新しき顕現者②
「顔を見せて頂戴」
玉座からマヤリィが声をかける。
「はっ。失礼致します、ご主人様」
やはり皆が顕現した時と同じらしい。自分が今置かれている状況も、マヤリィが主であるということも分かっている。
その青年は顔を上げると、
「名を名乗ることをお許し下さいませ」
その時、マヤリィは気付く。
彼の名前が分からない。
「許すわ。名乗りなさい」
「はっ。私はクラヴィスと申します。冒険者として、元は砂漠を旅する者にございました。気付けば、この流転の國におり、私が仕えるべきご主人様をはじめとして、皆様のことも頭の中に入っておりました」
冒険者…。旅人…。
最初から自分の元いた世界について語る者を前に、ジェイとルーリは興味を持つ。
「畏れながら、ご主人様」
クラヴィスはマヤリィを見て、
「私は他の配下の皆様よりもかなり遅れてこの國に顕現したことは存じております。されど私もご主人様の配下として流転の國に呼ばれし者。どうか偉大なるご主人様に絶対の忠誠をお誓い申し上げることをお許し下さいませ」
そう言ってから、深く頭を下げる。
「許すわ。貴方も運命に導かれてこの流転の國に顕現したのでしょう。ならば、私はこの國の主として貴方を配下に加える義務がある。ジェイ、流転の國について簡潔に説明してあげなさい」
「はっ」
急に言われてジェイは一瞬戸惑ったが、いつもマヤリィが言っていることを言えばいい。
「クラヴィスと言ったね?この流転の國は誰もが心穏やかに健やかに過ごすことの出来る自由の國だ。配下達はいざという時にご主人様をお守りする為の魔術を日々研究し、実戦訓練を行っている。…もう頭の中に入っているかもしれないが、例えばここにいるルーリは雷系統を専門とする魔術師だ」
クラヴィスは跪いたまま、真剣な顔で聞いている。
そこへ、
「…ご主人様。畏れながら、私の魔術をここで披露させて頂いてもよろしいでしょうか?」
ジェイに紹介された「閃光の魔術師」ルーリが言う。
マヤリィは頷いて、
「いいわ。彼に見せてあげて頂戴」
「はっ。有り難きお言葉にございます」
なんといってもご主人様の御前。ルーリは嬉々として『流転の閃光』を右手に宿す。雷の光がルーリの右腕全体に絡み付くように広がっていく。そして、彼女は人差し指を真っ直ぐ上に立て、
「『流転の迅雷』」
無詠唱の殺人級魔術を放つ。
因みに、玉座の間は結界部屋こと第4会議室よりも頑丈に作られている為、ルーリが雷を落としても傷ひとつ付かない。
「い、今のが…ルーリ様の魔術…!」
クラヴィスは自分に向かって放たれたわけでもないのに、顔を引きつらせている。
(やりすぎたかな…)
ルーリはクラヴィスが『流転の迅雷』の恐ろしさに凍り付いているのを見て、反省する。
「そう。今のがルーリの得意とする雷系統魔術のひとつよ。」
マヤリィは何事もなかったかのようにかのようにクラヴィスに話しかける。
「はっ。…確かに、ルーリ様の魔力があれば確実にご主人様をお守りすることが出来ますね」
やっとの思いで答える。
「ええ。ルーリは私の側近であると同時に、流転の國最強の魔術師。…勿論、他にも強大な魔力を持つ者達がこの國に集まっているわ」
「勿体ないお言葉にございます、ご主人様」
今日のルーリはよそゆき顔だが、マヤリィに褒められて色白の頬が紅く染まる。
その時、マヤリィは気付く。
彼の魔力が分からない。
「クラヴィス。聞きたいことがある」
「はっ。何なりと」
「貴方がどのような魔力を持っているのか教えて頂戴。そして今ここで見せてご覧なさい」
マヤリィの命令に彼は困惑の表情を浮かべたが、ご主人様の言葉に返事をしないわけにもいかない。
「畏れながら、ご主人様…」
クラヴィスは言いづらそうに、
「私は……魔力を持っておりません……」
予期せぬ言葉に、マヤリィだけではなくジェイとルーリも驚くのだった。