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訪問客-3

 期末試験もぶじ終わり、きょうから終業式まで半日授業になる。午後がまるまるあくので、図書館にかようことにした。エイテスのことを調べるためだ。

 彼らについて知っているのはほんのわずかだ。少しでも情報を増やしておけば、出会いにつながる――いや直接そうはならなくても、きっかけに気づけるかもしれない。

 ……正直に言えば、自分たち人間以外の種族についてすら、教科書に書いてあること以上のことは知らない。ついでにその穴も少しは埋めたいと思っている。


 書架のあいだをうろついて、種族について書かれている本を探す。人間についてはやっぱり多い。それと真穂呂国には有角人のニ族も多く住んでいるから、彼らに関するものも次いで多い。あとはエルフ、ドワーフ、巨人、多種多様な獣人、小人と続く。そして肝心のエイテスは、といえば、百科事典と人種についての図鑑しかなかった。

 どうしてだろう?

 けっきょく教科書以上のことは知ることができなかった。どこに住んでいるのかさえわからないままで、まして彼らのみの職種らしい『クィシア』なんてチラともでてこない。

 探しかたが悪かったのかもと思って司書にも訊いてみたけれどやっぱり同じだった。そもそもエイテスに関する本がない。


 じゃあエイテスは文字を持たないのかというと、それも違う。だってエイテスは芸術方面に才能があるヒト達。歌や詩はもちろん、小説も多く発表している。ちなみに発表の場はティマ・サガナかどこかのラピュタだ。

 ティマ・サガナ国の世界中の知識が集まる『賢者の塔』に行けば、なにかしらありそうだけど……あそこまでもけっこう長旅になるから、そう気軽な話ではない。

 うーん……なにかほかに、手がかりになるものはないかなぁ……


 漠然と本の背表紙を眺めながら、書架を移動する。

「……あ」

 芸術関連の棚に来て、気がついた。歌や音楽が発表されるなら、使われている楽器についての記述くらい見つかるんじゃないか? そこに笛はないだろうか?

 それと空中浮遊で育つ木。漠然としているけれど、前の旅ではスケッチと特徴のト書きしかないなかで図鑑とにらめっこだったから、それよりずっとマシ。少なくとも木だってわかってるんだもの。この木に関してはお茶からも調べてみよう。珍しいお茶だと中浦さんは言っていたから、物好きが本に書いているかもしれない。


 まるで情報を見つけられないからついうろたえてしまったけれど、いつ探しに行けるかわからないのだ。あせる必要もない。

 でもこういう機会がないと手に取らない本も多くて、けっこう楽しい。とりあえず、調べるだけ調べてみよう。



 毎日図書館に行くわけでもない。きょうは級友たちとおしるこを食べに行くのである。

 その途中、門倉さんに遭遇した。

「あれ、やっほー瑠璃ちゃーん」

 道の反対側にいたのに、手をふりながらこちらへやってきた。仕事帰りなのか全体的に少しくたびれている。

 門倉さんは以前の旅で護衛を務めてくれた傭兵だ。護衛だけじゃなくて、旅のあいだはいろいろな面で助けてもらった。


「こんにちは、門倉さん。おひさしぶりです」

「ひさしぶりだねー。元気だった?」

「はい。つつがなく。門倉さんもお元気そうですね」

「もっちろーん」

 このどこまでも軽い口調に、へらっとした笑み。変わりはないようだ。


 言葉どおりでなにより、と思っていたら、友達に腕をつかまれた。目がきらきらしている。門倉さんに興味津々のようだ。しゃべらなければ顔かたちのととのった人だから……しゃべらなければ。

「橘さん、そちらどなた? ご友人かしら?」

「あ、門倉さんと言って……以前お世話になったかた」

「てぇ、瑠璃ちゃんかたいよかたすぎるよ表現が! 一年近く一緒にいたのにさー、せめて友達ってくらい言ってよぅ」

「すいません」

 友達……という関係性なのだろうか? 知り合いよりは上だと思うけれど。


「みんなでおでかけー? きょうって平日だよね?」

「学期末なのでもう半日授業なんです。なのできょうはお茶をしようと」

「ああー。そうかそんな時期かぁ」

 もうけっこう昔の話だー、などと言う。そしてポンと手をうち、

「そしたら冬休みだね。瑠璃ちゃん、またどっか行くの」

「いえ、そんな予定はありませんけれど。年末ですよ」

「あそっか。なんにせよ、どっか行くんで護衛必要だったら絶対声かけてよ。ね!」

「はい。機会があえば、お願いします」

 また門倉さんは「かたい!」と叫び、じゃあね~と去っていった。軽い。


 そのあとのおしるこ屋さんで、みんなに質問ぜめにあった。なにやらロマンスを期待していたようだったけど、わたしと門倉さんにそのような関係はいっさいない。彼女たちは「そんなことはない!」と言いはり、わたしはおしるこを食べながら首をかしげていたのだった。



 そんなある日、良くない報せがとびこんだ。青い顔のお父さんが言う。

「瑠璃、中浦さんが……倒れたそうだよ……!」

「――えっ」

「さっき、連絡をいただいてね……施療院に入るほどではないそうなんだけど……」

「そ、そう……」

 入院しないと言われても、あんまり安堵はできない。中浦さん、お年だからなぁ……だからわたしに笛を託されたんだし。

「お見舞いは……行ってもだいじょうぶかな?」

「うーん、そのあたりはどうだろうね。あしたお父さんが聞いておくよ」

 中浦さんには訊きたいことがあるのだ。お茶のこととか、どこを探したのかとか、中浦さんが会ったエイテスはどんな人だったのか、とか。

 そしてこのとき、予感がした。

 わたしはもうすぐ、旅に出ると。たぶん、そう遠くない頃に。


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