新しき顕現者⑨
流転の國きっての参謀、シロマ・ウィーグラー降臨。
クラヴィスも、彼女がいれば怖いもの知らず!?
ミノリは時折現れるドラゴンを瞬殺しながら、桜色の都の黒魔術師を探していた。
(怪我人がいるかもしれない…。でも、視界が悪くてよく見えない…)
今のところ、黒魔術師と思しき姿は見えない。
(モンスターの臭いが凄まじい…。毒はなさそうだけど…)
そこへ、魔法陣が現れる。
「ミノリ、怪我はないかしら」
「ご主人様…!ミノリは大丈夫にございます!されど、貴女様の御手を煩わせる事態になりましたこと、誠に申し訳ございません」
ミノリはマヤリィの前に跪き、深く頭を下げる。
「立ちなさい、ミノリ。無事で良かったわ」
そう言われて立ち上がったミノリは、人数が増えていることに気付く。
「シロマ…?なぜここに…?」
「クラヴィスからツキヨ様が怪我人の介抱をされていたと聞きました。怪我人の数が多ければ、宝玉を使うよりも私が出向いた方が効率が良いと思いまして。そうすれば、クラヴィスも攻撃に専念出来ますから」
シロマは既に『ダイヤモンドロック』を手にしていた。そして、
「クラヴィス、『流転のリボルバー』を構えて下さい。どこからモンスターが出てくるか分かりませんよ」
いまだにマジックアイテムを取り出していないクラヴィスに言う。
(シロマとクラヴィスってどういう関係なの…?)
普段のシロマは誰のことも呼び捨てにはしないし指示を出すこともない。しかし、クラヴィスに対しては随分と態度が違う。
ミノリは不思議に思ったが、今はそれどころではない。ここは戦場だ。
「ミノリ。シロマ。クラヴィス。エアネ離宮周辺は任せたわ」
「ご主人様!?どちらへ…?」
「都の最西端に大きな魔力を感じる。私はそちらを片付けてくるわ」
マヤリィは『魔力探知』を怠っていなかった。
相手は魔力を帯びたモンスターなのだ。
「皆、頼むわよ」
「畏まりました、ご主人様」
「どうかご無事で…!」
配下の言葉に笑顔で頷くと、マヤリィは『飛行』を発動。移動しつつ、空から様子を探るようだ。
「では、私達も行きましょう」
ミノリが先頭に立ち、視界の悪い中を用心深く進んでゆく。
そこへ、唸り声。
一体ではない。人間よりも遥かに大きなドラゴンが次々と現れた。
「クラヴィス、首を狙って下さい!!」
「はいっ!」
シロマに言われた通り、クラヴィスは『流転のリボルバー』を構え、発砲する。
直後、大きなドラゴンが倒れた。即死だった。
クラヴィスは動揺することなく、その後も次々とドラゴンを仕留めた。
(その武器は一体何なの…?書庫にある武具の書物にもそんなアイテムは載っていなかったわ…!一瞬で巨大なモンスターを確実に仕留める武器なんて…!)
ミノリも応戦しつつ、一瞬で確実にドラゴンを即死させる武器を飄々と扱いこなすクラヴィスを見ていた。
(そういえば、クラヴィスに対するシロマの指示も的確だった。彼を攻撃に専念させる為にここに来たのも、シロマ自身の進言ね。…もしかしたら、今この場での司令塔はシロマに任せるべきかもしれない)
今日初めて戦場に出たとは思えないほど冷静で、行動力や判断力も優れているシロマ。ミノリはご主人様がシロマを連れてきた理由が分かった気がした。
因みに、ジェイ&ルーリVSネクロ&シャドーレの模擬戦(番外編全集『2 VS 2』参照)を見ていないミノリは、シロマが「流転の國の参謀の役割もこなすことが出来るのではないか」と評されたことを知らない。
それからどのくらい時間が経っただろうか。
何体のモンスターの息の根を止めただろうか。
次第に視界が開けてきた。
しかし、そこで三人の目に飛び込んできたのは、血塗れでその場に倒れている数十人の黒魔術師だった。
「流転の國から…来て下さったんですか…?」
かろうじて意識を保っている魔術師が三人に訊ねる。
「ええ。主様の命を受けてモンスター駆除の支援に参りました」
「そう、ですか…有り難いことです…」
彼は薄れゆく意識の中でミノリを見ている。
ツキヨを見た時から嫌な予感はしていたが、まさか桜色の都の精鋭黒魔術師部隊『クロス』が壊滅状態に追い込まれるとは。ミノリは改めて辺りを見回して言葉を失っていたが、シロマは冷静な声で告げる。
「ミノリ様。クラヴィス。私はこれから広範囲に向けて『全回復』魔術を発動致します。発動中は動くことが出来ないので、ドラゴンを魔術師の方達に近付かせないようにして下さい。お願いします」
シロマはこの場にいる魔術師全員を救う為に、広範囲に渡って回復魔術を発動出来るだけの魔法陣を空中に出現させる。それだけでも、かなりの魔力を消費した。
しかし、彼女は迷わない。
「ダイヤモンドロックよ、我が願いを聞き届け、この場に存在する全ての傷付きし魔術師を救い給え。『完全回復』魔術、発動せよ」
シロマが詠唱を終えると、空中の魔法陣からまばゆい光が降り注ぐ。
(シロマ…本当に全員を救えるの…?)
「ミノリ様、後ろです!」
ミノリがシロマの魔術に圧倒されている間に、一体のドラゴンが忍び寄っていた。
すかさずクラヴィスが発砲する。すぐにドラゴンは倒れる。
(百発百中ね、クラヴィス…)
ミノリはそう思いつつ、再び姿を現し始めたドラゴンと対峙する。
(シロマ・ウィーグラーの邪魔をさせはしない…!)
クラヴィスはシロマに言われた通り、攻撃に徹するという自分の任務に集中した。
『完全回復』魔術の光が倒れた魔術師達の上に優しく降り注いでいる。
ミノリはシロマとクラヴィスが旧知の仲であることを知りません。
そして、初めて見る『流転のリボルバー』。
今回は色々と戸惑うことの多いミノリさんです。