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出会いと事件-7

 エイテスだ。ああどうしよう、こんなところで、こんなときに会えるなんて!

 急にそわそわしだしたわたしを不思議そうに一瞬見てから、マイクさんは言った。

「盗賊については、つい先ほどから自警団と協力して討伐のために動き出したところです。なにか被害に遭われましたか」

 エイテスの男性は困ったように顔をしかめた。

「えーと被害っていうか。じつは仲間を捜してて……エイテスの娘を見かけた話とか、はいっていないですか」


 とたん、事務所の空気が緊張した。

「いえ……そういう情報ははいっていないですね」

「そうですか……」がくりと肩を落とし、彼は「あ~もうあいつ、どこ行ったんだよ……」とうめいた。

 どれほど捜したのだろう、心配と疲れが重くのしかかっているようだ。

「あの……マイクさん、座ってもらったほうが……」

「あぁ、そうですね。どうぞ椅子に。詳しい話を伺います」

 男性は一度遠慮したが、再度すすめられてスツールに座った。それから、ちょっと疲れた表情で話しだした。


「僕はツェルト・カ・メイロといいます。えーと……仲間がいなくなってきょうで四日目になります。もうぜんぜんアテがなくって、きのうこっちで盗賊騒ぎがあるってうわさを聞いたから、もしかしてって思って」

「年ごろは? 見た目の特徴なども、できましたら」

「十歳になる妹です。僕と同じ金色のくせっ毛で、紺色の翼を持ってる」

 そう言うツェルトさんの翼は焦げ茶色に白い線が入っている。


「きょうだいでも翼は違うのかしら……?」

「あ、うん。両親ともきょうだいとも違うなんてのが普通だよ」

 思わずのつぶやきに、彼はふりかえって答えてくれた。

「それじゃあ逆に、そっくりな色味なのに他人、ということもあるんですか」

「ある。だから会うと自分でもちょっとびっくりするよ」

 他人の空似は種族が違っても同じように感じるものなのね。


「う~ん……そういう人に会っちゃったのかなぁ、あいつ……」

 ツェルトさんは腕組みしてうなった。

「どういうことですか?」

 メモをとっていたマイクさんが顔をあげる。

「妹は好奇心が強くて……普段からフラフラ勝手に出かけちゃうんです。気になるものを見つけるとすっ飛んでってしまうたちで。いつもならそれでもちゃんと帰ってくるんだけど、今回は……なんで帰ってこないのか……」

 ツェルトさんは重いため息をついた。


 それは心配だろうな。

 と、いうか。突然のエイテスの姿に驚いて、足をとめて話を聞いてしまっている。ダメだろうとは思うものの、先ごろ知ったばかりの内容をはらむだけに気になってしまう。

 エイテスの少女はなぜ帰ってこないのだろうか。誘拐されたのだろうか。


「なるほど、そうですか……」

 マイクさんは難しい顔でうなずき、

「調査が始まったばかりで、現在のところ構成人数や拠点などまったくわかっていません。現在判明していることは、盗賊による被害……物品の強奪とその際の傷害および器物損壊です。やつらの犯罪の全貌は調査中になります」

 ですが、最悪を想定しなければなりません――彼の口調は重たい。

 最悪……それはつまり、誘拐からの人身売買。ぞっとする。

「ご心配はお察しします。調査報告がはいってくるまで、しばらくお待ちいただけませんか」

「……そっかぁ……わかりました……」

 がっくりと力なく、ツェルトさんはうなずいた。


 閉鎖的なエイテスが、もうアテがなくて同盟支部を訪ねたと言っていた。心当たりを捜しつくした末のことだ思うと、わたしも心が痛む。

 同じようにマイクさんも思ったのか、奥の仮眠室を使うようにうながした。うん、少しでも休んだほうがいいと思う。

「マイクさん、お使い行ってきますね」

 ツェルトさんを案内する彼に声をかけて、わたしたちは事務所を出た。



 マイクさんの書いてくれた地図はわかりやすくて、目当ての屋台はすぐに見つけられた。同盟支部のお使いだと告げると、注文も簡単だった。

 これに、門倉さんが驚いた。

「意外。自警団にエンリョして同盟とはつきあい悪いのかと思ってたけど」

「いやー基本はそうだけどさァ、自警団には頼みづらいってもんもありますからね。それにマイクはマルセルのもんだし、やっぱりつきあいはありますよ」

「なるほど~」

 そして、今朝ブロンディさんが同盟支部を訪れて共同戦線をはるようになったことは、もう町中でけっこうなうわさになっていた。それだけ大きなことだったのね。


「で……あとは追加の分ね? 瑠璃ちゃん」

「はい。むこうの屋台を見てみましょう」

 二人で価格と味を吟味し、二軒の屋台にしぼった。どちらもおいしいので甲乙つけがたい。

「じゃ両方でもいいんじゃない? 量をへらしてさ」

「普段は入らない量の注文でしょうし……そうですね」

 ただどちらも出前のできる従業員がいなかった。しまった、それを確認しなかった……

 うーん、まぁでも、わたしと門倉さんで運べる量よね。門倉さんも同意してくれたので、準備ができたほうから受け取って運ぶことにした。

 一回目を運んだらマイクさんに驚かれてしまったが、どうせやることもないのでと、押しきった。


 昼時が近づいてきたからか、屋台のある通りや大通りの人出がふえてきた。

「あ~……これは運びにくいな……人もふえてきたし。瑠璃ちゃん、もっかい往復しようか」

「うっかりぶつかりそうですしね、そうしましょう」

 初めて町だから人ごみをぬけにくい。手に食べ物という荷物を持っていればなおさらだ。慎重なくらいでいいだろう。


「うっわ、手に油ついちゃったよ……」

 容器からこぼれたらしい油が、門倉さんの手を汚していた。わたしの前を歩いてくれていたから、衝撃があったみたい。申しわけない。

「ごめん、ちょっと洗ってくる!」

 すんごいベタベタ気持ち悪いっ! と叫び、門倉さんは事務所の給湯室に走っていった。

「先に戻ってますね!」

 町中の昼日中、なにかが起こるとは思えない。行き先はわかっているし、大丈夫でしょう。

 事務所から足取りも軽く屋台へむかう。


 突然横から腕を引っぱられた。

 えっと驚く間もなく路地に体を引きこまれ、ドン、と衝撃が落ちてきた。なにが自分の身に起きたのかわからないまま、わたしは意識を失った。


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