第9話〜執事適性試験〜
ティアナさんから受け取った紙を開き、中を確認する。
そこにはテストとして実施するべき家事の内容が書かれていた。
・掃除
・洗濯
・料理
色々と書いてあるが、ざっくりとこれらの家事をこなしていけばいいらしい。
なんだが余裕そうに見えるが時間も限られている。
「まぁこれくらいなら何とかなるかー」
内容的にはそこまでハードでもなさそうだ。
俺は頭の中で作業の順番を整える。
「料理は最後に回すとして、まずは掃除からか」
幸いこの辺りの作業はノウハウもある、サクッと終わらせていこう。
俺は早速テストに取り掛かった。
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「ティアナさん終わりましたよ」
テスト項目が全て完了した事をティアナさんに報告しに行くと、彼女は酷く驚いたような表情を浮かべた。
「制限時間はまだ1時間以上残っていますが…本当に全て終わったのですか?」
「一応ね。でもサボったとかじゃないから安心して下さいよ」
「ふむ…分かりました。では確認します」
そういってティアナさんは俺の仕事の成果を見てくれた。
「ふむ…洗濯はきっちりできていますね、シワもしっかり伸ばされています。掃除…もかなり綺麗ですわ…」
ティアナさんは色々言っていたが、悪い評価ではなさそうだ。
「ここまでは合格…というか想像以上ですわ。以前もこういった仕事をしていたんですか?明らかに専門知識を持ってらっしゃいますよね」
想像以上に素直に褒められたことに驚きつつも、疑いの目を向けられていることに気づく。
さすがは本物のメイドさん。俺が掃除や選択に関して一定のスキルを持っていることに一瞬で気がつくとは。
実は以前、金払いが良いことを理由にゴミ屋敷清掃のアルバイトをやっていた時期がある。
諸々の清掃スキルはそこで培ったものなのだ。
だが、さすがにティアナさんにその事実を伝えるわけにもいかないので、適当に誤魔化すことにする。
「いやぁ、家の手伝いをしていたら自然とね…」
「…まぁ、いいですけど」
さすがは慎み深さで知られるメイドさんである。
明らかに疑っているようだが、とりあえず深く追求はしないでくれた。
「さ、最後は料理ですよね。ちょっと温めたりしてくるので、席でお待ちを!」
微妙な空気から逃げるように準備に向かう。
キッチンで準備をしているとどこからか、有栖が現れた。
「いい匂いがすると思ったら、あんたが料理作ってたんだ」
キッチンに他に人がいなかったためか、普通モードで話しかけてくる。
「有栖か、今ティアナさんの適性テストってのを受けてるところだよ」
「あぁ執事の。なるほどそれで料理ってわけね」
「そういうこと」
「でもめっちゃ美味しそうに出来てる…あんた料理得意なの?」
「得意ってほどでもないけどな、昔料理屋でバイトしてたんだよ」
「え、なんか意外。料理好きだったの?」
目を丸くして聞いてくる有栖。
「いや全然。賄い出るから食費浮くだろ?」
「うわ、相変わらず酷い理由…」
「仕方ないだろ、無駄な出費抑えたかったんだから」
課金のために。な。
そうこうしているうちに料理が温め終わり、あとは盛り付けるだけとなった。
「ついでだからお前も食うか?」
「え?いいの!?」
「あぁ、ただしテストのフォロー頼むな」
「あー、はいはい。じゃあ適当に褒めてあげるわよ」
なんだかんだ料理にありつきたかったのか、有栖は素直にこちらの要求を飲んできた。
こいつ意外と食い意地が張ってるタイプなのか?
何はともあれ有栖の援護を受けられるのは大きい。
俺はティアナさんと有栖2人分の食事をテーブルに運んだ。
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「準備が整ったようですね」
「ええ、一応ね。」
「では頂きます」
「私も頂きます」
神妙な面持ちで食事を口に運ぶティアナさんと、明らかにテンションが上がりながらも、おしとやかな聖女モードを保っている有栖。
今回作ったのはパスタとサラダ、それに簡単な肉料理である。
どれも基本的に前の世界にあったものと同じような食材だったために、イメージ通りの味にはなったため有栖は食べられるだろうが、ティアナさんはどうだろう、果たして口に合うだろうか。
「なにこれ!とっても美味しいです!!」
有栖が半分素に戻りながら感想をくれた。
やはり有栖の口にあったようだ。
これなら彼女から過剰なフォローはいらないだろう。
さて、ティアナさんは…
「確かに…美味しいです」
心配は杞憂だったようで、ティアナさんも気に入ってくれたようだった。
その証拠に出した料理を完食しただけでなく、ちゃっかりおかわりまで求められたのだから。
こうして何とか無事にティアナさんの適性テストを全て終え、あとは彼女さんからの結果発表を待つだけとなった。