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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

拝啓、夜を超えられなかった君へ

作者: ぶぶなぎさ

表現に自殺や自傷行為があります。

喫煙を始めて5年程経つが、未だに灰を切るタイミングが難しいようにも感じる。

タバコの先が大して減っていないのに、灰皿に手を伸ばすことも億劫に思えるし、

かといって、灰が落ちるかぎりぎりのタイミングだと、いつ落ちてしまうかわからなくて

不安になる。深夜2時のコンビニの喫煙所でタバコをふかしながらついそんなことを考えてしまう。

また、さっきコンビニで買い食いしたファミチキの袋も捨てないといけないのが、また億劫だった。

もしポイ捨ては悪、いや、ポイ捨てという行為自体が存在していなければ僕はわざわざゴミをゴミ箱に

捨てに行くという面倒な行為をしないだろう。

ポイ捨てという不法投棄が法律にどう触れていて、どんな悪影響があるのか。

割と世界的にも不法投棄が少ない日本で育ったせいか、そんなことは考えたことはなかった。

考えるよりも前に、自分の倫理感が許せないのだろう。ポイ捨てするという行為が。

犯罪はダメなことだ。これは当たり前のことだと思う。

でも、僕がポイ捨てをしない。という倫理観の根底には、また別のものがあるんだと思う。

僕はタバコのポイ捨てもしなければ、お菓子の袋や、ペットボトルも例外なくきちんとゴミ箱に捨てる。

法律を守るというよりかは、一回ポイ捨てをしてしまえば、きっとポイ捨てという行為が悪だと認識できなくなってしまう気がする。

今ある当たり前の倫理感を崩してしまうのだ。

犯罪だって同じように思える。不謹慎かもしれないが、不法投棄だけなら、まだ悪に染まったとは言い切れないと思う。

例えば、昨今流行の闇バイトも最初は荷物を運ぶだけだったり、犯罪をあまり匂わせない内容のケースもあるらしい。

きっとそこから、詐欺の受け子だったり、強盗だったりをさせられることだってあるんだろう。

いきなり強盗をしろ、と言われてもわけがわからなくなってしまうだろう。

でも、少しづつ、少しづつ小さな犯罪から、大きな犯罪にしていくことで、倫理感がずれていくような気がする。

まあ、犯罪のように思えないだけで、闇バイトで荷物を運ぶことも、それなりの犯罪ではある。

それにしても、ファミチキを食べた後のタバコは美味しく感じる。

週に3回以上はファミチキを食べている気がするけど、やめられない。

太りそうだな、と思いつつも。

これもきっと、少しづつ自分の中で太りたくない、という意識がずれていくんだろう。

まあ、まだそこまで太っていないから、まだ気にはしていないが。。。


考え事をしているうちに、タバコを吸い終わってしまった。

深夜になると、つい一人で考え事をしてしまう。

その考え事の中でも、ここ1年抜けないことがある。

去年の夏、ちょうど一年前に自殺してしまった女友達がいた。

彼女は小川葵という名だった。

当時20歳、高校を卒業して、就職した1年程で退職し、

風俗店で勤務していた。

彼女は一人暮らしをしていたのだが、親族や友人から彼女と連絡が途絶え、

行方不明状態になり、両親が彼女の自宅に向かったが全く返事がなく、

警察に通報した所、彼女は自宅で首を吊って死亡していた。

しばらくして、彼女がなくなったことが知れ渡り、僕の耳にも入ってきた。

彼女とはそれなりに親しい仲だった。

小中同じ学校で、放課後男女の3人グループでよくゲームセンターだったり、カラオケだったりで

良く遊んだ思い出がある。

もう一人は山口壮太という、僕と同じごく平凡な男子だった。

壮太はいつのノリがよく、僕たちを楽しませてくれた。

壮太も彼女が死んだ後はかなり思い詰めている様子をしていた。

高校は別だったが、3人のグループlineでよく話していたし、通話もしていた。

彼女に恋愛感情だったりはなかったが、親友が亡くなったという事実は、とても悲しく、

僕の脳裏から中々離れなかった。

彼女と連絡が取れなくなる直前、彼女から最後のlineメッセージが3人のグループに届いてた。

「ありがとう」

と一言だけ残されていた。

不自然には思えた。とても嫌な予感はしたが、彼女になんと言えばいいのかわからなかった。

