第65話〜序列第5位と決死の共闘〜
魔王軍部隊長、序列第5位の魔物タウロス。
目の前にいるその魔物は名前の通り、牛に関連する生物のようだ。
だがその身体は血のように赤く、その手には俺達の背丈の軽く倍はあるだろうという巨大な斧を持っている。
当然それほど巨大な斧を持つだけのことはあり、その身体はそれ以上に大きい。
さながら神話に出てくるミノタウロスのようだった。
「さて、それじゃ見物させてもらおう。君たちが見事タウロスを打ち倒すことができるのか、はたまたタウロスに無惨に殺されるか、ね」
どこから取り出したのか、玉座に肘をつきながらそう言い放つ魔王。
そしてその傍らに控えているスピカ。
なるほど、どうやら本当にあの2人は手を出してくる気がないらしい。
舐められているということなのだろうが、正直ありがたい話である。
もしも3人がかりで来られたなら、俺たちはひとたまりもないだろうからな。
『行くぞ…』
そんな思考を巡らせているとタウロスがゆっくりと斧を構え、戦闘態勢をとっていた。
いくら魔王が手出ししないと言っても、
この部隊長を倒さない限り、俺達に未来は無いという事実は変わらない。
俺は覚悟を決めてタウロスに向き合うと、同じように有栖も臨戦態勢をとっていた。
「遊斗、援護を!」
「了解」
有栖の掛け声でこちらもそれぞれの武器、拳銃とダインスレイヴを呼び出す。
手始めに俺が拳銃で牽制攻撃を仕掛けるとタウロスはそれを鬱陶しそうに斧で弾く。
その動作に合わせて有栖がタウロスの背後に周り、ダインスレイヴで斬りかかる。
だが…
『遅いな』
タウロスは後ろを振り返りもせずに、有栖の一閃を完璧に躱してみせた。
「くっ!」
有栖も負けじと連撃を仕掛けるのだが、その全てが虚しくも空を切った。
「ワールドアクセス!」
剣が駄目なら銃で撃ち抜くのみ。俺は2丁の機関銃を呼び出してタウロスに叩き込む。
この物量、かつ有栖の連撃直後だったこともあり、避けきることができなかったタウロスは鉛玉の雨に晒される。
だが…
「まじかよ…」
甘く見積もっても数百発は命中したはずだが、タウロスの身体には傷一つついていない様子だった。
『どうした、こんなものか?』
「化物がっ…」
『次はこちらの番だな』
そう言ってタウロスが斧を構えると、一瞬のうちに姿を消してしまう。
「なっ!」
その速度に俺は全く反応する事が出来ず、気がついた時にはタウロスが俺の目前で斧を振りかぶっていた。
(やべっ…)
凄まじいスピードで振り下ろされる斧。
思わず死を覚悟するが直前で有栖が割り込み、その斧をダインスレイヴで受け止める。
「くっ!!!」
いくら魔力で強化されているとはいえ、有栖の華奢な身体で受け止めるには、タウロスの巨体から放たれる一撃はあまりにも重すぎる。
剣を握る彼女の手からは血がにじみ、痛みで顔を歪ませている。
「くっ、あぁぁぁっっっ!!!」
その痛みに耐えながら、有栖はなんとかダインスレイヴを振り抜き、巨大な斧を弾き返した。
『ほう…やるな』
自分の一撃を防ぎきって見せた有栖を見て、タウロスは満足そうな笑みを浮かべる。
「悪い有栖…全く反応できなかった…!」
「い、いえ…大丈夫です…でも、何度もは受けられないですね…」
圧倒的なパワーとスピード、そして攻撃を通さない強靭な身体。
これが魔王軍部隊長、第5位の実力。
正直まともにやり合って勝ち目がある相手じゃないな。
特に厄介なのはあのスピードだ。俺の反射神経や動体視力ではアイツをまともに捉えることすらできない。
だったら…
「ワールド…アクセス!!」
俺はスキルで銃火器などの大量の武器を呼び出す。
召喚された武器はそのまま俺の周囲の地面につき刺さる。
やつのスピードに追いつくためには一々武器を呼び出していては間に合わない。
ならば最初から武器を呼び出しておくことで、少しでも早く反応できるようにするしかない。
そして…
「ワールドアクセス!」
再度スキルを発動し、今度は大量のドローンや犬型ロボットなどを召喚した。
「遊斗…これは?」
「正直俺じゃアイツにまともに反応できないからな、その辺は機械に任せることにした」
『それは、つまりお前の代わりにこのガラクタ共が俺の相手をするということか?舐められたものだな』
先程有栖に見せた表情とは打って変わって、タウロスは本当につまらない物を見るような目で俺を見る。
「なんとでも言え。どんな手使ってでも勝てばいいんだよ、勝てば」
「それ…むしろ魔物側が言うセリフな気がしますけど…」
俺の言葉に少し飽きれたような顔をする有栖。
『俺を前にしてその余裕か…さすがは人類最強と呼ばれる聖女様、か。いいだろうならばお前たちの力、俺に見せてみろ』
そう言うとタウロスは再び臨戦態勢に入る。
「行くぜ…有栖!」
「はい!!」
それに応えるように俺達も再び武器を構えるのだった。