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第83話〜交渉決裂〜


「紹介しよう。こちらがルプスの里の長、レイシェル様だ」


守衛の紹介された和装のエルフは、こちらに向けて深々とお辞儀をしてみせる。


「はじめまして旅のお方、そろそろいらっしゃる頃だと思っておりましたわ」


そう言って余裕たっぷりに挨拶する里長のエルフ。


「は、はじめまして!ヴェレストリア王国から参りました、フィオ・リストレールと申します。そしてこちらが…えっと、リュートってどう紹介すればいいんでしょうか?」


「え、執事だけど?」


「さすがにそれは無理があるんじゃ…今は仕えていたアリスもいないわけですし…」


「あぁ、そういえばそうか…」


有栖の専属執事になったのはいいが、彼女がヴェレストリアを離れた今、俺に役職があるのかは微妙なところである。


「じゃあただの一般市民でいいや。ってことで俺の紹介は割愛してくれ」


「あはは…すみません」


申し訳なさそうにレイシェルと呼ばれたエルフに頭を下げるフィオ。


「ふふ、構いませんよ。色々訳アリのようですし」


まるで俺達の事を見透かしたように、にっこりと微笑んでみせるレイシェル。


「では、改めてお二人がルプスにいらした要件をお聞かせ頂けますか?」


アイスブレイクのような前置きをせず、いきなり核心をついた話を切り出すレイシェル。


「あ、そうでした。えっと、もう守衛さんから話を聞いているかもしれませんが…私達はエルフと協力関係を結ぶために参りました」


「そうですか、私達と協力関係を…」


「はい。共に魔王と戦う同志として、どうかお力をお借りしたいのです…!」


嘘偽りなく、真っ直ぐにそう話すフィオ。


「なるほど、それは大変魅力的なご提案ですね」


「本当ですか…!それなら…!!」


「ですが、遠慮させて頂きます」


無慈悲にもレイシェルから発せられた拒否の言葉。

その言葉を受けて、フィオの顔がわかりやすく曇る。


無理もない。

俺もほんの一瞬、もしかしたらこのまま同盟締結となるのではないかと期待していた。


もちろんそんな単純な話ではないことは理解しているが、それでも少しだけ望みがあるんじゃないかと思ってしまった。


しかしそれは目の前のエルフの長によって簡単に打ち破られてしまった。


「理由を…聞いてもいいでしょうか?」


フィオがレイシェルに食い下がる。


「簡単ですよ、あなた達と組むメリットがないからです」


「メリット…?」


「はい。あなた達と組むことでルプスが何かを得られるとは思えません」


なるほど、どうやら俺は心の何処かで彼女を舐めていたのかもしれない。


まさに今、魔王軍の脅威に脅かされている最中だというのに、この里は国防ではなく国益を選ぶというのだ。


これは真っ当な人間が至る思考ではない。


「もし魔王軍にこの里が攻め落とされたら、メリットも何もないと思うが?」


俺がそう尋ねると、レイシェルは妖艶な笑みを浮かべながら答える。


「魔王軍に攻め落とされる…ふふっ面白い冗談を仰るのですね」


「冗談だと?」


「ええ、もしくは妄想かしら?そんなことは絶対あり得ませんわ。」


「あり得ないってことは無いだろう。現に今だって数多くの魔物が雪山に出現してる、あれはここを襲うための準備なんじゃないか?」


「確かに、魔物が増えてきたのは事実ですね」


「だろ?あれが一斉に襲ってきたらこの里だって…」


「ではなぜ魔物は攻めてこないのですか?」


ピシャリとそう言い放つレイシェル。

確かに付近まで来た魔物たちが攻めてこないのは、少し疑問ではあった。

仲間が集まるのを待っている、という線もあるかもしれないが、それなら里の人間が逃げ出さないよう、里の近くで待っていればいい。


にも関わらずここから離れた微妙な場所に魔物が集中している理由は…


「…手を出したくても出せない理由があるってことか?」


「ふふ、それはどうでしょうか」


レイシェルはそう言ってはぐらかしたが、何かカラクリがあることは疑いようがなかった。


「なるほど…なら確かに戦力的な手助けになるという話じゃメリットの提示にはならないよな」


「ええ、理解が早くて助かります」


「なら他のものならどうだ?例えば金銭や技術とか…」


「それも必要ありません、資金繰りは厳しくないですし、エルフの技術力が他の種族に劣る事などまずありえませんから」


エルフ側のメリットになりそうな案をいくつか挙げようとしてみたものの、それすらもレイシェルによって即座に否定されてしまう。


挿絵(By みてみん)


これはもう、エルフ側に交渉の意思がないことは明白だった。


「さて、お約束通り公平に話を聞きましたよ。用事が済んんだのならお帰り下さい」


レイシェルがそう言いながら守衛に目配せすると、守衛は俺達を応接間から出るように促し、そのままピシャリと扉を閉めてしまった。



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