蚯蚓腫れ
1000文字以内で書いた短編です。
乾燥肌で痒みが出て、掻いてしまうのは日常の事。
毛先が触れて、痒くて、掻いて、腫れて
それを繰り返すうちに溜まったストレスを文章にしました。
空は曇り空、照らす光はほどほどに。私は今日も脱皮をしては、黄色い皮のひび割れから血を拭う。掻けばボロボロと落ちる古い私が、チクチクと未完成の私を刺す。
「ああ、気持ちいい。」
人生で最も快感を味わえる瞬間に、夢中になって時間が過ぎてゆく。私にはこの喜びしか許されていないし、だれにも奪われてたまるもんですか。この喜びも、床に散らばるすべての私も、すべて私だけのもの。
その時を世界に示す記号として、長く不潔に垂らされた後ろ髪に、匂いに誘われたハエが掴まって遊んでいる。てっぺんにあるチーズを頂こうと頑張っているようだが、それも私の物である。だから簡単に渡すわけにはいかず、少しでも羽音を聴かせようもんなら殺してやる。
「あらら、揺れているわ。」
私が揺れているのか、地面が揺れているのかがハッキリするのに3秒はかかる。その後で心臓が破裂しそうなほど鼓動を速めて、見事に指先が震えるのだ。
「揺れが短いから大丈夫。大きな地震じゃないから大丈夫。」
そう言い聞かせててやらないと、体が言うことを聞かないのです。揺れが大きいと、床に落ちたカスが跳ねる油のように狂喜乱舞してしまう。部屋の様々な場所からホコリや虫たちが避難して、全てがバラバラになってしまう。
けれど、近頃はいつもより落ち着かないようね。爪を立てて搔きむしっても中々痒みは治まらない。頭髪の毛先が少し触れるだけでも、大きな蚯蚓腫れが出てしまう。ずっと地面が揺れているようで、私も地球もドキドキでいっぱいなのだ。爪の間に挟まった血肉も、両手に付いた細かい砂も、線路のように繋がるナイル川の蚯蚓腫れも、全て私の物だけれど、だけれど怖くて仕方がないの。
「私って、人間なのかしら。それとも化け物?でも生きてるってことよね。全部私の物よね。」
人生で一番楽しみなことは何だろうって、今は決められない。だけど、死んで体を燃やすときが待ち遠しいわ。いっぱいいっぱい燃えるように、もっともっと頑張らなくちゃね。
けれど、彼女の痛々しい姿も、汚物を煮たような部屋も、全て綺麗に掃除してしまったら。それは生まれたままの姿になるでしょうし、美しいあの頃を取り戻せるでしょうね。葬式にも人が来てくれるでしょう。しかし、私のすべてを失ってしまえば、人生で一番の喜びも味わえず、華々しい火葬もお預け。掻きたいときに掻けないのなら、何が人生だ。
人生とは
痒いところを掻いて
気持ちいいと素直に思える
日々の暮らしのことです




