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第169話〜遊斗VS有栖⑥〜

‐遊斗Side‐


俺の元に迫る漆黒の斬撃…有栖がこれまでの戦闘で幾度となく使用してきた得意技。


それがまさか俺に向けて放たれる日が来ようとは。


「…へぇ、正面から見るとこんな感じなんだな」


俺の口からふとそんな感想が漏れる。

正面から見るだけでここまで威圧感があるとは思わなかった。


そしてそれ故に、決死の覚悟で防がなければ死ぬことも容易に想像できた。


「頼むぜ、レーヴァテイン…」


その斬撃に対抗するために、俺は右手に握られた聖剣にありったけの魔力を付与する。


そして同時に強くイメージする、この聖剣を使う少女の姿を。


刹那、レーヴァテインの刀身から眩い光が溢れ出す。


「いけっ…!!」


俺が迫りくる真っ黒な斬撃に向けてレーヴァテインを振り下ろすと、対照的な純白の斬撃が放たれる。


俺の放った斬撃は真っ直ぐに黒い斬撃に向かっていき、やがてぶつかる。

そのまま白と黒の斬撃は衝突の衝撃で激しい爆風を巻き起こし、やがて対消滅していった。


「…まさか」


さすがの有栖も自身の放った得意技がこんな形で相殺されるとは思っていなかったらしく、驚きの顔を浮かべている。


「…持っているのはイメージだけだったが、案外上手くいくもんだな」


そう、俺が今やったのは所詮フィオの真似事だ。


技自体フィオが以前に見せた神聖魔法による斬撃波を模しただけだし、使った神聖魔法だって魔力付与により擬似的に生み出しただけのもの。


いわば全て借り物の力だけで再現した一撃に過ぎない。だが、それでも有栖の一撃を防げるのなら今は充分だ。


「…神聖魔法。ふふ、遊斗がそれを使うのは少し違和感があるね」


「そうだな、それに関しちゃ俺も同意見だ」


有用だから使っちゃいるが、俺がこの世界に愛されたものだけに与えられる聖なる魔法を操るというのは、なんともおかしな話だ。


俺は元々手違いでこの世界に送られた流れ者。

本来ここにいるべきではない存在。


そういった意味で世界に愛されるとは対極的な場所にいるのだから。


「…でも、そこまで本気で食いついて来てくれるなら、私も本気で戦わないと失礼だよね」


そう言って有栖が俺に向けて微笑むと、周りの雰囲気が一変する。


「これは…」


どこか暖かく、されど全身を突き刺すような冷たさを持っている…


そんな異様な空気が俺たちの周りを支配する。

そして、その空気の中心にいる少女はある種の決意を持った目でこちら見つめ、小さく呟く。


「見せてあげるね、私の力を」


挿絵(By みてみん)


その言葉と同時に感じたことのない圧倒的なドス黒い魔力がまるで黒い雨のように俺の全身に降り注ぐ。


「…っ!!!?」


これは決して攻撃ではない。ただ目の前の少女が魔力を解き放っただけだ。

だと言うのに…この重圧にあてられただけで、俺はプレッシャーで失神しそうになる。


「…魔赫の力、本当はあんまり使いたくなかったんだけどなぁ」


周囲がこれだけ異様な空気に包まれていても、少し残念そうにそう呟く有栖の様子は、先刻までと少しも変わっていない。


まぁそれも当然ではあるか…この空気を生み出しているのは他ならぬ彼女なのだから。


「ほんっと、化け物がよ」


「…仮にも元仲間で同郷の相手にそんな事言っちゃうんだ。さすがに、ちょっと傷つくなぁ」


「ざけんな、これは有栖の魔法じゃねぇだろ」


「…ふふ、なるほど。化物っていうのはあくまで私個人に言ってるわけだ」


「あぁ。だからこっから先は…化物退治といかせてもらうぜ」


不敵な笑みを浮かべるもう一人の有栖。

彼女が魔赫の力を使ってから、より一層別人格の有栖の存在が強く感じられるようになった。

同時に姿形が同じでも、やはり目の前の少女が俺の知っている白崎有栖とはまったくの別人であることを再認識することが出来た。


だからこそ…そんな別人にいつまでも有栖を好き勝手させておくわけにはいかない。

その決意が威圧に負けて動かなくなりそうな俺の身体を自然と突き動かした。


「化物退治、ね。そっか…出来るといいね」


声色こそいつもの有栖のままだが、別人のような冷たい目で一瞥される。

ここからが彼女の本気と見て間違いないだろう。


レーヴァテインを強く握りしめ、有栖に向き合う。


「行くぜ…」


向こうの出方を悠長に伺っている余裕などはない。


俺は時間魔法による身体能力強化をフル回転させ、一気に彼女との距離を詰める。

当然、そんな単調な動きで突っ込んでも返り討ちにあうのみ、故に…


「ワールド・アクセス!!!!!」


俺の身体を覆い隠す数百のドローンを一度に呼び出し、それらを一気に有栖に向けて突撃させる。


「…今さらこんなので何が出来るんだか」


有栖は落胆したように小さくため息をつくと、手を前にかざす。

するとそれを合図に漆黒の球体が現れ、まるでブラックホールのようにドローン達を吸い込んでいった。


あっという間に数を減らしていくドローン達。

これでは満足な時間稼ぎにもなりはしないだろう。

…だが、それでも構わない。


俺の狙いはたった一瞬でも彼女の気を俺から逸らすことなのだから。


「終わりだ、有栖…」


声の方に有栖が振り返ろうとする。


だが、もう遅い。



次の瞬間…有栖の身体をレーヴァテインが刺し貫いたのだった。





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