第4話〜邂逅、2人の転生者〜
この世界にもう一人いるという転生者。
そいつはこの世界を救うために遣わされた人物らしい。
どこかで適当に暮らせと言われた俺とは対象的な存在である。
それゆえに…
俺が目にする機会はまずないと思っていた。
しかし予想に反しそいつは俺の前に現れた。
それも転生からわずか数時間で…
「ははは。何が気楽な余生を暮らせだよ、あのクソ女神め…」
転生直後に魔王軍や転生者と遭遇し、気楽な余生を過ごすはずの町は既に焼け野原。
女神が言っていた話と真逆のことが起きすぎて、乾いた笑いしか出てこない。
「あの…大丈夫ですか?」
俺が絶望に浸っていると、心配した聖女が声をかけてきた。
「あ、あぁ大丈夫…。さっきはありがとな、ホント助かったよ」
「気にしないでください、これが私の仕事ですから!」
優しく微笑みながら、ポンッと胸を叩いてみせる聖女様。
聖女というだけあって、人間もかなり出来ているらしい。
「ところで…これからどうされるんですか?」
聖女は心底俺を心配するように聞いてくる。
もう一度町を見渡すが、町の大半は焼け落ち、原型など残っていない。
そしてこの様子では生き残りも俺以外いないのだろう。
「ま、少なくともここで暮らしてくのは無理だろうな」
「そう、ですね…」
軽く返したつもりだったが、俺の返事に聖女の顔が曇る。
「ごめんなさい、私がもっと早く着いていれば…」
「いや、聖女様は悪くないけど…」
どこまでも真っ直ぐな子だ。
命を救った恩を着せるくらいの事はしてもいいはずなのに、まさか遅れてきたことを悔いるなど。
だがこの性格、もしかすると利用出来るかもしれない。
俺の頭に名案が浮かんだ瞬間、急に当たりが騒がしくなる。
「聖女様、ご無事でしたか!」
鎧を来た集団が聖女に駆け寄ってくる。
彼女が所属する国の騎士団か何かだろうか。
「はい、おかげさまで」
騎士の問いかけに聖女が笑顔で答える。
「生き残ったのはこの方だけです、安全な場所にお送り頂けますか?」
「はい!お任せ下さい!」
聖女は俺をこの騎士たちに預けようとしているらしい。
これはまずい、これを逃せば俺のような一般人が聖女に会う機会などもう二度と現れないだろう。
思考を巡らせて、何とか聖女をこの場に留める策を練る。
そして俺の脳裏に1つの案が浮かぶ。
半分賭けだが…まぁやってみるしかない。
「聖女様、最後に1ついいか?」
「はい、なんでしょうか?」
俺の方へ振り返った聖女に近づき、俺は彼女の耳元ってそっと囁いた。
「あんた…転生者だろ?」
「なっ…何のことでしょう?」
俺の一言に一瞬顔を引きつらせる聖女様。
すぐに笑顔に戻ったが明らかに動揺しているようだ。
これはもしかしたら行けるかもしれない。
「違うのか?」
「さ、さぁ…あなたが何を仰ってるのか私にはさっぱりで…」
「そうか、じゃああっちの騎士達に聞いてみるわ」
そう言って俺は騎士に駆け寄ろうとしたところ、強い力で腕を引っ張られる。
「待って!!!!」
聖女は俺を強引に引き寄せると
「あ、あの!この人まだ心の傷が癒えてないみたいで…やっぱり私が安全な所まで送っていきますね!」
そう騎士達に告げた。
「え、心の傷とか特にないけ…」
「いいから、ね?」
顔こそ笑顔だが物凄いオーラを出しながら俺を見つめる聖女様。
「あ、はい…」
そのオーラに負けて、気がつくと俺は首を縦に振っていた。