混乱
晃が目の前で倒れるエレナを見つめ、青白い炎が消えていく中、罪悪感が胸に押し寄せてきた。自分の力が暴走し、彼女を傷つけてしまったことが信じられなかった。
「ごめん…俺…」
晃は頭を抱えながら、かすれた声で謝罪の言葉を口にした。しかし、倒れていたエレナはゆっくりと頭を抑えながら体を起こした。彼女の顔には痛みが残っていたものの、その目にはまだ強い意志が宿っていた。
「私は大丈夫よ…」
ルナは弱々しく微笑んで、晃を見つめた。「あなたの力…とても強いわ。でも、それが制御できるようになれば、もっと大きな力を発揮できるの。」
晃は彼女の言葉に戸惑いを感じながらも、内心ほっとしていた。彼女が無事だったことが、何よりも安心感をもたらしていた。
「晃…」
エレナは真剣な表情で晃に向き直った。「あなたの力を貸してほしいの。この世界を守るためには、あなたが必要なの。」
その言葉を聞いた晃は、混乱したままの頭でエレナの言葉を受け止めようとしたが、疲労が限界に達していた。強大な力を使い果たした後の体は、徐々に意識が遠のいていくのを感じた。
「ごめん…、もう無理だ…」
晃は体がぐらりと揺れ、視界がぼやけていく。エレナの声が遠くに聞こえる中、彼は意識を失った。
「晃、起きて!早くしないと遅刻するよ!」
優しい声が耳に響き、晃はゆっくりと目を開けた。目の前に広がるのは、いつもと変わらない自分の部屋。姉、奈月の再び声が台所から聞こえてくる。
「もう7時過ぎてるわよ!」
晃は寝ぼけながら体を起こし、周囲を見渡した。ベッド、机、本棚――すべてがいつも通りだった。ふと手を見つめてみるが、昨夜の青白い炎の痕跡はどこにもない。まるで、あの出来事が何もなかったかのように。
「夢…だったのか…?」
晃はまだ頭がぼーっとしたまま、昨夜の出来事を思い返した。あの不気味な赤い空、エレナの存在、そして自分の暴走した力。すべてが現実だったのか、それとも夢だったのか、曖昧でわからなくなっていた。
「晃、早くしないと本当に遅刻するよ!」
奈月の声が再び晃を現実に引き戻す。彼は大きく伸びをし、布団を押しのけて立ち上がった。
「…何だったんだ、あれ…?」
まだ混乱が残る頭を抱えながら、晃は現実に戻りつつも、昨夜の出来事が心の片隅にこびりついて離れなかった。