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第2話〜始まりの町〜

 眩い光に包まれたあと、気がつくと俺は知らない場所に立っていた。

そこはなんとも牧歌的な風景が広がる場所であり、雰囲気的にはどこかの村のようだった。


 だが村といっても日本の農村のようなものではなく、どちらかといえば西欧の小さな町に近い。


 異世界転生では西欧風の場所に飛ばされるのが通例だが、そのお約束はしっかり守られているようだ。


「さて…これからどうすっかな」


 ほんの数十分前まで学生だったというのに、いきなり異世界に連れてこられて、放置されても何をしていいのやらさっぱりだ。

 あの女神め、転生させるなら最低限のフォローはするべきだろう。

Z世代を舐めないでもらいたい。

 とはいえ文句ばかりも言ってられないので、俺はどこかのギルドを探すことにした。


「やっぱり異世界転生と言ったらまずはギルドだよな」


 安直かとも思ったが、今のところお約束通りの展開だ。

この流れに沿うならギルドもあって然るべきだろう。だが…


「ギルドはおろか、まともな店すらないじゃねぇか…!」


 俺がいる町は想像以上に小さいようで、数えるほどの民家以外他には何もないようだった。


 適当に冒険者にでもなって、楽しく暮らすかなどと考えていたところに、いきなり出鼻を挫かれてしまった。


 大きな町を目指して移動するべきだろうか、まずは近くの地理を把握しないとな。

あれこれ考えを巡らせていると、その町の住人と見られるの初老の男性に声をかけられた。


「あんた見慣れない顔だね。よその町から来たのかい?」


「はい。結構遠くから来たんすけど、途中で道に迷ってしまって気が付いたらこの村に…」


 異世界転生者です。と馬鹿正直に答えても面倒な事になるだけだ。

そう考えた俺は言葉を濁しながら、ここに来た経緯を伝えた。


「そうかい、どこか行くあてはあるのかい?」


「いや、それがどこも…」


「なるほどなぁ、本当に迷っちまったのかい」


「えぇ…まぁ…」


「そうか、よしじゃあ付いておいで」


 そう言ってじいさんは歩きだした。

いきなり付いてこいと言われても怪しさしかないが、少なくとも敵意は感じない。

 他にできることもないので、俺は黙って後ろをついて行くことにした。


「ここだよ」


じいさんは一軒の家の前で立ち止まる。

そこは他の家よりも幾分か大きかった。


「わしの家だ、さぁ入ろう」


 そう言ってじいさんは扉を開け、中に入るよう促してくる。

 異世界の初対面の人間の家に入るのは正直躊躇われたが、とりあえず行動しなければ現状は変わらない。

迷いながらも俺はじいさんの後に続いた。


−−

−−−


「何もねぇ場所だけどよ、茶ぐらいはだせるからそこ座っといてな」


「はぁ…でも俺金持ってないっすよ?」


「そんなん取らんよ、気になさんな」


 どうやらじいさんは俺をもてなしてくれるらしい。

見返りもなく人を助けるとは、稀有な人間もいるもんだ。

しばらくするとじいさんは、年季の入ったコップを2つ持ってきて、1つを俺に差し出してきた。


「薬膳茶だ、口に合わんかもしれんが、疲れは取れるよ」


「はぁ、どうも」


挿絵(By みてみん)


 おそるおそる口をつける。なるほど確かに薬っぽい雰囲気はある。

だが味は緑茶に似ており、比較的飲みやすかった。


「お前さん、これからの予定は決まってるのかい?」


お茶を2,3口飲んで落ち着いてきたところで、じいさんが俺に尋ねてきた。


「正直あんま決まってないんすよね。どっかの町に行って、ギルドに入って冒険者にでもなろうかなー、くらいです」


「冒険者ねぇ…あんたの考えを否定する気はないけど、正直冒険者になるのはオススメできないね」


「何でですか?金払い悪いとか?」


「知らんかもしれないが、最近魔王様が冒険者狩りを始めたと聞く。冒険者というだけで魔物に襲われる危険が上がっちまうんだよ」


「魔王、、ね。まるでゲームだな」


「はて、げえむとは?」


「いや、何でもないっす」


 この世界にさすがにゲームなんてある訳が無い。

変な人間だと思われることのないように慌てて取り繕う。

一瞬じいさんは訝し目に俺を見たが、特に気にせず話を続けた。


「物騒な世の中になったもんだよ、この町も魔王が出てくるまでもう少し栄えていたんだ。だが魔王が世界を支配してからというもの、生きていくのもやっとになっちまった」


「そうだったんすか」


「あぁ、だからアンタもくれぐれも気をつけた方がいい。魔王領から離れているこの辺りにだって最近魔物が増えてきたって話だからな」


「なるほどね、冒険者になるのは辞めときますよ。じゃあ他になんか仕事探さねぇと」


 じいさんの忠告をありがたく聞き入れ、俺はもっと平和な仕事に就こうと決意した。


「職を探しているなら、あんたさえ良ければ、この町で農業を手伝ってくれないかい?」


「農業?」


「あぁ、農業はこの町の生命線だが、もう若い男がいなくてね。あんたが手伝ってくれるならとても有り難いんだ」


「なるほど…」 

 

「貧しい町で金は殆どだせねぇが、余ってる家と食べ物ぐらいなら出してやることが出来るよ」


 住処と食事の提供、これは願ってもない提案だ。

仕事は過酷そうだが、生き抜くために今は仕方ない。


「わかった、その提案ありがたく受けるよ」


「おぉ本当かい!助かるよ」


 じいさんは心底安堵したような顔をしていた。

想像していた異世界転生とはだいぶ違うが、第2の人生はここで農夫としてひっそりと暮らそう。

そう決意した時だった。


「魔物だ!!魔王軍が攻めてきたぞ!!」


家の外から男の恐怖に満ちた声が町に鳴り響いた。

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