第7話〜ジョブ名、執事?〜
「ふむ、アリスよ。つまりこのユートという男を王宮で雇いたいということで良いか?」
王宮についてすぐ、有栖は王様への謁見を求めた。
そんなすぐに会えないだろうと思っていたが、そこは流石は聖女というべきか、すぐに謁見の許可が降りてしまった。
そして今俺達は王様の前におり、有栖が俺をこの王宮で雇いたいという話をしている、というわけだ。
「はい、仰る通りです。エドワード王」
有栖がエドワード王と呼ぶ男がこの国の王、名をエドワード・レイズ・ヴェレストリアと呼ぶらしい。
一国の王、というだけあって明らかに他の人間とは違うオーラをまとっている。
「なるほどな…ユートよ、少し尋ねても良いか?」
「え?あぁ、はい。」
俺の気の抜けた返事に一瞬有栖が睨んでくるが、エドワード王は特に気にしていないようだ。
「アリスから聞いていると思うが、この国は魔王軍に目を付けられている。とても安全な国とは言い難いが、それでもこの国で職を得たいと思うか?」
「えぇ、どうせ無職の根無し草ですし」
「ほう…ではもし魔物が攻めてきたらどうする?」
「そん時はそん時ですけど…まぁどうにか生き残る方法を模索しますかね」
「ほう…国のために死ぬ気はないと?」
「まぁ…さすがに自分の命のが大事ですよ」
俺の返答に一瞬空気が変わったのを感じた。
後ろで控えていた兵士たちがざわつき始め、横の有栖も呆れた顔で見ている。
何だ?なんか変なこと言ったか?
エドワード王もしばらく沈黙を保っていたが、やがて…
堪えきれなくなったように笑い出した。
「はははっ!!これから臣下になろうというものが、国王を前にして国を捨てると言い放つとは面白いな!」
「はぁ、どうも…?」
「気に入ったぞユート。民こそが国を作るというのが俺の考えでな。自分の命を大切に思うお前の考えは、まさにこの国にとって理想的な思考と言えるだろう」
「そりゃ良かったです」
「よし、いいだろう。お前がここで働くことを許可しよう」
「マジですか、ありがとうございます!」
「ただし1つだけ、俺と約束をして欲しい」
エドワード王の顔が急に真剣なものに変わる。ここまで来て何か無理難題でも要求してくるつもりだろうか…
「この国が危険に晒されたときは、真っ先に逃げても構わん。ただその時は俺の娘、ミナを一緒に連れて逃げてほしいのだ」
国王の娘。つまり王女のことか。
まぁ逃げる上で多少重荷になるかもしれないが、それくらいなら別に構わない。
ただ何でコイツは初対面の俺なんかにその役を任せようとしているんだ?
「なぜ自分に頼んでいるのか分からない。そんな顔をしているな」
俺の考えを読み取ったのか、話を続けるエドワード王。
「えぇ…だって初対面のどこの馬の骨かも分からない男に、自分の娘の命を預けるだなんて、普通そんなリスキーな話ないでしょ?」
「はははっ違いない。だが安心してくれ、俺は人を見る目には自身があるんだ。お前は絶対に娘を無事に守り抜いてくれるはずだ」
「は、はぁ…?」
何いってんだこいつ?
という感想しかないが、まぁ国王に気に入られたのなら良しとしよう。
「それでこの約束、守れそうかね?」
「えぇ、何かあったら王女様を連れて逃げればいいんですね、分かりましたよ」
「よろしい。では今日からお前をこのヴェレストリア家の執事に任命しよう」
「し、執事…?」
「そうだ、王家の執事は大変だぞ?早速明日から働いてもらうので心しておくようにな」
「は、はぁ…」
「では話は以上だ。アリス、良い人材を紹介してくれてありがとう。そしてすまないが、しばらく彼の面倒を見てやってくれると助かる」
「かしこまりました、エドワード王」
「では、また会おう。2人とも今日はゆっくりと休んでくれ」
そう言ってエドワード王は部屋を出ていった。
どうなることかと思ったが、ひとまず無事に仕事を得ることができた。しかし…
異世界転生までして得た俺の役職。
それは勇者でも冒険者でもなく、、
執事という何ともパッとしないものになってしまった。