ワケあって就活中の魔女、雨宿り中に兄の友人へ愚痴る
突然の雨に降られ、アイラは店の軒先に逃げ込んだ。つばが広いとんがり帽子も漆黒のローブもびしょ濡れだ。
雨がざぁざぁ降り注ぐ。軒下にできた水たまりが、ちゃぽちゃぽと音を立てる。紅い宝石がついた杖を握りしめると、道の先から若い男が走り込んできた。
「わああ、ごめん僕も雨宿りさせて!」
「……トピアスさん?」
「あれっ、アイラ君。奇遇だね。でもまだお昼前だよ。お仕事は?」
無邪気に尋ねられて、アイラの瞳から光が消えた。
「お掃除特化型の魔女はいらないって、クビになりました」
「そうかそうか──って、えっ!?」
「家事はメイドがいれば事足りるそうです。就活中なんですけど、どこも不採用で。私の魔法はくだらないって……。お金を稼がないと、い、生きていけないのに」
言いながら涙がぽろぽろとあふれる。
「な、泣かないで。お掃除特化型、素晴らしいじゃないか。何の魔法が得意なんだい?」
「……聞いた後に後悔しますよ」
「自分から聞いておいて、がっかりするような失礼な真似はしないよ。約束する」
思いのほか真剣な声色に驚いて、涙が止まった。
「欲しい本の場所が光る魔法、です」
「えっ、なにそれ。もっと詳しく」
「詳しく……って」
「読んだことのある本だけ光るってこと? それとも、指定範囲内からタイトルを照合するってこと? 検索方法は完全一致? 部分一致? あいまい検索はあり?」
ものすごい食いつきようだ。
初めて魔法を見た子どものように、青紫の瞳が爛々と輝いている。
「ち、近くにある本はすべて反応します。類似するタイトルが複数ある場合、あちこち光りますけど」
「そんな魔法、初めて聞いたよ! これは画期的な魔法だ!」
あまりのはしゃぎぶりに呆然としていると、不意に距離を詰められた。
「アイラ君は再就職先を探しているんだよね?」
「……そうですけど」
「じゃあ、これから僕の職場に行こう。室長に紹介するから」
「は? 紹介? すみません、意味がよく──」
「僕は研究員なんだ。君にはぜひ、腐海の森と化した資料室の管理人になってほしい。新人に資料探しを頼んでも時間がかかるみたいでね。まさに、アイラ君は僕たちの救世主!」
そのまま矢継ぎ早の質問になんとか答えていく。ようやく質問攻めから解放されたと思ったら、腕をぐいっと引っ張られた。
とっさに足が前に飛び出た。雨はいつの間にか止んでいた。灰色の雲の隙間から光が差し込む。
その日の午後、アイラは魔法研究所への再就職が決まった。




