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第七章:邂逅の咆哮


 深夜二時、オフィスビルのフロアには、サーバーの唸るような音だけが響いていた。

 彼は、執務机に突っ伏したまま、数十分の浅い眠りから目覚める。

 視界の端で、消し忘れたモニターが冷たく光っていた。

 広告代理店のディレクターという肩書きは、彼の生活を贅沢なものにしたが、同時に彼から「生を実感する時間」を徹底的に奪い去っていた。

 今の自分には、故郷の友人も、家族も、そしてかつての情熱も、どこか遠い物語の登場人物のようにしか思えない。


「……何やってるんだろうな、俺は」


 独り言を吐き出し、彼は無意識にスマートフォンのニュースサイトを開いた。

 流行や虚飾を追いかける仕事の癖で、SNSのトレンドを追うのが日課になっている。

 そこには、『新宿駅での奇跡・命を救った救命士の処置が完璧すぎると話題』という見出しと共に、一本の動画が貼り付けられていた。

 彼は、何気なく再生ボタンを押す。

 ノイズ混じりの音声、通行人の騒めき、そして画面中央で必死に誰かを救おうとしている、一人の女性の姿。

 その瞬間、彼の指先が凍りついたように止まった。



 画面の中で、青いスクラブを纏った彼女は、地面に膝をつき、必死に胸骨圧迫を繰り返していた。

 かつての柔らかだった面影は、峻烈な覚悟によって削ぎ落とされている。

 けれど、乱れた髪の間から覗くその瞳は、紛れもなくあの三月の夜に、絶望を湛えて自分を見つめていた彼女のものだった。

 逞しく、けれど同時に、壊れてしまいそうなほど悲しい瞳。


「……っ、お前……そこにいたのか」


 彼は、心臓を直接掴まれたような衝撃に襲われ、デスクを叩いて立ち上がった。

 自分たちが連絡を絶っていた数年間、彼女はこの街のどこかで、一人で死と戦っていたのだ。

 仕事に追われ、虚無感に浸っていた自分の日常が、あまりに浅ましく思えた。

 動画の中の彼女は、救急隊が到着し、患者が収容されるのを見届けると、誰に名前を告げることもなく、雑踏の中へと消えていった。

 その最後の一瞬、彼女が見せた寂しげな表情が、モニター越しに彼の魂を激しく揺さぶる。

 会いたい。

 その原始的な欲求が、理性の堰を切って溢れ出した。




 それからの彼は、何かに取り憑かれたように働きながらも、視線は常に街を走る救急車の赤色灯を追うようになった。

 連絡を取る手段はない。

 共通の知人も、父を通じて探れば分かっただろう。

 けれど、今の自分に、あの高潔な瞳を持つ彼女と向かい合う資格があるだろうか。

 都会の波に飲まれ、虚飾の恋人と虚無を埋め合っている今の自分に。


「……やり直さなきゃいけないんだ、俺も」


 彼は、ユリカとの関係に終止符を打ち、身の回りの不要なものを全て捨てた。

 ただ一つ、あの夜の喫茶店で彼女が見せた、泣き出しそうな視線の記憶だけを胸に抱いて。

 運命は、皮肉な形で加速する。

 ある雨の夜。

 彼は過労による意識の混濁の中、タクシーを拾おうとして、濡れた路面で足を滑らせた。

 視界が反転し、巨大なトラックのヘッドライトが、彼の意識を真っ白に塗りつぶす。

 遠のいていく意識の中で、彼はなぜか、あの三月の雨の匂いを思い出していた。


「……やっと、会えるのか」


 激しい衝撃と共に、彼の世界は深い闇へと沈んでいった。


この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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