疑念
晃は、ビルの近くに身を潜め、亜香里が中に入ってからの時間をじっと見守っていた。彼女が何をしているのか知りたいが、軽率に中に入っていくわけにもいかない。心臓の鼓動が速くなり、時間がゆっくりと過ぎていくように感じられた。
1時間ほどが過ぎた頃、ようやくビルの扉が開き、亜香里が出てきた。彼女は特に変わった様子もなく、まるで何事もなかったかのように静かに歩いていた。晃は一瞬、声をかけようと思ったが、足がすくんでしまった。
「何て言えばいいんだ…?」
問いただす勇気が出ず、結局、晃はその場から動けなかった。亜香里はゆっくりと道を進み、無事に帰路についているようだった。晃は彼女の姿が完全に見えなくなるまで見守り、その後、自分も家に向かうことにした。
その夜、晃はベッドの中で何度もあの出来事を思い返していた。亜香里が「光の道」という謎の宗教法人に出入りしていたことが頭から離れない。塾に行くと言っていた彼女が、なぜあんな場所に…そして、あのぼんやりと赤く光った亜香里の体。
「いったい何が起きているんだ…?」
晃は何度もその疑問が胸をよぎり、眠れない夜を過ごした。
学校の帰り道、晃はついに亜香里に直接聞くことを決意した。昨夜の出来事は、ただの偶然では片付けられないと感じていた。彼女が何を隠しているのか、それを知るためには自分から動かなければならない。
しかし、亜香里を探していたその時、晃の友人である健が声を掛けてきた。
「晃、一緒に帰ろうぜ!」
健は爽やかに微笑んで近づいてきたが、その目はどこか鋭さを含んでいた。晃は一瞬ためらったが、今日は亜香里のことが気になっていた。
「悪い、今日は亜香里に用事があって…」
その言葉を聞いた瞬間、健の顔が一瞬固まった。晃は健が亜香里のことを好きだということを知っていた。だからこそ、健が自分と亜香里が仲が良いことをあまり快く思っていないことも、彼には分かっていた。
健は少し笑みを浮かべながらも、どこかぎこちない様子で答えた。
「そっか…亜香里ね。まあ、仕方ないな…」
その言葉には、どこか冷たさが感じられた。晃は少し気まずい空気を感じながらも、亜香里との話を優先することにした。
「ごめんな、また今度一緒に帰ろう。」
健はその場で軽く手を振って別れを告げたが、その背中にはどこか重たいものを背負っているように見えた。晃は、彼の気持ちを理解しつつも、今は亜香里に集中するしかなかった。
晃はその後、亜香里を探して歩き続けた。昨日の出来事の真相を知るためには、直接彼女に聞くしかない。だが、その答えを得ることが、自分に何をもたらすのかはわからないままだった。