表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪いの剣に転生したけど、ただ野菜を切りたい。  作者: 無響室の告白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

第6話:深夜の訪問者と胃袋への一撃

極上のオークロースのソテーを平らげ、アリアが至福の溜め息をついたその時だった。


ドンドンドンッ!!


静まり返った店内に、扉を乱暴に叩く音が響き渡った。


アリアの体がビクッと跳ね上がり、せっかく戻った血の気が再び引いていく。


「こんな時間に……まさか」


「チッ、せっかくの食後の余韻が台無しだ。アリア、俺を構えろ。脂汚れは落としたばかりだが、致し方ない」


アリアがおっかなびっくり扉を開けると、そこに立っていたのは巨漢の男だった。


粗末な革鎧に、腰には棍棒。


その顔は凶悪そのもので、アリアは思わず後ずさる。


「夜分にすまねぇなァ、『錆びないスプーン』の嬢ちゃんよォ。黒曜銀行の集金だ。今月の利息、まだ耳揃えてもらってねぇぞ」


男の名はゴズ。


黒曜銀行が雇っている取り立て屋の一人で、界隈では手癖の悪さで知られていた。


「ひ、ひぃ……! ゴ、ゴズさん……あの、父が倒れて、今は本当にお金がなくて……!」


「ああん? 金がねぇなら、店の権利書でも体でも置いてってもらおうか!」


ゴズがドカドカと土足で店内へ踏み込んでくる。


アリアは恐怖で足を震わせ、エッジの柄を握りしめた。


しかし、エッジの感覚センサーは別の反応を捉えていた。


(……待て。こいつ、腹の虫が鳴ってやがる)


エッジはゴズの視線がアリアではなく、厨房のカウンターに残された『オークロースのソテー』の残り香へ向いていることに気づいた。


『呪いの旨味共鳴』の効果は、まだ店内に充満している。


「おい、アリア。剣を抜くな」


エッジの声がアリアの脳内に響く。


「えっ!? で、でも襲われます!」


「いいから俺の言う通りにしろ。こいつは今、敵意よりも食欲に支配されている。……作戦変更だ。厨房に残っている切れ端と、付け合わせの野菜を持ってこい」


「は、はい……?」


アリアは困惑しながらも、ゴズの前に皿を差し出した。


そこには一口大にカットされたオーク肉と、エッジが執拗なまでに均一に刻ませたキャベツが盛られている。


「あァ? なんだこりゃ。俺を餌付けしようってのか?」


「い、いいから食ってみろ豚野郎……あわわ、じゃなくて、ご試食ください!」


アリアはエッジの暴言をつい口走りそうになりながら、皿を押し付けた。


ゴズは不審がりながらも、鼻腔をくすぐる暴力的なまでの香りに抗えず、肉を口に放り込む。


咀嚼した瞬間、ゴズの目がカッと見開かれた。


「なっ……!? なんだこれはァァッ!!」


オーク肉の野性味あふれる旨味が、魔剣の能力で極限まで濃縮され、舌の上で爆発する。


表面のカリッとした焦げ目と、中のジューシーな肉汁のコントラスト。


本来なら臭みがあるはずの魔物の肉が、熟成された高級牛のような深みを醸し出している。


「う、うめぇ……! なんだこの店は! 親父がやってた頃は残飯以下の味だったのに!」


「へっ、当たり前だ。俺が火加減と切る角度をコンマ単位で指示したからな」


エッジが得意げに呟く。


ゴズは夢中で皿を舐めるように平らげると、荒い息を吐いてアリアを睨んだ。


いや、それは睨んでいるのではなく、渇望の眼差しだった。


「か、金ならねぇんだろ! 代わりと言っちゃなんだが、今日はこれで勘弁してやる!」


ゴズは懐から銀貨を一枚取り出し、テーブルに叩きつけた。


「こいつは飯代だ! 利息の件は数日待ってやる。その代わり、次に来る時もこれを用意しとけ! いいな!」


嵐のようにゴズは去っていった。


残されたのは、テーブルに輝く一枚の銀貨。


Fランク冒険者のアリアにとって、それは数日分の食費に相当する大金だった。


「す、すごい……。魔剣さん、撃退しちゃいました……料理で」


「ふん、野蛮な連中ほど美味い飯には弱いものだ。覚えておけアリア。これからは剣で斬るだけが戦いじゃない。胃袋を掴んで無力化する、それが『厨房の戦術』だ」


アリアは銀貨を握りしめ、涙目で頷いた。


「はい! 私、頑張ります! 野菜の皮むきでもなんでもやりますから!」


「よし。なら次はあの汚い客席の床掃除だ。埃が舞う店で飯を出せるか。徹夜で磨くぞ」


「えええーっ!?」


『錆びないスプーン』の夜はまだ長い。


だが、アリアの心には確かな希望の灯がともっていた。



-------------------------------------------------------------------------------------


【登場人物】

- ゴズ: 黒曜銀行の取り立て屋


【アイテム・用語】

- 厨房の戦術: 武力ではなく、圧倒的に美味い料理を提供することで敵対者の戦意を喪失させ、友好的な関係や利益を引き出すエッジ考案の戦術。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