第22話〜2人だけのゴール〜
「あなたと2人で交渉って…成功する気がしないんだけど…」
ミナ女王からの命を受けて数日後、準備を整えた俺と有栖はアーカシア帝国へと向かうため馬車で移動していた。
…のだが、有栖はそれが何故か不満のようだった。
「いや、俺結構交渉得意だぞ?初対面の時のこと忘れたか?」
初対面の時、有栖には俺をヴェレストリアに連れて行かせるため匠な交渉術を見せたことがある。
あれを体験した以上、俺の話術に疑う余地などないはずだが…
「…あなたが得意なのは交渉じゃなくて脅しでしょ?」
「いやそんなことは…まぁそうとも言うか?」
「はぁ…もう前途多難すぎ…」
とまぁこんな様子で陸路を移動していたのだが、しばらくして俺のスキルについての話になった。
「そういえば気になってたんだけど…あなたのスキルって魔法なの?」
前方の机に頬杖をつきながら有栖が尋ねてくる。
「ん?あぁワールドアクセスな、魔法ってわけじゃないと思うぞ、呼び出せるのも基本重火器とかばっかだし」
もしこれが魔法なら俺がいた世界の重火器を召喚するなどというまどろっこしいものではなく、攻撃系の魔法を出せたほうが明らかに効率が良いはずだ。
「でもそれにしては色々都合良すぎじゃない?ドローンだってバッテリー関係なく飛んでたし、銃だって基本リロード無しで使えるわけでしょ?」
「まぁ言われてみれば確かにな…」
「魔法というにはあまりにも特殊だけど、それにしても何かしらの魔法の力はこもってる気がするのよね」
「そういうもんかね…でも仮に魔法の力だったとしても特に何ってわけじゃないだろ?」
魔法であろうとなかろうと、ワールドアクセスの本質は変わらない。
だったら力の源に拘る必要なんてないだろう。
「ううん、もしそれが魔法の力の一端だとしたら…もっとスキルの幅を拡張させる事ができるかもしれない」
「…?どういうことだ?」
「この世界の魔法ってね、所有者の魔力とか熟練度の向上に合わせてより強いものになっていくの」
「つまりレベルアップしたらより強力なものが使えるようになると?」
「ざっくりだけどそういうこと。ほら、今って私達がいた世界から武器や道具を呼び出すだけの力でしょ?」
「そうなるな」
「今は一方的に向こうの世界から物を取り出すだけの能力だけど、もしそれがレベルアップするとしたら…」
「こっちの物を送り込むことが出来るようになる、とかか?」
「そう!そして物だけじゃなくて人も送れたとしたら…」
ここでようやく有栖の真意に気がつく。
「なるほど、元の世界に帰る事ができるかもってことだな」
「そういう事。まぁ私達は向こうで一度死んじゃってるから、色々問題はあるだろうけど…」
「まぁ試してみる価値はありそうだな」
向こうの世界に未練がある訳ではないが、こっちの世界はあまりにも物騒すぎる。
将来の保険として元の世界に戻れる可能性があるなら、そのカードは持っておくべきだろう。
「とりあえず、いったん私達2人の目標ってことで心には留めておいてくれる?」
「りょーかい」
この世界で一つ明確な目標ができた。
それは今の俺達にとってはかなりの朗報といえるものだった。
ー
ーー
ーーー
数日間の移動の後、俺達は目的地であるアーカシア帝国領地付近に辿り着いた。
「いよいよね、準備はいい?」
「心の準備はな、ただそれ以外はこれからだ」
「え?何の話?」
「ま、こっちの話だよ」
勝ち目が薄い交渉である以上、真正面から話すだけでは全く足りない。
であれば、他の方法でアプローチをかける必要があるだろう。
ゆえに…
―ワールド・アクセス―
俺は心のなかでひっそりと自身のスキルを唱えた。
「さて、いっちょ交渉といきますか」
「色々不安だけど…もう着いちゃったしね、やるだけやってみましょう」
こうしてそれぞれに覚悟を決め、俺達はアーカシア帝国へと足を踏み入れるのだった。




