追跡
晃は、亜香里が遠ざかっていく後ろ姿をじっと見つめながら、胸の中に広がる不安を抑えきれなかった。さっき見たぼんやりとした赤い光――それが何か異常なものなのか、それともただの見間違いだったのか。彼女の笑顔に隠された何かがあるように感じ、晃は無意識のうちに足を動かし始めた。
「何か…おかしい。」
晃は自分でもわからない理由で、亜香里の後を追うように歩き出した。彼女に気付かれないように距離を保ちながら、静かに彼女の行動を見守る。亜香里は本当に塾に向かうのだろうか。彼女の笑顔の裏に隠された何かが気になって仕方がなかった。
亜香里は駅に向かって歩いていたが、晃はふと違和感を感じた。彼女は普段、塾に行くために南に向かう電車に乗るはずだ。しかし、彼女が選んだ電車はその反対方向のものだった。
「亜香里…?」
晃はますます不安を覚えながら、気付かれないように慎重に彼女を尾行した。亜香里は電車に乗り込んだが、塾のある方向とは明らかに違う、北へ向かう電車だった。晃は急いでその後を追い、同じ電車に乗り込んだ。車内では距離を置きながら、亜香里の動きを見守っていた。
「どこに行くつもりなんだ…?」
電車は数駅進み、やがて渋谷に到着した。亜香里は静かに電車を降りると、慣れた様子で街を歩き出した。晃は少し離れた場所から、彼女の後ろ姿を追い続けた。
渋谷の喧騒を抜け、彼女が向かったのは人気の少ない路地裏にある古びたビルだった。晃はその建物を見て、さらに困惑した。ビルの入口には「宗教法人 光の道」と書かれた看板が掲げられていた。
「宗教…?」
晃は一瞬、足を止めてその看板をじっと見つめた。『光の道』という名前には聞き覚えがなかった。なぜ亜香里がこんな場所にいるのか、塾に行くと言っていた彼女が、ここに来る理由がまったくわからなかった。
「亜香里、どうしてここに…?」
晃の胸の中には、疑念と不安が渦巻いていた。彼女が入っていったビルの前で立ち尽くし、思考が混乱していく。何か重大な秘密があるのだろうか。彼女のことを信じたい気持ちと、目の前で起こっている現実がかけ離れている感覚に、晃はどうすればいいのかわからなくなっていた。
「これって…一体何なんだ…?」
晃はビルの入り口を見つめたまま、胸の鼓動が速くなっていくのを感じた。自分が踏み込んではいけない何かに近づいているのではないか――そんな直感が頭を支配していたが、亜香里の姿が見えなくなった瞬間、晃はいてもたってもいられなくなった。