告白
晃が亜香里を探して歩いていると、突然背後から聞き慣れた声が聞こえた。
「晃君…!」
振り返ると、そこには亜香里が立っていた。彼女の顔にはいつもの明るい笑顔はなく、代わりに少し緊張したような表情が浮かんでいた。彼女の透き通る瞳が、晃の決意めいた表情に気づいたかのように、一瞬だけ揺らいだ。
「どうしたの?何かあったの…?」
彼女の声には不安が混じっていた。晃は一瞬、言葉に詰まったが、昨日から胸の中に渦巻いていた疑問を抑えられず、ついに直接聞くことを決意した。
「亜香里…昨日、俺はお前を追いかけたんだ。塾に行くって言ってたのに、渋谷のあの『光の道』っていう宗教法人に入って行ったよな?」
その言葉を聞いた瞬間、亜香里の顔は強張った。明らかに動揺しているのが晃にはすぐに分かった。しかし、彼女はすぐに顔を伏せ、沈黙したまま何かを考え込んでいるようだった。
「何なんだよ、あそこは?お前…何をしてるんだ?」
晃は焦る気持ちを抑えつつも、問いただした。亜香里は動揺しながらも、やがて深いため息をつき、隠し続けることを諦めたかのように口を開いた。
「もう隠せないね…」
彼女は静かに顔を上げ、その瞳に決意が宿った。晃の目をまっすぐに見つめ、彼女はゆっくりと語り始めた。
「晃君、私たちの世界は危機に瀕しているの。貧困、終わらない戦争、天変地異、ウイルス…あらゆる災厄がこの世界に降りかかっていて、もう私たちだけじゃどうすることもできないの。世界の滅亡が近づいているのよ。」
晃は亜香里の話を黙って聞いていたが、彼女の言葉に困惑が広がっていく。
「私たちができることは、光の道の教祖様に祈ることしかないの。教祖様は、私たちを救ってくださるって信じているの。」
晃は、彼女の言葉を聞くにつれて、胸の中に違和感と不安が押し寄せてきた。亜香里の話には確かに理屈はあったが、その根底にあるものが何かおかしいと感じていた。
「亜香里、それは本当にお前が信じていることなのか?祈るだけで救われるって…?」
晃は、亜香里の目をじっと見つめた。しかし、彼女の瞳には迷いがなく、晃は次第に何を言っても無駄だと悟った。亜香里は、すでに「光の道」の教えに強く影響を受けてしまっている。
「晃君も…一緒に来てほしいの。あなたもきっと理解できると思う。」
亜香里は優しい声で、晃に手を差し出した。その瞳は、どこか悲しげで、必死に救いを求めているようにも見えた。晃はしばらく黙ったまま、その手を見つめていた。彼女が抱える不安や苦しみを感じ取った晃は、亜香里を放っておくことができなかった。
「わかった…」
晃は静かに答え、彼女の手を取り決意した。亜香里を放っておけないという気持ちが、彼の胸を締め付けていた。彼女がこの道に進んだ理由を知るためにも、晃は一緒に「光の道」へ足を踏み入れることを決めた。