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出会いと事件-3

 食堂に駆けおりると、お鍋を持った門倉さんがふりかえった。

「おはよー瑠璃ちゃん。グッドタイミ~ン」

 それどころではない。

「外に誰かいます……!」

 門倉さんは鍋を置くと、即座に身をひるがえして出ていった。御者さんは……ここにはいない、厩舎だろうか。

 ちょっと迷ったけれど、状況を知るために門倉さんのあとを追った。外にまで出るつもりはない。

 扉を開けたら、すぐそこに門倉さんと御者さんがいた。灯りはすぐ近くまで来ている。


「はーいそこで止まって。何者かな?」

 門倉さんの声は言葉こそ軽いけれど、緊張がうかがえた。

 灯りが動き、その持ち主の顔をてらした。若い男の人だ。門倉さんと同年代、二十代前半くらい。

「運び屋……運送ギルドのもんだ。ヘインズ……トーマ・ヘインズ。きのう、山に入って道に迷ったんだ。で、夕べここの灯りを見つけて夜通し歩いてきた。オレは一人だし、誓って盗賊のたぐいじゃねぇ」

「へぇ。一人で夜通し山歩き。ギルドの証拠見せて」

 男の人……ヘインズさんは、ポケットから取り出したものを門倉さんに投げた。あぁ、ギルドの身分証だ。

 門倉さんは灯りをよせて身分証をためつすがめつした。終えると御者さんに渡し、彼も確認する。

「偽物とは思えませんね」

「まぁ一応、本物っぽいね。商売道具は? 身ひとつの運び屋ってわけ?」

「あ、あぁそうだ」


 ひと口に運送業といっても、規模も運びかたもさまざまだ。飛空艇や馬車を所有して大量に運び、近距離から長距離まで対応するところから、自分の背におえる分だけだが、僻地にまで対応するようなのまである。

 ヘインズさんは後者だということだけど……それにしては、ちょっと細身のような。僻地にまで運ぶという人に会ったことあるけれど、だいたいが体格がよくてがっしりしていた。彼の体格では街中専門という感じがする。こんな山の中に運んだりはしなさそうだ。

 いやそもそも、このあたりに集落はなかったはず。どうして山に入ったのかな。気になるところだけど、守秘義務があるだろうから答えてもらえなさそう。

 似たようなことを考えたのが、門倉さんの表情はけわしいままだ。


「で、ここに来た目的は?」

「町まで乗せてほしい」

「町ってどこ」

「マルテル方面だとありがたいけど、逆方面でもいい。とにかく町へ出たいんだ」

 こういう場合、権限は御者にある。彼は腕を組んで、門倉さんを見あげ、ついでのぞいているわたしをふりかえった。

「ギルドの規則では、彼を乗せるのには他のお客さまの了承が必要です。いかがですか?」

「到着まで荷物全部取り上げて拘束。この条件なら俺はいいよ。俺が見張りをしておくから。瑠璃ちゃんはどう?」

「えっと……」

 わたしは扉から外へ出て、ヘインズさんをじっと観察した。

 暗いのでわかりにくいけど、服装はずいぶんぼろぼろだ。荷物は背負い鞄と、腰に下がった短剣だけ。ずいぶん軽装なのね。荷はどうしたんだろう、運んだあとに迷ったのかな。山に入った理由がやっぱり気にかかる。

 少し悩んだ。


「……わたしもかまいません。荷物云々は門倉さんたちの判断におまかせします」

 ふむ、というように御者さんはうなずき、

「一区間分の運賃を支払っていただき、荷物をすべて荷台へ置くこと。この条件に従ってくださるなら、マルテルまでの乗車を認めます」

「……わかった。助かった、ありがとう」

 ヘインズさんは本当に安堵したようで、大きく息をはいた。そんな彼に、門倉さんがくぎを刺す。

「なにかしたら、どんな状況でも外に蹴飛ばすからね」

 ともあれ話はまとまった。よかった。


「では食事にしましょう」

 御者さんが宣言すると、「ぐぐー」と大きな音がした。まだ静かな朝だから、よく聞こえた。

 ……わたしじゃない。

 発生源はヘインズさんだった。顔を真っ赤にして視線をあらぬ方向にむけている。

「あの、どうぞ。これからお茶煎れますし」

「……まぁスープは人数ギリギリだけどねー」

「わたしは少なくて大丈夫ですよ、門倉さん。そんなにおなかすいてないですから」

 門倉さんはじとーっとわたしを眺め、

「瑠璃ちゃんは人がよすぎー」

 と言って、室内に入ってきた。続いて御者さん、ヘインズさんが入ってくる。


 ヘインズさんは、明るい室内で見るといっそうぼろぼろなのがわかった。服はあちこちすり切れていて、顔や両腕をケガしている。全部ていどは軽そうだけど、ほうっておくのはよくないだろう。

 確かきのう室内を点検したときに、救急箱があったはずだ。わたしはお茶を煎れるかたわら、棚からそれを取り出した。

「手当、したほうがいいと思いますよ」

「――っ! あ、ああ……」

 近づいてテーブルに箱を置いたら、ずいぶんびっくりされた。気のせいか、顔もこわばっている。なんでかな?

「お手伝いしましょうか。顔のケガは見えないからやりにくいですよね」

「い、いや……」

「瑠璃ちゃんそれは俺がやるから。こっちお願いしていーい?」

 とたんに飛んできた門倉さんの声。そうね、慣れている人が手伝ったほうがいいか。

「わかりました」

 門倉さんと交代し、台所に立った。鍋をのぞくと、スープは温まっていた。マカロニはいつ茹でたのか、別のザルにあげてある。わたし寝坊してた……?

 御者さんが食器を出してくれたので、てきぱきとよそう。自分の分を少なめにしようとしたら門倉さんに「ダメー」と叱られたので、きっちり等分にした。正直に言えば、助かる……



 言葉少なに朝食をすませ、ヘインズさんも加えて施設内を片づける。出発は意外と予定どおりだった。

 ヘインズさんは両手首をしばられての乗車になった。車内での見張りは門倉さん、休憩時は御者さんも加わる。お手洗い以外では食事時もそのまま。

 すごく気まずいので、わたしはなるべく彼に視線をむけないようにしておいた。


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