結局僕も壮太もしばらく経ってから「こちらこそいつもありがとう」とだけ返信をし、彼女から

既読がつくことはなかった。なんと言えばよかったのか、僕も壮太もまだ答えは知らない。

彼女が自殺した経緯はある程度推測できた。

僕たち3人とは別で、彼女は17歳の頃から交際している二つ年上の彼氏がいた。

彼氏とはバイト先で出会ったらしい。

交際は順調に続いているように思えた。僕もその関係を応援していた。

しかし、彼女が19歳の時に妊娠してしまい、中絶した。

彼氏は中絶費用を全く出そうともせず、さらに半年前から浮気をしていることがほぼ同時期に

発覚。おまけに彼氏の方から「浮気相手と付き合う」とまで言われたらしい。

そのショックから彼女は仕事をやめてしまい、ニート生活を続けていたが、生活費が底を尽きてしまい、

風俗店で働き始めたらしい。それは彼女が自殺する半年前のことだった。

それからの彼女のことはよくわからないし、あまり聞いてもいない。

彼女の遺体はなんとも醜い姿だったらしい。

彼女の腕には深く残ったリスカの跡がいくつもあり、太ももにも同じような跡がいくつもあったらしい。

正直、自殺した原因はあの彼氏が全ての原因だったように思える。


きっと彼女の腕も最初からあんなに醜い状態ではなかったのだろう。

状況がわからないから、断定はできないが、最初からいくつもリスカをすることはあまりないように思える。

リスカをする理由は正直わからないが、ネットで調べてみると、痛みで心の痛みを緩和することが多いらしい。

彼女のことをわかった気になったつもりは全くないが、彼女が自殺にまで手を出してしまったのは、周囲の環境だったりは

一番の要因だとは思う。しかし、一度リスカに手を染めてしまったことも、一歩ずつ自殺に近づけているような気もした。


「ありがとう」

と一言だけ送られてきたlineへ、きちんと返事をしていれば彼女は自殺をせずに済んだのだろうか、でもそう考えると僕が彼女を

殺したみたいになるんじゃないか。それなら壮太だって彼女を殺したんじゃないか。

自責と他責が入り混ざって、よくわらかない感情が時々やってくる。

罪をどこに向ければ良いのか、本質はそこではないことはわかっていた。

正直、自殺を選ぶ前に相談して欲しかった。

壮太もその気持ちは同じだと思う。

もしかすると僕たちが相談できる場を作れていなかったのかもしれない。

彼女が中絶した時、僕と壮太も慰めはしていたが、それも彼女にとって、救いになっていなかった

のかもしれない。

でも、彼女のことを考えると、男子二人にその話をするのは難しいことなのかもしれない。

やはり自責と他責が入り混ざってしまう、

死んでしまわなくてもいいじゃないか。

こんな酷い話でも、10年後も生きていれば、また3人で集まって居酒屋へ行って、昔話をして、

「あんなこともあったね」

と彼女から話すことだって出来たのではないか。

その時の彼氏の愚痴を話して、笑い話にだって出来たんじゃないか。



僕は考え事をしながらコンビニから自宅へ帰宅した。

自宅のドアを開けて部屋が真っ暗で誰もいない寂しさというのは

いつになっても拭えない。

寂しさだったり、現実の残酷さから僕も気を落とすことは多々ある。

いつか僕も彼女のように間違った選択をしていまうのか、と時々不安になる。

一度火事を身近に経験した人は火に恐怖を覚えることがあるのと同じように、

僕は日常でカッターナイフだったり、首を吊るには十分の長さのロープを見ると

少し恐怖を感じる。彼女のようにはなりたくない、と無意識に思ってしまうのだ。

そもそも彼女の選択は間違っていたのか、時々、自殺がダメなことだ

という倫理観すら疑ってしまう。

いくら一人で考えごとをしても無駄だろうと思うこともあるが、それはそれで彼女の死を無下にしている気もする。


結局僕は考え事をやめることが出来ずに、毎日布団に入る。

どれだけ現実が残酷でも、耐えきれない出来事があっても、

生きている限りは明日は平等に来るのだ。

ありきたりな言葉ではあるが、1年間も納得ができない親友の死があったんだ。

今の僕にとっては、その言葉は綺麗事には聞こえない。

現代に生かされる束縛のようにも聞こえる。


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