第6話〜いざ、ヴェレストリア王国へ〜
有栖の提案を受け入れた俺はそのまま乗っていた馬車で有栖が住む国、ヴェレストリア王国に向かうことになった。
「ヴェレストリア王国ねぇ…王国ってことはやっぱ王様とか王子ってのもいるのか?」
「まぁ王国だからね。正しくは王様と王女様だけど」
「王様に王女か。ほんとファンタジーの世界だな」
「よくは知らないけど、異世界転生ってそういうものなんでしょ?」
「それはまあ、確かに。」
魔法や魔物、王国に聖女。
怒涛の展開が続いて考える余裕もなかったが、この世界は概ね俺が想像していた異世界転生の舞台と相違ないようだ。
「ちなみに、今向かってるのがその王様と王女様が住んでいる宮殿よ。これから謁見することになると思うから失礼のないようにね」
「はぁ?なんでいきなりそうなるんだよ?」
「仕事を斡旋するって言ったでしょ?そうなると宮中の仕事の方が都合がいいのよ」
「そりゃまたなんで…?」
「この国の聖女って宮殿に住む決まりになってて、私滅多に外に出れないのよね…だからあなたが王宮で働くことになれば、あなたから色々外の情報も仕入れられるし」
「都合がいいって、お前にとっての話か…」
「あなたにとっても仕事と衣食住が一気に確保できるんだし、いい話だと思うわよ?」
「まぁ、そうかもしれないけど‥」
確かに仕事だけ紹介されたところで、生活ができるわけではない。
住居も確保できるというのは願ったり叶ったりではあるが…
「そもそも王宮で働くなんてそんな簡単に行くのか…?」
「そこはあなた次第ね。でも王様には会わせてあげられるから、気に入られるように頑張って」
「…お、おう?」
話しているうちに遂にヴェレストリア王国へと辿り着く。
馬車から見るだけでも王国というだけあって街が比較的栄えていることが分かる。
しかし外壁などが破損したまま放置されているところから、過去に魔王軍の襲撃を受けたことや、修繕費等が工面できていない実情が伺えた。
「いたって平和、ってわけじゃなさそうだな」
「うん。ヴェレストリアみたいに魔王軍に抵抗する意志がある国は執拗に攻撃されるの…何とか持ちこたえてはいるけどね」
「いっそのこと魔王軍に下っちまうわけにはいかねぇの?」
「そしたら奴隷になる覚悟を決めるしかないわね」
「シビアだな…」
「えぇ、だから勝ち目がなくても抵抗するしかないのよ」
「なるほど、大体分かったよ」
「さて、王宮に着くわよ。心の準備、いい?」
「あぁ、オッケーだ」
「じゃあ行きましょう。あ、くれぐれも変なこととか言わないでくださいね?」
馬車を降りる直前になって、有栖の口調が出会った当初の丁寧な物に変わる。
なるほど、対外向けにはこのキャラで通してる訳か。
有栖聖女モードとでも認識しておこう。
そんなことを考えながら俺は馬車を降り、有栖の後に続いて王宮へと足を踏み入れたのだった。