第32話〜魔女の魔法と真犯人〜
「あんたが呪いの魔女か?」
妖艶な笑みを浮かべる黒髪の女性に俺が問いかけると、彼女はつまらなそうに答える。
「最近はそうよばれてるみたいね。呼び方なんてどうでもいいけれど、失礼な話よね」
そう言いながら彼女は掌を前に突き出す。
すると、周囲の瘴気が一気に晴れていく。
「なるほど、ようやくお目当ての魔女を見つけられたってことだ」
ガスマスクを取りながら俺が問うと、訝しげな顔で魔女はこちらを見つめる。
「ふーん、じゃあやっぱりあなた達の目的は私を殺しに来たってことでいいのかしら?」
「そういうことだ」
「へぇ~、随分勇敢なものね。たった2人で私に挑もうだなんて」
余裕たっぷりの笑みを浮かべる魔女。
どうやら自分が敗北するという可能性は全く考えていないらしい。
「貴女に恨みはありませんが…この国の人達を苦しめているのなら見過ごすわけにはいきません、お覚悟を」
有栖はそう言うとダインスレイヴを召喚する。
「“魔剣”ダインスレイヴか、随分珍しい武器を持ってるじゃない」
「ダインスレイヴは杖です!!」
「は?何そのこだわり…まぁいいけど」
「有栖、援護するから前衛任せるぞ?」
「いいですけど…誤射とかしないで下さいねっ!」
そう言うやいなや真正面から魔女に特攻をかける有栖。
だがそんな有栖を見ても魔女は身動き1つしようとしない。
チャンスと見た有栖は魔女に全力の斬撃を繰り出す。
斬撃は見事命中し、魔女を仕留めたかに思えた。
だが…魔女の体は煙を斬った時のように一瞬歪んだだけで、すぐに再生してしまった。
「これって…」
「そ。あなたが斬ったのはただ私が見せている幻覚よ。いわゆる幻影魔法ってやつね」
「なっ…それって…」
「実体を攻撃しない限り私にはダメージが入らないってこと。さ、本物の私はどれかしら」
魔女がパチン、と指を鳴らすと、無数の魔女が俺達の周囲を取り囲む。
「こんなの…見つけられるわけ…」
「慌てんな、これが全部幻影だって言うなら…」
無数の魔女にたじろぐ有栖を制しながら、俺は手元の端末に目を落とす。
「予想通り、熱源反応を追えば…」
言いながら、端末が指し示す熱源の方向に拳銃を構え、それを放つ。
「お前が本物だろ」
弾丸は正確に目標を捉え、魔女の脳天を撃ち抜いた。
のだが…
「大正解♪こんな一瞬で見破るなんてやるじゃん!」
頭を撃ち抜かれたはずの魔女は平然とした顔で笑いながら称賛の言葉をかけてくる。
その直後に撃ち抜いた箇所を中心に白い光が生じ、一瞬で魔女の傷が消えてしまった。
「おいおい、魔女ってかただの化物じゃねぇか…」
「失礼ね、ただの回復魔法よ」
「…致命傷を一瞬で治す回復魔法なんてそんな魔法あるわけありません!!」
魔女の魔法がよほど規格外だったのか、有栖が強い口調でその言葉を否定する
「あら、バレちゃった?確かに今のは回復魔法ではないわね。でも結果として治癒している事実は変わらないし、回復魔法でいいでしょ?」
「だからってあの致命傷を一瞬で…」
「いや、そのくらいなら一流の魔女や魔族なら誰だってやってるでしょ…?あんた達変な魔法を使うくせにそんな事も知らないわけ?」
「あいにく、この世界の常識に疎いもんでね」
「は…?待って、それってまさか…」
俺の皮肉を込めた返答を受けて何かに気づいた様子の魔女。
慌てて何かを言いかけようとしていたのだが、直後に俺達の背後から大きな爆発音が響いた。
「なんだ!?いきなり…!」
「あぁもうっ!また来た!」
爆発音で何かを察したのか、魔女は頭を抱えながらそちらに向けて歩きだす。
「なっ、テメェ逃げんのか!?」
「うるさい!そんな三下の小悪党みたいな台詞聞かせないでよ!…あんた達と遊んでる暇がなくなったのよ」
「それは…今の爆発音が原因ですか?」
「まぁそうなるわね…、ちょっと片付けてくるから、もう帰ってくれる?」
「はぁ、知るかよ。俺達はお前を殺しに来たんだぞ?」
「残念だけどあんた達じゃ無理よ、時間の無駄だから帰って」
そう言って俺達に完全に背を向けてしまう魔女。これはチャンスだ、このまま後ろからミサイルでもぶっ放してやる。
そう思ってスキルを発動しようとしたところ。
「遊斗、待って下さい」
と、有栖から待ったがかかる。
「なんだよ?今チャンスだろ?」
「いいから。ちょっとここは私に任せて」
有栖は何か考えがあるようで、一瞬素に戻って俺を制止する。
そして先ほどとは打って変わって、魔女に優しく語りかけるように問いかけた。
「あの魔女さん、1つだけ教えてくれませんか?」
「…なに?忙しいから手短にして欲しいんだけど」
「さっきの爆発、沼地の瘴気と関係がありますよね?」
「…」
「もしかして爆発を引き起こしたのが、瘴気を生んでいる真犯人なんじゃないですか?」
「は?ギルドでこいつが原因だって話聞いたろ?」
「多分…エルグラシアの人達が誤解しているんです」
「なんでそう思う?」
「魔女さんからはこちらへと敵意を一切感じませんから。実際彼女からこちらに攻撃はしてきていないでしょう?」
「まぁ…それはそうだが」
「真犯人は他にいると思います。魔女さんはむしろ…」
「ちょっと、余計な詮索しないでくれる?」
俺達の会話を聞いていた魔女が不愉快そうに有栖の会話を遮る。
「ごめんなさい。でも私は真実が知りたいんです」
真っ直ぐ魔女を見つめてそう訴える有栖。
そのまま少し沈黙の時間が流れる。
やがて有栖の愚直さに負けたのか、魔女が大きな溜息をついた。
「…はぁぁ、分かった。本当のことを教えてあげる、その代わりちょっと付き合ってもらうわよ?」
「あの…付き合うって一体何に?」
有栖の問いかけに対して、一呼吸置いた後怪しげに微笑み魔女は答える。
「魔王軍狩りよ」




