第21話〜新たなる王と初任務〜
魔物の襲撃から一夜明け、俺と有栖は辛うじて焼け残った玉座の間に来ていた。
今日はミナ王女の即位式が行われるためである。
とはいえ、ヴェレストリアで生き残ったのは全員合わせて20名程度。
一国の一大行事とは思えないほど簡素なものだった。
「ただいまより王剣の賜与を行います」
即位式の進行はティアナさんが行っている。メイドが進行というのも若干違和感があるが、現状彼女以外に適任はいないだろうな。
「それではミナ王女、こちらを」
ティアナさんからヴェレストリア王の証である、王剣を受け取るミナ王女。
この剣は名をクラウ・ソラスと呼ぶらしく、所有者に光を与える剣と呼ばれているらしい。
エドワード王の遺体の傍らに落ちていたことから、彼も最期の瞬間までこの剣で魔王軍と戦っていたのだろう。
その意味ではミナ王女にとってこの剣は父の形見と呼べるかもしれない。
「それでは王剣の賜与を持って、ただいまよりミナ・ヴェレストリアを我が国の第13代国王と認めます」
その言葉とともに、彼女は剣を鞘に納め俺たちの方に向き直る。
こうしてここにヴェレストリアの新たな国王、ミナ・ヴェレストリア女王が誕生することとなった。
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「さて、即位式は終わりましたが…問題はここからですね」
即位式が終わって早々に、俺と有栖はミナ女王に別室へと呼ばれていた。
「ま、王がいるといっても、今はお世辞にも国って呼べる状況じゃないですしね」
「ユート、そんなにきっぱり言わないで下さい…!」
俺の口から出た率直な感想をたしなめる有栖。
「良いのですよ、実際今のヴェレストリアが王国と呼べないのは確かですから」
「ミナ様…」
「今のヴェレストリアには人材、資源、資金、その他諸々全てが足りていません、1つずつでもその辺りを整えて行かないといけませんね」
ヒト・モノ・カネ。これらが無ければどんな組織も回らない。
その辺りを踏まえている辺り、さすがは一国の主というべきか。
「ちなみに、具体的なプランはなんか考えてるんです?」
「ええ!そのために2人を呼んだんですから」
俺の質問を待ってましたと言わんばかりに100点満点の笑みを浮かべるミナ女王。
…なんか、嫌な予感がするな。
「これから2人には最強の軍事大国と名高い大国、アーカシア帝国へと向かってもらいます」
「それは…何故に?」
「それはもちろん、軍事同盟を結ぶためですよ!」
嫌な予感的中。
この女王サマはどうやらとんでもない無理難題を押し付けるために俺達を呼びつけたらしい。
「いや…軍事同盟ってそんなん無理に決まって」
「そ、そうですよミナ様!さすがにこちらには交渉材料が何も…」
「交渉材料ならありますよ、それこそとびっきりのね」
俺達の反論も想定通りだったのだろう、女王サマは余裕たっぷりに微笑んでみる。
その様子に少し不安そうな有栖。
どうやら彼女も何かを察し始めているらしい。
「あの…一応聞きますけどその交渉材料ってなんでしょうか?」
「ウチには規格外の戦力、異世界転生者が2人もいるではありませんか。それをカードとして切れば手を組みたいという国家も少なくないはずでしょう?」
あぁ…やっぱりそういうことか。
「で、ですがミナ様!私達が異世界転生者であることが知られてしまったら、魔王軍に狙われる確率がさらに高く…」
「どちらにしても近い将来また魔王軍が攻めてきますよ、それも前回よりも強力な軍勢を従えて」
狼狽える有栖と対照的に平然とそう述べる女王サマ。
「なんで…そんな事が…?」
「そりゃお前が部隊長の一人をぶっ倒したからに決まってるだろ」
「その通りです。魔王軍最高戦力の部隊長がヴェレストリアのような小国に滅ぼされたというのは、魔王軍にとっても想定外のことだったでしょう」
「それは…確かにそうですけど…」
「であれば必然的に彼らが考える事は…」
「ヴェレストリアには未知の戦力が存在する、ってことだろうな」
俺と女王の言葉を聞いて押し黙ってしまう有栖。
「つまり、例え俺達が異世界転生者だとバレてなくても、未知の戦力という括りで数えられてる以上、魔王軍は全力で潰しに来るってことだ」
「だからこそ…今はどんな手を使ってでも戦力を強化する必要がある、と…」
「そういうこと」
「お二人とも理解が早くて助かります。勝ち目の薄い話だとは重々承知していますが、この国の未来のために…良いお返事が聞けることを祈っています」
こうして俺達はミナ女王の頼みを引き受け、世界屈指の軍事大国と同盟を結ぶために動き出すこととなった。




