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第六章:摩耗する情景


 東京での三年という歳月は、私の心から地元の湿り気を完全に拭い去っていた。

 新宿の総合病院で働きながら、夜は専門学校へ通い、ついに救急救命士の国家資格を手にした。

 鏡に映る自分の瞳は、あの頃の怯えた少女のものではなく、生と死を冷徹に見つめる職業人のそれへと変貌していた。

 今の私には、翔太という恋人がいる。

 彼は同じ病院の外科医で、仕事への理解もあり、何より私を「有能なパートナー」として高く評価してくれていた。


「今日は当直明けだろ。無理しないで、僕のマンションで休みなよ」


 翔太の言葉は、処方箋のように的確で、血の通った温もりに欠けていた。

 彼と一緒にいる時間は穏やかだ。けれど、その穏やかさは、凪いだ死の海に似ている。

 彼と身体を重ねる夜、私は時折、目を閉じて、暗闇の中に別の熱を探してしまう。

 荒々しく、私を壊そうとしたあの三月の指先。

 翔太が私を抱くとき、彼は私の「現在」を愛している。

 けれど私が欲しているのは、私の「根源」を奪い去ったあの絶望的な愛だった。

 満たされない空腹感を抱えたまま、私は再び、戦場のような救急外来へと戻っていく。



 一方、彼は広告業界という、嘘と虚飾が渦巻く世界の中心で、すり切れていた。

 大型プロジェクトの責任者を任され、一日の睡眠時間は三時間を切る。

 彼の隣には今、モデルを本業とするユリカという恋人がいた。

 彼女は彼の孤独を埋めるための華やかなアクセサリーであり、彼もまた、彼女にとって

の「成功者の象徴」でしかなかった。


「ねえ、聞いてる? 来月の連休、パリに行こうって言ったじゃない」


「……悪い、その時期は大きなコンペが入ってる。また今度にしてくれ」


 ユリカの不満げな声を背に、彼は深夜のオフィスでモニターの光を浴び続ける。

 彼が求めるのは、パリの美しい景色ではなく、あの泥臭い地方都市の閉塞感だった。

 どれほど贅沢な食事をしても、どれほど高い酒を飲んでも、喉の渇きが癒えない。

 ふとした瞬間に思い出すのは、あの雨の夜、彼女が耳元で言った「痕をつけて」という、震えるような懇願の声だ。

 彼女が今、どこで、誰と、どんな顔をして生きているのか。

 それを知るのが怖くて、彼は三年前からSNSのアプリを消したままにしている。

 愛とは呼べない、執着という名の砂を噛むような日々が、静かに彼を蝕んでいた。



 季節が巡り、新宿駅の雑踏に冬の冷たい風が吹き込み始めた頃。

 私は救急救命士として、現場での処置を許される特別なバッジを胸に付けていた。

 病院の枠を超え、街そのものを守るための、孤独で過酷な職務。

 その日の非番の夕方、私は重い足取りで新宿駅の東口を歩いていた。

 ふいに、前方の階段付近で人だかりができ、悲鳴が上がる。


「誰か! 人が倒れました! 誰か助けてください!」


 その声を聞いた瞬間、私の身体は、摩耗していたはずの日常を脱ぎ捨てていた。

 周囲の人間が戸惑い、スマートフォンを向ける中、私は人混みを割り込み、倒れている中年男性の元へと駆け寄る。

 脈拍の確認、気道確保、そして胸骨圧迫。

 周囲の喧騒は一瞬にして消え、私の世界には倒れている患者と、自分の掌から伝わる肋骨の感触だけが残った。

 一心不乱に救命処置を施す私の横顔を、誰かが動画で撮影していることなど、気づく余裕もなかった。

 数日後、その動画が「新宿の天使」という皮肉なタイトルで拡散され、彼のスマートフォンの画面を埋め尽くすことになるとは、夢にも思わずに。


この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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