第16話〜ワールドアクセス〜
「どうしてこれを俺に…?」
転生者に関する本を渡して来たミナ王女。
だが、俺は彼女に自身が転生者であることは話していない。
その事実を知っているのは有栖だけだが、彼女もそんな話を王女にするはずがない。
だというのに…
「ご自身に関する知識を深めるのは大事だと思います、特に今のような状況では」
王女の口ぶりは俺が転生者であることを確信しているようだ。
突然の展開にさすがに動揺を隠せない。
「…王女は、俺が転生者だと?」
「えぇ。そう思っています」
「それは…一体なぜ…?」
「あなたの知識や発想は明らかにこの世界の人々とは異なっていますから」
優しそうに微笑むミナ王女。
「いや、そんな事は…」
否定はしてみるものの、恐らくその言葉に意味はないだろう。
しかしわずか数時間一緒にいただけで俺の正体に気づくとは。
鋭い女だと思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
しかし、なぜ知識や発想という観点だけで転生者という存在に辿り着けるんだ…?
「それに…あなたは雰囲気が彼女にそっくりですもの」
「彼女…?」
「分かるでしょう?アリスです」
王女が優しく微笑みながら答える。
「まじかよ…」
こいつ有栖の正体まで分かってたのか。
確かに有栖が転生者だと知っていたなら、俺の正体に気がつくのも不自然ではない。
だが、そもそもなぜ…
「どうやって有栖が転生者だと気がついたんです?」
「聖女アリスの力はこの世界の魔法と一線を画しています。聖女だから特殊な力が使える、そういった次元ではなく、そもそも魔法の質が違うんです」
「よく分からないですが…つまりその質が見抜けるものなら、この世界の人間じゃないことに気がつけると?」
「えぇ。ただそういった魔力感知に長けた人間はあまり多くないので、基本は気が付かれないと思いますが」
実際お父様を含めて、この国で他に気がついている人はいませんでしたから。と続けるミナ王女。
「つまり今俺達の存在に気づいているのは…」
「はい、私だけです」
「なるほど…ところで王女は俺達の存在を誰かに伝える予定は…?」
その質問に対する張り詰めた空気を察したのか、王女は優しく微笑みかけてきた。
「あぁ、安心してください。あなた達の存在が知られれば、魔王が黙っていないことくらいは分かります。だから誰にも言うつもりはありませんわ。」
「…それなら良かったっす」
確かに俺達の正体が知られて困るのは彼女も同じだ。
そういった意味でこいつは信用してもいいだろう。
「さぁ、あまり時間はありませんわ。とりあえずこちらを読んでみて下さい」
改めて彼女から転生者に関する本を渡される。
ページを開くと何とその本は…
―全て日本語で書かれていた―
―
――
―――
「なるほど…」
この本には転生者の存在意義や、与えられるスキルの情報がかなり細かく書かれていた。
ざっくり要約すると、世界に平和をもたらすために異能の力を用いて戦う救世主。
それがこの世界の転生者に対する認識のようだ。
確かに有栖の役割はまさに救世主って感じだな。
そして転生者は例外なく他者を超越する特別なスキルを有しているとの記載もあった。
それが本当なら俺にも何らかのスキルが付与されていることになる。
「しかし肝心なスキルが何なのか分からなけりゃ仕方がな…」
思わず悪態を付きそうになるが、本にはご丁寧にもスキルを確認する方法も書かれていた。
【転生者は心の中でスキル表示と唱えれば自身のスキルの確認ができる】
なるほど、まさにゲームの世界だな。
でも迷っている暇はない、俺はすぐに【スキル表示】を唱える。
すると俺の心にはっきりと言葉が浮かんだ。
【ワールドアクセス】
―異世界の能力や武器を投影し操る力―
何とも曖昧なスキルだな、つまり何か?
俺の元いた世界の武器や道具を使えるということか…?
まぁものは試すしかないか…
「スキル発動…ワールドアクセス…!」
俺が唱えた瞬間周囲が眩い光に包まれる。
次の瞬間、俺の手には黒光りする鉄の武器。
拳銃が握られていた。




