2023年10月10日ー2023年10月17日 最終日 植物
小さいころはこんなことになるとは思ってなかった。
庭に落ちていた小さな種を、近くの公園に植えた。毎日毎日水を上げて、こっそりと育てていた。だんだん時がたって、確か五年もしたころにやっと芽が出始めた。
今まで植物を育てたことがなかったからわからなかったけど、かなり成長が遅いことに気づかなかった。だとしても、葉っぱの色が変なことには気づいておくべきだった。銀杏の木や、楠、朝顔。これらのようなきれいな緑色、ではなかった。
真っ赤な色。理科の実験で使うような炎の色だった。色紙の赤色よりも、ボールペンの赤色よりも赤かった。でも僕は、それに気にかけなかった。というよりかは、気づくことができなかったんだと思う。
高校生になるころ、公園に行かなくなった。というのも、高校への登校経路が中学生のころと変わったからだ。自転車を使って二十分くらい。それに加えて部活など、いろいろなことが重なって、植物の近くへは行かなくなっていった。
でも、今だから思うことがある。もしかしたら、あの植物に、僕は操られていたのではないか。この後の成長を見られないためにも、あえて僕を遠ざけたのではないかとさえ考える。
小さいころはこんなことになるとは思っていなかった。
赤い葉を身にまとうそれは、今も多くの人を操っている。人だった、赤く、べとべとした液体で前が見えなくなっている何かは、目に映る人々を襲いに向かっている。
それに捕まった人は、腹をかみちぎられて、その場に倒れこむ。人だった何かは倒れた苗床に種子をばらまく。一分もしないうちに、赤い何かの子供が生まれる。
倒れていた人が起き上がり、歩き始める。次第に足がもつれ始め、また転倒する。そしてまた起き上がるころには、べとべととした赤い液体が顔のいたるところからあふれ出す。
ぽたりぽたり、と顔から垂れる赤い液体。それが触れた地面から、太陽に向けて開く真っ赤な葉を身に着けた植物が生えだしている。
小さいころはこんなことになるとは思ってなかった。僕のせいで、多くの人が死ぬなんて。