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失恋回収屋

作者: 吉高 都司
掲載日:2026/02/27

 その人は不思議な出で立ちだった。

 いつからだろうか自分の町の角に、まちかどにポツンとある日、立っていた。

 (のぼり)を片手に、立っていた。

 (のぼり)には失恋回収屋、とあった。


 学校帰り、何気に立っていた。

 そこにずっと以前からいたように。

 ごく自然に。

 その証拠に、人々は、特に気にすることも無く行き交う。

 一瞥もせず。

 ごく当たり前の様に。


 そこに立っていた。


 一度気になって、クラスのみんなに聞いてみた。

 あの失恋回収屋って知っているか?と。

 一瞬、怪訝そうな顔、表情を浮かべると、すぐ何事も無かったように、少しもその事には触れず、話題は今度の試合の話になった。

 あまり乗り気じゃない話と、空気を読んであまりそこから先はしつこく聞かなかった。


 炎天下、夏休み前テスト期間の頃、もうすぐ来る夏休みのうれしさと、定期テストの地獄の苦しみの狭間の頃。

 相変わらず、(のぼり)を片手に失恋回収屋は立っていた。

 不思議な事に、初めて気が付いた時の格好、出で立ち、服装のままだった、ただマフラーがないだけだった。

 そんな格好だった。

 陽炎の向こうで、ジッと立っていた。


 連日のテスト勉強で頭がボーっとしていて、加えてその日は一人で帰っていた。

 友だち連中は、テスト期間が終わり打ち上げだ。と、カラオケに繰り出していた。

 自分は、珍しくそれには乗らず、眠かったので家に帰ってすぐ寝りにつきたかった。

 クーラーをガンガン効かせて、あられもない姿で寝てやろう。

 そう小さく、壮大に決意しながら帰っていた。


 で、

 一度、その前を横切った。


 何を思ったのか、踵を返し、その幟を持っている人の前に立った。


 相変わらずジッと立っていた。

 目の前に立った自分を一顧だにせず、ジッと立っていた。


 不思議とやはり以前から、ずっと前からそこに立っているのが自然だと言う風だった。

 思わず声を掛けてみた。

 その時初めて、目が合った。

 その瞳は、前からずっと見ていた瞳だった。

 優しくもあり、そして、不思議な感覚だった。

 炎天下の日差しが、ジリジリと二人を焼いていた。

 二、三言葉を交わしたが、今では何を話したか記憶があいまいだ。


 きっとあなたは誰?だとか、何をしているの?とか、そんな風だったに違いない。


 夏休みになり、友達と男女織り交ぜて、気の合った連中同士が集まり、海に行ったり、祭りや、映画と、来年は受験だからと遊びに夢中になっていた。

 そして夏が終わる頃、一人、気になる人が、心に住まう人が出来た。


 恋だった。


 その人の顔、声、姿を見たり聞いたりすると、胸が高鳴った。

 顔が赤くなった。

 病気ではないかと言う位。

 友達、親友に相談してみた。

 自分の事の様に、親友は親身に聞いてくれて、応援する、と言ってくれた。


 文化祭、体育祭で、その人と距離を縮める作戦を色々立ててくれた。

 そしてクリスマス。

 その人を友達が呼びだしてくれて、告白の手伝いをしてくれた。


 好きな人がいる、と言っていた。

 真摯に誤魔化すことなく、答えてくれた。

 その姿勢に、誠実な姿勢に心が千切れそうにバラバラになりそうだったけれど、唯一救われた。

 でも、その心の傷は涙で埋めるしかなかった。

 友達は、あえて声を掛けなかった。

 自分で抱えるしか術はない事を知っていたから、どんな言葉も、傷を埋めることは出来ない事を。


 帰り道、あの街角に差し掛かった。


 向こうから声を掛けてきた。

 泣きながら、涙でボロボになって目が真赤になった自分に。

 二、三言葉を交わした事は記憶にある。

 いつか会おうと、再会の約束だったと思う。

 が、詳しい内容は憶えていなかった。



 だが、その日からパッタリと姿が見えなくなった。

 その内そんな不思議な事も忘れてしまい、記憶の隅に埋もれてしまった。

 月日が流れ、大学、社会人となったある日。

 同窓会の連絡が流れてきた。


 あの懐かしい面々が集った。

 一緒にバカやったメンツ、遊びに夢中になった仲間、クラブで一緒に汗を流した面々。


 そして、忘れもしないあの人。


 心の傷がうずていない、と言えば嘘になる。

 でもそこを引きずるような子供ではもう、なかった。

 笑顔でお互いそれとなく近況の報告をし合った。

 時間があの時に戻ったようだった。

 二人の時間が。


 先に向こうが謝った。

 あまりに持て余して、あなたの気持ちを抱えきれなくなって、思わず嘘をついて断ってしまった事、あなたを傷つけてしまった事、あまりにも子どもだった事。


 その頃を笑い合いながら杯を重ねた。


 よく人は、時間が経てば悲しい事も笑い話になれば、と言う。

 まさにそれだった。


 宴も終り二次会の話が持ち上がり次の会場の場所の話になった三々五々、店の外に(たむろ)っていた時。


 フト視界の隅にあの時の、あの街角に立っていた、幟を持っていたあの人が立っていた。

 あの頃のままだった。

 懐かしい思いが、沸き上がって駆け寄った。


 ニッコリ笑っていた、 

 ふと、右手には、あの幟がはためいていた。

 見ると失恋()()()の裏面には、失恋()()()と書いているのが見て取れた。

 あの人は。

 お幸せに、と一言言って人ごみの中に消えていった。


 そして、消えていった遠く離れた雑踏から、白い大きな翼をはためかせた天使が飛び立っていったのは、決して見間違いじゃなかった。



 声がした。

 振り返ると、はぐれた私を手招きしているみんながいた、その中にあの人もいる。

 その人の元に駆けだした。


 走りながら、そうか、と独り言を言った。

 分かったような気がした。


 そして、みんなの輪の中に入り、あの人の傍に寄り添った。

 お互い顔を見合わせると、自然に笑顔になった。

 やがて私たちたみんなは、町中の喧騒に消えていった。


 あれから暫くして二人、婚姻届けを役所に届けた。


 そして時々思い出す。


 今もどこかで、どこかの街角でジッと立っているのだろうか。 了


拙作に目を通していただき誠にありがとうございます。お時間を頂戴いたしました。感謝申し上げます。

2/27ラストを少し改訂いたしました。

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