第四章:仮面の再会
八月、盆休みの帰省客で賑わう地元の駅前は、湿った熱気に包まれていた。
駅近くの居酒屋。
そこには、同窓会という名目で集まったかつての同級生たちの、無邪気な喧騒が満ちている。
私は直哉の隣に座り、彼の温かな手を受け入れながら、入口の自動ドアが開くたびに心臓を跳ねさせていた。
「ほら、主役のお出ましだぞ」
誰かの声と共に、冷気とともに彼が店に入ってきた。
半年振りに見る彼は、都会の空気に磨かれたのか、記憶の中よりもずっと大人びて、冷徹な美しさを湛えていた。
父が隣で、「よく帰ってきたな」と彼の肩を叩き、豪快に笑う。
「久しぶり。……元気そうだな」
彼は私と直哉の繋がれた手へと、一瞬だけ視線を落とした。
「うん。……お帰りなさい。東京、大変だって聞いたけど」
私は完璧な「幼馴染」の微笑みを貼り付けて答える。
心の内側では、あの夜の体温が蘇り、叫び出しそうな衝動を必死に抑え込んでいた。
直哉が私の腰に手を回し、「初めまして。彼女と付き合っている直哉です」と、
誇らしげに自己紹介をする。
彼は直哉の目を真っ直ぐに見返し、淀みのない動作で握手を交わした。
「ああ。……いい人を見つけたんだな」
その言葉の裏に張り付いた氷のような温度を、私だけが敏感に感じ取っていた。
酒が進むにつれ、同窓生たちの話題は結婚や就職といった現実的な未来へと移る。
東京で成功を収めつつある彼と、地元で着実に地盤を固める私たち。
その境界線は、目に見えない巨大な亀裂となって、刻一刻と深まっていく。
「お前はもう、こっちの人間じゃないもんな」
誰かが放った無意識の羨望が、彼を遠くへ押しやる。
彼はただ静かに酒を煽り、周囲の喧騒から浮き上がった孤島のように座っていた。
不意に、彼と目が合う。
周囲には大勢の人間がいて、私の隣には婚約も同然の恋人がいる。
けれど、その数秒の沈黙の中で、私たちは確かにあの夜の続きを共有していた。
誰も知らない。
この端正な顔立ちの彼が、私の肌を震える指でなぞったことも。
私が彼の背中に、消えないほどの爪痕を残したことも。
「……少し、外の空気を吸ってくる」
彼が席を立った数分後、私は直哉に「お手洗いに」と告げて、店を出た。
夜の商店街は、祭りの後のような寂しさに沈んでいた。
アーケードの隅にある、古びた喫茶店。
薄暗い琥珀色の照明の下、彼は一番奥の席で待っていた。
カラン、というドアベルの音が、静かな店内に響き渡る。
注文した覚えのない二つのコーヒーカップから、細い湯気が立ち上っていた。
私たちは、一メートルほどのテーブルを挟んで向かい合う。
触れ合えば、きっと全てが壊れてしまう。
だからこそ、私たちは言葉という、最も脆くて不確かな武器を手に取った。
「……あの男と、幸せになれるのか」
「……あなたは? あの綺麗な人と、東京でやっていくんでしょ」
「ああ。もう後戻りはできない。……お前も、そうなんだろ」
私たちは、お互いを問い詰めることで、自分たちの選択を正当化しようとしていた。
視線が交差するたび、火傷しそうなほどの熱が走る。
けれど、どちらの手も、テーブルの上の境界線を越えることはなかった。
愛している。
けれど、共に生きることは選ばなかった。
その残酷な事実が、冷めていくコーヒーの苦みとなって口の中に広がる。
「……もう、行かなきゃ。最終の新幹線まで、時間がないんだ」
彼が立ち上がり、伝票を手に取る。
私は彼を追わなかった。
ガラス越しに、夜の街へと消えていく彼の背中を見送る。
愛を確かめ合う言葉もなく、指一本触れることもなく、彼は東京へと戻っていく。
後に残されたのは、不揃いな二つのカップと、二度と埋まることのない喪失感。
私は独り、冷え切った日常へと足を向けた。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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