招くと、木の杯に果実酒を注いだ。

「いいえ、ガアプ様も…。うん、美味しい果実酒だ」

 オルセは杯を口につけると、感嘆するように言った。

「当たり前だ。私とガアプ様の二人で毎日丹誠込めて育ててる畑から採れたぶどうから作ったんだからね」

「そう、お前が蛙と遊んでいる内にな」

「…そんなにいじめないで下さいよ」

 照れ笑いを含む。だが、すぐに真面目な表情に変える。


「…あの子達は、元気がいいです。とても。どんどん成長してゆく…」

 ルキもアーシェも、今年で七歳になった。ディノは三歳。

 三人とも、大人の手を放して走るのが巧くなった。目を少し離すと、もう何処かに行ってしまう。


「街の人々が三人を大事にしてくれているから、まだ助かっています。…ルキは騎士坊や、アーシェは姫様、ディノは小鬼なんて言われてる。フフフ」

 オルセが笑う。目はどこか悲しみに淀んでいる。

「…過去が嘘みたいに」



「…そう、ガアプ様は何も言わなかったが、みんな過去が幻のように思えていたんだ。それほど、平凡で穏やかな貧乏農民のような生活だった」

 キリアは目を細めながら言葉をつむいだ。

「俺、ぜんっぜん覚えてない」

 キリアの話に、ディノは首を左右に振る。

「ディノはとっても小さかったから、仕方ないです」

「仕方ないことあるもんかい。あんなに、みんなに心配させて迷惑かけて、あげくアーシェを全然覚えてないだなんて、我が子ながら本当に呆れるよ」


「わりぃ」

 ディノのあっけらかんとした謝罪にアーシェはクスクスと笑うと、懐かしい、と呟いた。

「もう、十一年も経つんだね…」



「えいやっ」

 ポコッと軽い音がして、木刀が返される。

 ぴゅんぴゅんぴょこぴょこ、小さいルキとアーシェの体が飛び跳ね、二本の木刀が、ガアプに向かってゆく。

「そんなんじゃ二人とも、憧れの金獅子にはなれんぞ…」


 ガアプの木刀が、素早い動きで次々と二人の太刀をはねかえす。まるで緩いリズムの太鼓のようだ。

 ガアプは平然としている。対照的に、幼い二人は必死のようだ。

 ぜぃはぁ、と荒い息をして、ガアプめがけて木刀を振る。汗が滴る。


 ふと、二人がチラリと両者を見つめた。キラリ、と小悪魔な目が光る。


「わぁっ」

 瞬間、つるり、と木刀がルキの手を滑って、ガアプの顔の横を鳥のようにすり抜けた。バランスを崩して、そのままズデンと転ぶ。


「むっ」

 ルキが転んだのを抱き起こそうとガアプが手を伸ばす。

「すきあり〜!!」

 すかさず、しゃがんだガアプの頭にアーシェの太刀が振られる。

だが、それはスルンとかわされて地面に不時着した。


ポコン!ポコン!!


「「いたいっ」」

 ガアプの太刀が、二人の頭を叩いた。

「…姑息な作戦だな。そんな事ばかり考えていては、いつまでたっても強くなれんぞ。堂々と剣を交えなさい」

 ガアプが諭すように言うと、ついには二人ともめそめそと泣き出した。


「だっておじいちゃん強いんだもんっ」

「そうだよっ」


 涙に鼻声混じりで二人がいじける。二人の様子に、ガアプはおろおろとうろたえた。ガアプは、二人を溺愛しているため、泣かれるのが苦手なのである。

「わかった、手を抜かないおじいちゃんが悪かった」

 よしよし、と二人をなだめすかす。だが……


「「すきありっ!」」


 ズテンッ。

 二人の同時攻撃。難無くかわされてしまった。

 そればかりか…

「…ルキ、アーシェ…刀を置いてそこに座りなさいっ!!」



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